奇襲
更新が遅くなりまして申し訳ありません・・・!
スライムがあんな凶暴な魔物を倒そうとか、なんて無茶な話でしょうね。
まぁでも複雑ですけどこの小さな体。力はないし速くも動けませんが、ほんの少し遮る物があれば隠れる事が出来て便利かも?
魔力を練り上げつつ移動し、小さな岩陰などに隠れて目の前の攻防を注視する。
一角猛虎はその名の通り、額から一本の角を生やした凶暴な虎の魔物です。その攻撃方法は主に凶悪な爪か角による物理攻撃で、魔力は低い。魔力の気配で察知されることはないでしょう。
一角猛虎の攻撃を必死で躱す幼子。竜族のあのコは飛んで逃げれる筈なのに、と疑問でしたが……翼膜が裂けて飛べなくされているようです。きっと最初にやられたのでしょうね。でなければ飛んで逃げれたはず。
それにしてもどうしてあのコが一人でこんな場所に───
「!!!」
鮮血が、飛び散る。
人の指の長さ程もあろう一角猛虎の鋭い爪が肉を抉り、幼い身体に痛々しい赤が……っ!
(~~~耐えろっ!!まだ、まだ駄目です…っ)
飛び出したい衝動を必死に堪え、何とか耐えきる。
先程から何度耐えたでしょう。……あぁ、なんて不甲斐ない。
今の私には、あの爪で反撃されれば避ける術もありません。あのコを助けるには奇襲による一撃で仕留めるしかないのです……っ
チャンスを、待つしかありません。
───眷属のあのコの身体はもうボロボロで、翼も飛べない程に傷つけられています。あのコも必死で反撃しているようですが、多少は傷ついていても明らかに一角猛虎には余裕がある。
対してあのコは薄い水晶色の身体から何か所も血が流れて……。脚にも怪我をして、そのせいであのコは逃げる選択肢を失い、今こうして攻防を繰り広げる結果となったのでしょう。
……皮肉ですが、あのコが脚を怪我したのは良かったかもしれない。
飛翔において竜に敵う者はいませんが、地上では一角猛虎の方が速い。脚を怪我しなかったとして飛べないあのコが逃げ切れる可能性は低い。逃げるより攻防に意識を切り替え隙を窺わなければ、親元に辿り着く前に殺されると判断したのでしょう。
そして結果的に移動が少なくなり、今の私の移動速度でも追いつくことが出来た。
もっとも成長した竜ならばその程度の制限があっても関係なく、あの程度は簡単に屠れるのですが。まだ幼いあのコには難しい───
「───!!」
来た!!
とうとう幼子の水晶色の身体が、鋭く尖った爪で地面に引き倒され、縫い留められる。身体をよじり必死で逃げ出そうとする幼子。その様子を一角猛虎が余裕たっぷりに見下ろして、
───凶悪な牙を幼子の首に突き立てんと、大口を開ける瞬間
私が放った水の塊が、一角猛虎にぶつかり大きく後方へ吹っ飛ばした。───
(よし、離れた!!)
狙い通りあのコから一角猛虎を離すのに成功!これで多少アイツが暴れても問題なしっ
水の魔法というのは、単独では攻撃には不向きとされる魔法です。敵の身体を圧し潰す程の水なんて上級の水魔法じゃないと生み出せない。中級じゃ人が一人、座って肩まで浸かれる程度の量しか出せやしない。
魔力で水を持ち上げ敵に飛ばすから、その速度も個人差はあれど馬より速いぐらい。敵の身体を貫こうと思ったら風の魔法との混合魔法が必要になるから、今の水魔法しか使えない私じゃ不可能です。
───でも。やりようによっては十分に戦える。
さっき、アイツの口へ大量に水が入るように狙いを定めた。魔力を操り、魔物の口の更に奥へと水を潜らせる。くわえて慌てて息を吸おうと開いた口へ、更に大量の水を送り込む。
奴が苦し気に四肢を跳ねさせ暴れまわるけど、距離的に私にもあのコにもその爪が触れることはない。
生きてる以上、呼吸が必要なのはどんな種族でも変わらない。なら呼吸する為の気道を塞いでしまえばそれで終わりだ。
魔力で操られた水は、飲みこもうとしても飲み込めずに私の意のままに魔物の呼吸を奪う。
息を吸おうにも吸えない苦しさを、私の眷属たるモノを傷つけた報いをたっぷりと味あわせ。
この生において初めて、私は他者の命の灯を消し去った。
水の中でもないのに息を吸おうとしても吸えないって、マジで苦しいし焦りますよ(経験済み)