後日談
龍人祭から三か月後、ゾフィ王女とリオン王子の決闘の日取りが決まった。
サードが龍人祭で優勝し、宰相となったことで、王宮にゾフィの派閥ができた。また龍人祭の最中に、ケイトがリオン派に囚われられていた人質を救出。ゾフィ派が反リオン派の協力を取り付け、一大派閥となった。
この国では王は閣僚の投票によって決まる。そして投票によって決まらなかった場合は、決闘によって決められる。
ゾフィ王女は全体の三分の一以上の票を獲得し、決闘にまで持ち込んだのだ。
そして当日、サードはDDと共に、決闘の場である王宮前広場に来ていた。DDは本来の姿では大きすぎて邪魔なので、人間に変身している。
「おうおう、すごい人だかりだな」
一般人が立ち入りは禁止だが、貴族達が多く集まっているので人は多い。また、水晶玉による中継もされている。
見物人の中に、ケイトの姿も見える。目が合うと、サードのほうへ歩いてきた。制服を着ていることから、警備の仕事をしていたのだろう。
「お久しぶりですね、サードさん、DDさん」
「半月ぶりだな。最近はたまった書類を片付けるのに忙しくてね」
貴族としての仕事と、宰相としての仕事、それに加えてゾフィの特訓と龍人祭の前よりもはるかに忙しい毎日だ。
「そういえば、正式にギーズ家を継いだそうですね。おめでとうございます」
「ありがとう。だが、祝うには少し気が早いよ。あとはゾフィ次第さ」
サードが率いるギーズ家は当然ながらゾフィ派となる。リオン派が政権を取ると、ギーズ家はつぶされるだろう。力のある家なら抵抗のしようもあるが、残念ながらギーズ家は復興途中で弱小もいいところだ。
「それならば大丈夫でしょう。それでは、私は警備の仕事がありますので」
ケイトは自信満々でそういって戻っていった。
それから五分ほどして、ジェーンとアイラが見知らぬ女性を連れてやってきた。その女性はドラゴンなので、おそらくガヴィなのだろう。
「遅かったな。もうすぐ始まるぞ」
「始まるころに来たんだよ。どうせ直前までゾフィちゃんは控室でしょ。控室まで乗り込めるならもっと早くから来たんだけどなぁ」
「私はもっと早くこようって言ったんですが……その……」
「ははは、朝は眠たくてね。布団には勝てなかったよ。まぁ間に合ったからいいじゃん。許してよ」
ゴーン、ゴーンと大きな鐘の音がサードの耳に響く。鐘の音が二回、朝の九時を告げる鐘だ。そして決闘の始まりの鐘の音でもある。
王宮からゾフィが現れ、人だかりの中央へゾフィが歩いていく。その後、槍を背負った男が歩いてくる。リオン王子だ。
「近くので見るのは初めてだが、なかなか鍛えているじゃねぇか」
リオン王子は服の上からでもわかるほど引き締まった体をしている。そして身長は少なく見積もっても百八十センチはある。筋力の差だけでなく、リーチの差も大きい。ゾフィは自分の間合いに入るだけでも難しいだろう。
「それが王族というものだ。強くなければ務まらん」
「だがあの目はいけねぇな。相手を見下している。驕りは若いうちの特権だが、相手の力量を見抜けないようではな。ゾフィの牙は、お前に届くぜ」
D2が、リオン王子じっくりと観察しながら言った。
広場の中央でゾフィとリオン王子が向き合う。そしてお互いに頭を下げ礼をした。
二人の間に言葉はない。リオン王子の目は明らかにゾフィを見下していて、ゾフィは睨みつけるようにリオン王子を見ている。
二人は互いに背を向けて、三歩歩き、振り向く。二人の間の距離は、約八メートル。剣を振るには遠く、魔法で戦うには近い距離だ。これが決闘開始の距離である。
「二人とも、準備はよいな」
広場の中央にいる初老の男性が言った。サードの記憶によれば、ゾフィとリオン王子の祖父にあたる人物で、どちらの陣営にも属していないはずだ。
その男の横には、大臣が二人立っている。片方はリオン派で、もう片方はゾフィ派の人物だ。この三人が審判だ。
「問題ありません。始めてください」
「私も大丈夫です」
二人が答えると、審判は杖を抜いた。杖の先から、小さな魔力弾が飛び出し、それが二人の間に降り立つ。これが地面に着くのがスタートの合図だ。
「それでは決闘を開始する。用意……始め!」
魔力弾が地面に落ちて破裂すると同時に、審判が声を上げた。
開始の合図と同時に、ゾフィとリオン王子は魔法を唱えた。
「竜よ我が身に」
ゾフィが対竜魔法を唱え、全身をドラゴンに変化させる。そしてさらに踏み込み、リオン王子に迫る。
「伸びろ我が槍」
リオン王子が魔法を唱えると、槍の穂先から、魔力による刃が伸びた。強化魔法を槍にかけたのだろう。しかも、対竜強化魔法だ。つまりあの槍は、竜鉄鉱で作られた、対竜武器のようだ。
ゾフィは力強く踏み込み、刃の内側に入った。内側に入り込めば、槍はただの長い棒に過ぎない。
リオン王子はにやりと笑った。槍は近距離ではただの棒になるのは間違いない。だがただの棒は人を殺せるのだ。リオン王子の一撃は、人を殴り殺せるだけの威力があった。
だがリオン王子は大事なことを分かっていなかったようだ。たしかに棒で人は殺せる。だがドラゴンは殺せないということを。
ゾフィは槍を左腕で受けた。おそらく左腕は折れただろう。だがゾフィの右腕がリオン王子に届いた。
ドラゴンと化したゾフィの手には、鋭い爪が生えている。それがリオン王子に突き刺さった。
しかしまだ浅い。ゾフィの一撃はリオン王子を倒すには至らなかった。ゾフィは殴られた衝撃で倒れ、リオン王子は刺された腹を抑えた。
ダメージが大きいのはゾフィのほうだ。だがしかし、先に動いたのはゾフィだった。
ゾフィは素早く立ち上がり、リオン王子に飛び掛かった。
右腕で槍を押さえ、折れているはずの左腕で殴りつけた。
折れた腕で殴りつけたからか、ゾフィは歯を食いしばっている。リオン王子のほうは、血を流して倒れていた。ドラゴンの力で殴られたのだ、内臓が破裂していてもおかしくない。
勝負を分けたのは実戦経験の差。実力はリオン王子のほうが上でも、ゾフィは格上に勝つ方法を知っていた。
「そこまで! 勝者! ゾフィ・クライン。これにて次期国王は、ゾフィ・クラインに決定とする」
審判が決着を告げる。サードはゾフィのもとへ駆け寄った。
遅れてアイラたちも走ってくる。
「……私、勝てたんですね」
ゾフィの頬を涙が伝う。ゾフィは涙を流しながら嬉しそうにはにかんだ。
すぐに救護班が駆け寄ってきて、ゾフィに回復魔法をかけ始めた。そしてあっという間に左腕を包帯でぐるぐる巻きにしていた。
「よぉ、女王様。今はどんな気持ちだ」
「全く実感がわかないですけど……ただ……うれしいです。王になれたこともそうですが、ただ勝てたことが、うれしいです……汚い言葉ですが、今の気持ちを言葉にすると、やってやったぜ、ざまーみろでしょうか」
ゾフィにとってこの戦いは王を決める戦いであると同時に、復讐でもあった。ゾフィの勝利によって、リオン王子の野望はついえた。おそらくリオン王子は、自ら犯した悪事の責任を取らされることになるだろう。
「なんだか満足してるようだが、大変なのはこれからだぜ。なんせお前は女王なんだからな」
「そうですね。ゴールじゃなくて、スタートですよね」
たしかに大変なのはこれからだ。戴冠式、大臣の任命、リオン派の処遇、やることも決めることも多い。
だが今は……
「先の事を考えるのもいいが、まずは祝おう。今は喜ぶ時だ」
サードはそういって、ゾフィをやさしく抱き上げた。
「勝利を祝うときはこれだろう」
そしてゾフィを空へと放り投げた。そして落ちてきたゾフィをやさしく受け止めもう一度放り投げる。
「カカカ、胴上げか。いいじゃねぇか、お前も飛んで来い」
背中に何かが触れたと思った瞬間、サードは空高く放り投げられていた。空中でゾフィと目が合う。
「二人ともおめでとう」
「おめでとうございます」
アイラとジェーンまでやってきて、胴上げに参加してきた。サードは何度も空に放り投げられ、空中でゾフィと目が合った。
ゾフィがそして右手を差し出してくる。その手は握手を求めるように開かれていた。
「これからもよろしくお願いしますね」
「ああ、こちらこそ」
握手したまま落ちると、ちょうどDDの腕の中だった。
「カカカ、幸せそうじゃねぇか」
「……そういえば、そなたも恩赦が確定したな」
サードはDDの腕をつかんだ。地面ではジェーンとアイラが素早くDDの横へ回り込んでいる。
「そなたも祝われて来い」
次の瞬間にはDDも空を舞っていた。サードが全力で放り投げたので、かなり高くまで飛んでいる。
「カカカ、まぁこういうのも悪くはねぇな」
そう言ったDDは穏やかな笑みを浮かべていた。




