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Parallel

タイトルと、次話との分割位置を変えました

(2026-04-06 00:06)





 連邦国であるオマール聖国は、定められた王家を持たない。

 3人の大司教を含む7人の選王侯による選挙を経て、象徴機能である法王の指名を受けた聖王が、三大公爵家から代わる代わる輩出される仕組みだ。

 その三大公爵家のうち、ここ何代か聖王の地位を独占しているパッヘルベルク家当主グランディウスと、広大な所領をもつヌーボルニュ家当主、〝富裕公〟アンヌの婚姻により生まれたのが、聖国の明星の呼び声も高い公子アレクサンデルとその弟妹たちである。

 連邦政府など統治機構や評議会は、聖王を輩出した家とは別の公爵家に縁づくことが慣例により決まっている。グランディウスとアンヌの歌劇のような情熱的な結婚を受けて、聖国の東部一帯を握る強い武門のシャンツァー家が、現在はその機能を担っている形だ。

 アレクサンデルが次代に即位した場合──十中八九そうなる──シャンツァー家はその間も、引き続き連邦政府の掌握を主張するだろう。

 聖王を輩出した家門と議会の分離が、権力の偏りを防ぐために置かれた措置である以上──パッヘルベルクはもちろん、ヌーボルニュの本家にも、その主張を拒むことは難しいはずだ。──傍系は騒ぐかもしれないが。


 政府機関が置かれると、まず情報がそこに集まる。文書・報道・人脈・予算・陳情から人事に至るまで、あらゆる「コト」の流れが一挙に流れ込むということだ。

 必然的に、人材も集中する。人が増えればモノが必要になり、物流や商売、交通の拠点として選ばれることで、どんどん街が成長していく。

 領都ローツェンは、瞬く間に聖国東部の一大都市として名を馳せるまでになった。

 外交官として働いていたグステンが出仕していたのも、このローツェンの総督府である。南方ティアーリア半島やリベルタの華やかな宮廷とは打って変わって、謹厳実直な東邦の官僚に混じって働くのは、相当な激務だったそうだ。

 連邦のあちこちから持ち込まれる、泥仕合としか言いようのない数々の事案を捌いていくうち──まあ冷血な、「中央の人間らしい立ち回り」を身につけたのだという。ゲームの盤を片付けながら、グステンはあっけらかんと語った。

 想像もつかない。



  ⚸



 黒は禁色──という、門外漢にはよく分からない帝国ジョークを耳にしたクラウディアは、いよいよ嫌そうに口元を歪めて「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てるように言った。


「もう十二分に名門だろうにな。いまだに他の御三家に含みがあるのか、帝国貴族の連中は」


 ポロー大陸全般に根を張るオマール聖国においては、喪の色も階級色も土地によりさまざまだ。そんな中で、黒一色は教会にのみ許された平服というのが一応の共通認識である。

 唯一の例外がパッヘルベルクで、烏の濡れ羽根のような漆黒の髪、濃藍の瞳に表れる夜空の色は、かの家の象徴として広く認識されていた。

 パッヘルベルクに思うところが大いにあるらしきシャンツァー領、ローツェンの宮廷では、神職でもないのに黒を纏うことは言外にタブーとされていた。なんならシャンツァー家自身の色──鏡面の銀と澄んだアイスブルー──よりも忌避されていたほどだ。

 しょうもない話だが、残念ながら事実である。


「まったくです。今や押しも押されもせぬ政都でしょうに」

「その気味の悪い笑顔をやめろ。だいたい貴様が笑っている時はろくなことがない。中央政府の官僚は“笑顔で人を背中から斬る”とかいう噂も、貴様らを見ていると納得させられたものだ」


 何それ怖い。

 机に向かい筆を走らせるふりをしながら、コーネリアスは内心で少し引いた。記憶にある子爵夫君は、潑剌とした妻の傍らでいつも柔和に微笑んでいて、そんな剃刀みたいな物腰はまるで連想できなかった。

 思っていた100倍話が物騒だ。どういう思い出なの?


「おや、私の素はこういった人間ですよ」


 いつも通り穏やかに微笑みながら、グステンは仕方なさそうに眉を下げた。モルドワインの小杯を手元に置いて退がっていく使用人に軽く目礼して、長卓の上に軽く手を組む。


「若い頃は肩肘張っていたのです。虚勢かな。外交などといえば聞こえはいいですが、火消しと弥縫策に明け暮れる役回りでしたからね。人の世を見た気になって、斜に構えていました。お恥ずかしい話です」


 意外なほどあけすけな言葉だった。グステンという人に充分すぎるほど好感を抱いている人間の目などあてにならないと、コーネリアス自身も思うけれど──すいぶんと実感のこもった、等身大の述懐だったように思う。

 クラウディアは──一瞬鼻白んだような顔をして、給仕が置いていった小杯を手持ち無沙汰に掴むと、毒でも呷るようにひと息に飲み干した。


「やけに素直だな。調子が狂う」

「お目通り願った事情が事情ですから。小細工を弄しても仕様がありません。信用いただくには、正直に手の内を明かすよりないなと」

「ふん」


 空になった杯をチェスでも指すように置いて、クラウディアは元通り腕を組むと、面白くもなさそうに鼻で息をついた。


「殊勝なことだ。まあ、我が方としても下手な言い逃れはできない状況だからな。──余興はこれくらいにして、本題に入るか」





Parallel/延近輝之

クラウディアはゴリゴリの階級持ち騎士なので、遠征や停戦交渉の手配もろもろで外交部とはやりとりがあった感じです

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