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私の居場所  作者: 出会い
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私の居場所

 大家さんは中学生の頃、一つ上の男性に恋をしていた。当時の彼は女性から人気があり、毎日のように告白されていたが、恋人を作ることはなかった。

 やがて、彼がゲイではないかと噂が流れ、いじめが始まった。彼はいじめを苦に、不登校になり、やがて学校を去った。

 それから数年後。大家さんは大学生になると、一人の女性に恋をした。彼の一件もあり、自分が女性に恋をした事実を認められずにいると、ゲイの彼が同じ大学であることを知った。大家さんは、勇気を出して彼に彼に対する恋心と、今の女性に対する恋心を打ち明けた。彼は言った。『俺は初恋からずっと男性が好きだったし、今、男の人と付き合ってる。けど、世の中には異性とか同性とか関係なく恋愛感情を抱く人も居る。だから、今の恋も昔の恋も否定する必要はないと思う』と。

 大家さんはその言葉で自身がバイセクシャルであることを認めることが出来たそうだ。


「それから私は、最終的には彼ではない別の男性と結婚したんだけど、女性とも男性とも恋愛をしてきた。だけど……同性愛者の中には、バイセクシャルをよく思わない人もいてね」


 異性愛者からだけではなく、同性愛者からも差別を受けてきたと彼女は語る。それを聞いて幸人さんは告白する。「僕もバイセクシャルに対していい印象を抱いていませんでした」と。

 私もだ。異性も同性も好きになるなんて都合が良いとか、中途半端だとか、そう思っていた。実際に華にそれを言って叱られたことがある。『君は今、私達が今まで散々言われて傷ついてきたことと同じことをバイの人達に言ったんだよ。分かる?』と諭され、ハッとした。


「私はバイセクシャルだし、異性と結婚して子供も一人いる。だから、貴方達とは少し違うけれど……同性の元恋人への感情は、紛れもなく恋だった。だから、同性を好きになる気持ちは理解出来るわ。というか私は、人を好きになる気持ちに異性も同性も関係無いと思うのね。どちらも経験した私が言うんだから、間違いないわよ。社会的な権利が認められていないことや、子供が出来ないという違いはあるけど、前者は社会が変わればいいだけの話だし、異性同士だって子供を持たないカップルはたくさんいる。だから……」


 そこまで早口で語って、大家さんは言葉を選ぶように口籠る。そして「月並みな言葉になってしまうけれど」と前置きして「私は貴女達の味方だからね」と締めくくった。その表情は、少し不安そうにも見えた。過去の私ならきっと、彼女を味方だと思えなかった。同性との恋愛経験があっても、結局異性と結婚して子供もいるマジョリティ側の人だから。だけど、今なら素直に言える。「ありがとうございます」と。頭を上げると、大家さんは泣いていた。そして「こちらこそありがとう」と泣き笑いして「これからもよろしくね」と続けた。申し訳なく思いながら、退去することを伝える。


「あの家は、私の親に知られてしまっているから……私の両親、今時珍しいくらいのホモフォビアで、ここにいたら危険だと思うんです。だから……すみません」


「そう……なの。寂しくなるわね」


「……また時々、会いに来てもいいですか?」


「ええよ。いつでもおいで。私のことは第二の母だと思ってくれて良いからね」


「ありがとうございます」


 母にボロクソ言われて疲弊した心が、大家さんの優しさで癒えていく。

 ずっと、私は一人ぼっちだと思っていた。けど違う。あの家は、社会のほんの一部分。時代についていけずに取り残されてしまった哀れな人達が集まっているだけだ。だから私はもう、もう二度と、レズビアンである自分を、同性愛を否定したりしないと心に誓う。私が私を否定してしまえば私に優しくしてくれたこの人達まで否定してしまうから。


「じゃあ緑さん。そろそろ荷物まとめましょうか」


「はい」


 荷物をまとめて、幸人さんの手を取る。私は今日から、彼の家で暮らす。親戚中から馬鹿にされて、倉田家の恥だとまで言われていた、倉田家の誰よりも優しいゲイの叔父と。

 私もきっと、これから彼と同じく倉田家の恥だと、死ぬまで言われるようになるだろう。だけど、心は今までにないくらい、晴れやかだった。

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