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挿話 グリィの日常 その一

本編と関係ないわけではない、他の人から見たお話です。

 

 私はグリィ、最近Eランクに昇格した冒険者っす。


 いや、本当はグリィっていうのは偽名というか、家族から呼ばれてる愛称だったりして……冒険者っていうのも仮の姿というかなんというか……実際には伯爵家の次女だったり、本名はグラツィエラ・セヴェリーニだったりするっすけど。


 私の家、セヴェリーニ家は、お父さま、お母さま、お姉さまに妹の、私を含めて五人家族で……他にも、家名とか住んでる家は違うけど、おじいさまやおじさま夫婦の親戚がいて……。


 家族はみんな優しいし、私のわがままにも出来るだけ応えてくれようとしてくれるし、愛情とか温かみとかを感じなかったこともないし……だから、私も家族のことが大好きで、別に家自体にはとくに不満はないっすけど……。


 貴族っていうしがらみがなければ、もっと良かったかもしれないなー……って思っちゃうのは……やっぱり、持つ者のわがままってやつっすかね。


 うーん……いや……私も、頭は悪いっすけど、考えられなくはないんで……小さいころから不自由なく、おいしい食事にふかふかのベッドがある生活が過ごせて、こうして今まで大きな病気もなく健康に生きてこれたのは、その家のおかげっていうのも分かるっすよ?


 それはもう、冒険者になるって家を飛び出してからは、ランク無し冒険者として馬小屋でその辺の草を食べながら生活する過酷な日々を過ごしていた私っすから、知識だけじゃない体験談として痛いほど分かるっす。


 多分、ある程度の年齢で、健康で丈夫な身体を持った状態から始めたから何とか生き残れたっすけど……まだ身体が出来ていない小さいころからそんな生活を強いられていたら、この年まで生きていられたか怪しいっすよね。


 だからやっぱり、これは恵まれた環境で育ったから持った、貴族の娘のどうしようもないわがままなんだと思うんすけど……でも私は、頭も悪いし、我慢強くもないんで、やりたくもない勉強をさせられて、目指したくもない道を進ませられる……そんな環境にちょっと耐えられなかったっす……主に、この人のせいで……。


「いってきまーす」


「グリィさん! 帰ってきたら社交界の勉強の続きですからね」


「えー……もう貴族科に入学しないんだから、勉強はいいじゃないっすか」


「学校に行かなくなったのですから尚更です! せっかくの勉強の機会をふいにしたのですから、学校でやるはずだった勉強もみっちり教えますよ」


「ふいになったのは私のせいじゃないし、学校には行くっすよー……冒険者学科っすけど」


「ぐぬぬ……そういうことではないと何度言ったら……それに、その喋り方も直しなさいと……」


「じゃあ、いってくるっすー」


「ちょっと! まだ話は……」


 ヘルガ・ランプ伯爵夫人。


 たしか旦那さんは王都のお城で働く文官のまとめ役で、だから貴族の間でそれなりに顔が広かったり、最近どこの家がどこの家とつながりを持ったかみたいな事情に詳しかったりするらしいっすね。


 それで、その立場と知識を活かして、こうして色々な家で家庭教師みたいなことをしているみたいっすけど……私はちょっと……いや、かなり苦手な人っす。


 悪い人ではないと思うんすけど……気合が入りすぎだし、あんまりこっちの話を聞いてくれないで、自分が正しいと思ってることを無理やり人に押し付けるタイプっていうか……とにかく私とは気が合わないっすねー……。


 はぁ……まぁ、でも……もう文句を言ってても仕方ないっす……。


 しばらくはヘルガさんやその家族と一緒に暮らすことになるっすから、小さなことを気にしてたら身が持たないっすよ。


 私の実家は、王都から北に進んで、小さな町を一つ越えた先にある、それなりの大きさの街にあって……街としてはそんなに離れてはいないっすけど、王都とは領の区分だって違うっす。


 当然、そんな遠いところから学校に通えるはずもなく……だからといって、宿から通学するのは学校の規則的に不可能……。


 ってことで、少なくとも学校に通ってる間は、この王都にあるヘルガさんの家にお世話になる予定っすね……気が重いっすけど。


「オースさん、来たっすよー」


「うむ、おはようグリィ殿、家の方は大丈夫だったか?」


「うーん……まぁ、色々あったっすけど、色々あって大丈夫だったっす」


「なるほど……よく分からないが、大丈夫だったのであればいいだろう」


「そうっすよ! そんなことより、今日は久しぶりの冒険っす! 王都の冒険者ギルドはまだ入ったことないっすけど、どんな依頼があるっすかねー?」


 まぁ、家での生活は気が重いっすけど、オースさんのおかげで貴族の堅苦しい勉強をする学科には行かずに済んだし、空き時間もこうして前みたいに冒険出きるっすから、これ以上望んだら罰が当たるっすね。


 学校を卒業した後のことは分からないっすけど、今はただ、それまで出来ることを精一杯やって、自分で何でもできる冒険者生活を少しでも楽しむっす!


「ふむ、グリィ殿も行ったことがないのか」


「無いっすね、建物自体は外から見たことあるっすけど、中に入ったことは無いっす」


「そうか……ふむ、それは検証のし甲斐がありそうだな」


 と思ってここに来たんすけど……。


「う……うーん……なんか嫌な予感がするっすけど、今日はちゃんと依頼を受けられるっすか? 冒険できるっすか?」


「何を言っているグリィ殿……今日呼ぶときにちゃんと伝えたではないか」


「え? 伝えたって……あれっすよね? 冒険者学科の授業の予習として、冒険者パーティーらしい活動をするために、冒険者ギルドに行こうって……あれ?」


「そうだ、冒険冒険とその単語は確かに多く出てきていたが……別に冒険をするとは一言も言っていないだろう?」


 油断してるとこういうことになるっすよねー……。


「うわー……騙されたっす! でも、冒険しないなら、私たちは冒険者ギルドに行って何をするっすか?」


「それはもちろん……検証だ」


「やっぱりそうっすよねー……」


 オースさんはなんかとにかく行動力がすごくて、自分の思いつかないことを簡単にやってのけたりするんで、基本的には頼りになる人なんすけど……こうやってたまに期待を裏切ったり私を騙したりするっすよねー。


 とりあえず私は未だにオースさんのいう検証っていうのが何なのかいまいち分かってないっすけど、その結果がとんでもなく凄い良いことに繋がることも、逆にとんでもなく迷惑でどうしようもないことに繋がることもあるって考えると……きっとギャンブルとか思い付きっていう意味の言葉だと思うっす。


「あと、別に冒険をしないとも言ってないぞ」


「? ということは、冒険できるっすか?」


「それも行ってみないと分からないな」


「あー……全然できる気がしないっすね……」


 まぁ、何をやるにしても、今はとりあえず貴族の勉強から解放されるならそれでいいっすかね。


 その結果で何か大事に巻き込まれたとしても、それはそれで冒険者らしい生活だと思うっす。


 子供のころに私が憧れた、あの人みたいな冒険者らしい生活だと……。



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