5.淑女は受け入れ、そして包む
久々の更新です。
字数見ずに書いたので長いかもしれません。
店主
「あら、お腹の子はもう何か月かしら」
アリス
「ふふっ、もう9カ月です」
楽しそうに世間話をするアリスを横目にキームはスッと会計を済ませる。
果物や様々な物品を買った紙袋を持ってアリスに声を掛けると
会釈しながらその店から離れる。
キーム
「あまり目立たないようにしたい、とか言ってたのはどこの誰だ?」
アリス
「んー?やっぱ話しかけられると答えたくなるじゃない。
それに今いる場所よりは綺麗だし空気の入れ替えよ」
空気を吸い込むように深呼吸するアリス。
現在アリスはキームと共にある場所に来ていた。
その場所は常界の外れにある、とある町。
その町の裏……様々な市場がある場所から建物の路地を抜けて、
徐々に薄暗くまた掃除も行き届かぬ建物の影に隠れる場所に着くと
そのままキームは扉にノックを決められた回数鳴らす。
すると中の人物が扉越しに一言
???
「右に」
キーム
「あいよ」
と右に回すとガチャリと音を立てて扉が開かれる。
キームよりも何倍華奢で、かつお腹が膨らんだ身体のアリスが中に入るとキームはすぐさま閉めた。
アリス
「ふぅ、ごめんねーエクシトさん。
たまには綺麗な空気も吸おうと思ってー」
エクシト
「いえいえ、ここよりあちらの方が明るく空気も比較的澄んでいます。
私たちもたまには足を運びますし気を遣わなくても大丈夫ですよ」
エクシト…頭に2本の翼が生えた鳥の獣人であるエクシトは
今現在アリスとキームを匿っている人物だ。
比較的明るい場所に近く、そして暗がりのある場所が良いとアリスが決め
多額の報酬金と語弊がある言い方ではあるが人質を交換にここに住んでいる。
エクシト
「……その…アラスさん…あまり蒸し返す話ではないのかもしれませんが、」
アリス
「!……ええ、雲雀さんのことですよね?心配ですよね、親なら。
ご安心ください、全員私の部下が安全な場所まで護送が完了したとのことです。
無論夜襲が来たときのために強力なボディーガードが見張っていますよ
ただ、こちらから蒸し返すのも気が引けますが、ここに私がいること。
そしてこれを広めないこと。
……数週間後に迫る出産日、当日に何故私たちがここにいるのかは理解することにはなりますが、見た光景を広めないこと。
これらを守ってくださるのであればお返し致します。」
ニコニコとアリスが笑うとキームは溜め息混じりにエクシトを睨みつけ
キーム
「未だに信用がないとは大層なことだ。
まぁそのほうが生きている心地はする。
……だが、事情が事情だ。お前が良いなら今すぐにでもあの餓鬼を殺しても良いんだぞ?
ほら、後ろにある刃物を降ろせ」
アリスはぼけーっとキームの方を見てからエクシトに振り向くと
エクシトはそのまま震えながら後手に持っていたナイフを落とした。
キームが回収するとエクシトからアリスを守るようにアリスの肩を掴むと
キーム
「食事の類は俺が作るから部屋には近づくな」
といってアリスを労わるように現在暮らしている部屋へと入っていった。
部屋に入るとアリスはふぅ、と溜め息をつきながら
お腹を撫でつつ簡易的なソファに座る。
キームはすぐさま鍵をかけ食料等雑貨品の整理をしたのち
すぐさま食事の準備に取り掛かった。
アリス
「あれはちょっとやりすぎじゃない?」
キーム
「お前にとってその子がどういうトリガーになるのかは知らないが
それでも守りたいならあのまま刃物を落とさせて正解だったよ」
キームが機材を洗い食事の準備をしながらアリスに語りかける。
キーム
「出産だけだったら別にあっちにいて出産予定日に、
出るってのでも良かったんじゃないか?」
アリス
「そうしたらその現象が周知されるじゃない。
穏便に済ませてそれからこの子を……一度あれが父親だよって見せたいだけよ」
良い性格してるよ、お前とキームは落胆混じりに呟く。
今、アリスのお腹にいる子供は天界にいるどこかの誰か……天使だ。
アリスは元々”不思議の国”と呼ばれる国に暮らしていたが
天界にいる天使たちに攻撃されてしまう。
住民のうち女、子どもは強姦の後、殺されていった中でアリスだけは
殺されず最後の一人になるまで輪姦され、抱かれ、文字通り何もかもを奪われた。
そしてその後アリスの弟であるアリスィアの力が目覚めその力で天使たちは
自害”させられ、”天使の騎士団長ティフォナスという男、アリス、アリスィアの
三人だけが結果的に生き残り(正確には4人)
力の末に不思議の国は滅んでその三人は散り散りとなった。
生きているのか、死んでいるのかアリス自身定かではない。
それからアリスは自身のスキル、【終焉】を使い、時間が進まず止まったままの世界、狭間の世界を作り生きている望みをかけてアリスィアを探している。
……そしてその探すなかで現在は
コールド・ペイン、キーム・バレット、スクリロスの3人と共に過ごしていた……のだが。
アリス自身気付いていなかったのだがどうやら妊娠をしているらしく
現在は出産に向けて狭間の世界から離れてキームと共に暮らしている。
アリス
「狭間の世界は時が止まっている……外に出てしまったらその分の時間が自分に降り積もってしまう。
まぁあっちで寝ても騒いでも数百年も経つわけじゃないし、箱を開けておばあちゃんになっちゃうことはないけどね」
キーム
「?…どこの例えだ、それ」
アリス
「この世界にはない童話、架空の話だよ。
それはさておき、雲雀ちゃんどうしてるかなぁ」
キーム
「お前が”買った”少女だ。正直お前がいてやるのが一番だと思うが……
あとはあまりやめておけ、その話。」
アリス
「え~?いいじゃーん!大声出さないしぃーそれに雲雀ちゃん超可愛いいんだよー?」
その反応に困り果てるキーム
それはキームとアリスがここに越してきたばかりの出来事。
お腹も膨らみ始めたのを一時的に隠すために黒いドレスを纏っては
その場所に訪れたのだった。
―――子供が売買される奴隷商へ。
・
キームとしてはどうしてここにアリスが来たのかが理解できない。
だが真っ先に案内してほしいと頼まれた末にアリスは足を運んだ。
そして運んだ矢先にアリスに声をかけてくる男性が。
商人
「ご婦人とは珍しい、大体ここに来るのは隣のような人が多いのでね」
アリス
「女性でも買えますの?」
商人
「ええ!別にここでは差別なんかしませんよ。どうぞこちらへ……」
商人と思わしき人物に案内されるままキームとアリスは足を運ぶ。
小屋のような場所に入ってすぐキームは
思わず目を見開いて驚き、アリスは遠くを見つめた。
―――その場所では主に雌の獣人を実際に体験できる場所となっていた。
商人
「すみません、商品の音がうるさいものでして……ここでは主に
夜の道具を扱っている場所でございます。
他にも身なりがまだ綺麗なものは袋より接待に使えますから
…そちらはもう一個右の隣の方にありますがどういたしましょうか」
アリス
「ええ、構いませんよ。そちらにお願いします。
こっちは臭いもきついですし何よりうるさいですからねー」
淡々と語るアリスに一瞬悪寒のようなものを感じたが構わずに進む二人に
遅れないよう自然にアリスの横を歩く。
右の建物では確かに綺麗で異臭は特になくむしろ綺麗すぎる、と思われるような場所だった。
…どの獣人も鎖で繋がれているところを除けば、だが。
そんな綺麗な獣人ばかりの場所でアリスはあら、と呟きふと一人の少女に目が留まる。
少女の両目には包帯が巻かれていた。
アリス
「すみません、これはなぜ包帯を巻いているのですか?」
商人
「なっ、……すみません、これは袋の方ですね。
片付けておきますので……」
アリス
「ふぅん……よっと、」
商人が駆け付けるよりも前に包帯を解くアリス
それに思わず汚いですよ、と呟く商人を横目にアリスはその少女を見つめる。
少女の目は宝石のようなエメラルドグリーンのように輝きを放つも、焦点が合わないのが確認できた。
それを見て目が見えない、のかとすぐに割り出したアリスは髪を撫でながら
アリス
「綺麗な瞳ね……うちに来る?」
少女
「……たあ、……す……え……てぇ」
少女の言葉にキームの拳が固くなるとそのままキームは
アリスに駆け寄る商人を殴り飛ばすと
複数の商品の目の前で、自身の武器を至近距離で数発ぶち込む。
頭に命中した穴からは血とナニカが漏れ出しキームは激しく呼吸をしながらアリスを見やる。
キーム
「わり、殺しちまった」
アリス
「元よりそのつもりで来てるから大丈夫。
あっちの牧場の方にも行ってちょうだい。貴方の手なら簡単に殺れる人数よ、点数稼ぎには良いんじゃない?」
振り向かずエメラルドグリーンの少女を見ながらアリスはそう言うと、キームは断罪人が直接暴行を働くのは早々ないんだぜ、
と呟いてからその方へ向かい、すぐさま連続で発砲音が鳴り響いた。
アリスは困惑する足枷の縛られた獣人と目の見えない獣人の横で笑みを漏らしながら
目の見えない獣人に振り向く。
アリス
「もう、大丈夫よ。みんな…私が買ってあげる。」
そうしてアリスとキームはその奴隷商にいた獣人の奴隷たちをすべて引き受け
また奴隷商にいた商人、スタッフたちはキームの手によって皆殺しにされた。
引き受けた獣人たちは浄化魔法で身体を浄化させたのちすべて狭間の世界へと入れる。
血だらけで戻ったキームはスクリロスにびっくりされながらも身体を洗い流してからアリスと再会した。
キーム
「で、どうするんだ?」
アリス
「この子達のこと?」
アリスが全員分の簡易的な服装を与え全員にそれぞれ声を掛けては安心させると
獣人の子達ははしゃぐことはないが不思議な世界と、それでいて澄んだ空気に
安心している様子が伺える。
一部の獣人は暴力を受けてか衰弱したり恐怖を抱えていたが、アリスの浄化魔法により身体の清潔は保たれ、また破られた膜も再生し特にその子達からは羨望の眼差しを受けていた。
アリスは切り株に座り、キームは座らずに立って話し始める。
キーム
「どれも年齢的に幼すぎる、こいつらは今後どうなるんだ?」
アリス
「今は世界が混乱と化してるからこのまま安全な場所、って
外に出したらまた奴隷にされるのが落ちね。
大体どこの子も親に売られたか、独り身だったかが多いし。
そう、どの子も身寄りのない獣人の子どもね。」
頬杖をつきながらアリスは保護した子供たちを見据える。
キーム
「じゃあ尚更だ。お前の目的は弟の救出なんじゃないのか?
なのになぜ他の子供に現を抜かす?
前者の願いはなくなったんじゃないだろうな」
アリス
「別にーどっちも見てるわ。私はね、夢妄想と言われても構わないけど
こういった身寄りのない子供たちが安心に暮らしていけるように保護したいの。
とはいえまだこのまま手放すと、さっきも言ったように駄目だから
もうちょっと時間がかかるまではここにいてもらうことになるわね。
……なぁに?欲情しちゃう??」
にぃっと笑ってキームを下から上へ舐めるように見つめる。
キーム
「するか、したらあの場でまず自分を撃ってたね」
安心した、とアリスは立ち上がって獣人たちを呼び集めると
今後の方針について話し始めた。
それは今後世界をより良くするためにアリス達が動くこと
今後、他にも身寄りがない子供たちは保護していくこと
そして安全が確保されるまではここの世界にいてもらうこと
大まかに話した内容であれキームはアリスが言ったように
夢妄想の類だと、実現は不可能だと考える。
だが頭ではそう考えても言葉には出せない。
なぜならアリスが冗談めいた笑みを一瞬でも見せないからだ。
キーム
「(まだ成人にもなってない餓鬼だからか、もう現実を見てしまったからか、
それとも精神が壊れた末の姿なのか……)」
アリスは暮らす住居について問われるとやっとそこで微笑み
それまで木が生い茂っていた場所にそれは巨大な邸宅のような、
何十人も住めるような場所を一瞬で築く。
それは狭間の世界でアリスが組める魔法のような力
アリス
「ここで!暮らせるから!!」
天真爛漫に笑う姿に見惚れるもの、そして一人表情を変えぬまま
キーム
「(確かにこれは不思議の国であってもなくても封じられるべき力だな)」
そうキームは心の中で呟いた。
そして時と場所は一転し獣人たちの面倒スクリロスとペインに任せ
キームとアリスは出産のために常界へと降りていた。
場所に関しては目の見えない少女、雲雀が
雲雀
「わた、ぃのぃえなら、いけると…おもいま、す……」
提案してくれていた。
アリスが雲雀の目線になるように座りながら訊くと
雲雀の親がどうやらお金のために雲雀を売ったという。
そこで雲雀が人質として引き換えに条件を申し込めば大丈夫だろう、とのことだった。
付け加えて雲雀は話す。
雲雀
「ありぃすちゃんとは、はなれ、ぁくなぃ」
治癒しても拙い言葉でアリスに声をかける。それにアリスは頭を撫でながら
アリス
「そう、つまり今度は貴方が売るのね?自分の親を」
キームは雲雀に対して銃口が引けることに気付くも無視して自身の価値を歪める。
アリスはその一瞬の仕草を横目に捉えつつそのまま雲雀と話し結果的に
雲雀を架空の人質として、雲雀の親であるエクシトを脅す算段をつけたのだった。
そして現在。
しーんとした中でアリスはキーム手製の食事を頬張りながら
キームもまた食事をとる。
暖かいシチューに柔らかいパン
アリスは美味しそうにもぐもぐと飲み込んでいく。
キームは無言で食べ終わると片付け、次に食べ終わったアリスの皿を片付ける。
アリス「…暇、だけどある意味この時間が幸せなのかもね。ねぇ、キーム」
アリスはお腹を気にしつつベッドに横たわってキームを見つめる。
キームは皿を片付けながら後ろ背で返事をした。
アリス「あのときあの子を撃てたのに撃たなかったのは理由は?」
カタッ…と片付ける皿を置いて溜息をついたかと思えばキームはその手に銃を生み出しアリスに向けながら呟く
キーム「…気づいていたのか」
アリス「私は周囲の人の変化に気付きやすいのよ
それも些細なところでね。
で、どうなの?」
キーム「…どう、と言われても撃てなかったさ…」
キームははぐらかす。
それにアリスは追い打ちをかけるようにつぶやいた。
アリス「あの奴隷商で貴方はあそこで働いたり遊んでる人達を皆殺しにした。
罪の意識なんて欠片もないやつが殺されたのには理由があるんじゃないかしら。
だって貴方の力、貴方が言うには罪の意識が必要、って言うじゃない。」
キーム「…確かに罪の意識は必要だ、そのほうが楽で良い。」
アリス「つまり別に罪の意識がなくても良いわけだ。いや、その意識がないと殺傷性のある銃弾に変わっちゃうのかな…」
とアリスは訝しむ。
だがそれにキームは銃を上げ手から消失させると、予想立てしておいてくれ、と手をひらひらさせて皿を片付け終わったのかアリスのベッドの前にある椅子に座る。
アリス「む。つまりはまだネタバレは避けたいとぅ?」
キーム「力は隠すものだ、今お前がやっているように。」
キームは頬杖をつきながらアリスを見つめる。
アリスは恥ずかしいなと照れるもキームは虚空を見つめるように呟いた。
キーム「こう言うのは俺も気が引けるがお前が産むのは鬼の子か?」
アリス「―――」
照れていたアリスからその笑顔がフッと消える。
そして何かを言いかけてやめる。
その顔には憎しみが見て取れた。
だが一瞬でその顔がいつもの薄ら笑いに変わると
アリス「さぁ…何かを与えてくれるのかは分からない。未来とは不可視のものだから」
それを聞いてキームは溜息混じりにランプを消すと小窓から溢れる紺色の光が部屋に差し込む。
いつもは何か言うアリスだが何も言わず、そのまま毛布を被ると眠りにつくとキームも傍に座りながら眠りについた。




