第1話 高度80センチの境界線
人間関係は複雑である。
高校生ともなると、さらに複雑。
宇宙人との関係となると、見当もつかない。
その宇宙人との関係を軽く見ている、地球人の高校生、多々野。
彼は国際交流はおろか、宇宙交流に反く行為をしようとしているのである。
宇宙人が昼寝をしている隙に、彼の所持品を無断で持ち出して来てしまったのだ。
いつも自分のことを、都市伝説ボーイ、陰謀論者などとバカにしている親友2人を、ギャフンと言わせようと、そのグッズ3点を机の上に並べた。
彼らには、ヒーローアイテムだと嘘をついて…。
「護身グッズだって言うから、危険なモノじゃないよな…ビビル」と自分に言いきかせて…
「ちょっとだけ、借りるだけだから…ビビル…汚名返上だから…」
ビビル、宇宙人の呼び名である。
「前々から気になってたんだ、このグッズがどんなモノか…」
自分も含め、この3人で使って機能を試そうと言うのだ。
ひっそりと静まり返った、放課後の教室の中。女の子の笑い声が響いた。
「まあ〜た、多々野くんたら、本当にヒーローアイテムなの?わたしには、ヘッドホンとブレスレットと、ただの水晶の玉にしか見えないけど…」
いたって普通の台詞だか、気になる女の子に言われると、馬鹿にされてるように聞こえてしまうらしい。
(今度は何で驚かすつもりかしら、前は神霊写真でしたっけ、物的証拠を持って来てよって、わたしに言われたから…?)
この3人のリーダー格の真ん中の夏美が、疑い深い口調で、茶髪のロングヘアを耳の後ろにやり、ヘッドホンを被った。
セーラー服が良く似合う、今時の女の子。短いスカート、すらりと伸びた脚、紺色のハイソックスが印象的だ。原宿などにいたら、芸能事務所にスカウトされるに違いない。
次に夏美の向かって右隣にいる多々野が、箱に入っていた水晶の玉を手に取って、観察するように見つめた。
白衣は着てないものの、坊ちゃん刈り、小柄で学ランのメガネ姿が研究者のようだ。「これから、何が起こるんだろうか…」ワクワク感でいっぱいである。
ヒーローアイテムと嘘をついたが、ホンモノの宇宙人グッズには違いないのだ。
(確かこの3つのグッズが装着されると、自動的に発動するって言ってたな…)
最後に仲本が、スタイリッシュなバンド型のブレスレットを手首につけた。
3人の中では一番の長身。伸び盛り、小さくなった学ランがサイズに合わない。
「カチッ」とブレスレットの中から合図のような音が…。
その瞬間、多々野の持っている水晶の玉が、点滅し始めた。「おっ動きだしたぞ!」仕掛け人の多々野が、今に見てろって感じで薄笑いを浮かべる。
水晶の玉だと思ったら、電球の玉だったのね。
多々野の表情を観て、
(この人、何か企んでるわね…)
さすがリーダー格、多々野の魂胆を一瞬で見抜いた夏美だった。
ところが、ヘッドホンから
「危険デス! 危険デス! 赤イマンション!赤イマンション! 近ク!近ク!」と音源がないのに、
謎のメッセージが…
「何よ、危険て、赤いマンションが何なのよ!火事?…まさか、誰か飛び降りたりしないわよね!」さすがの夏美も動揺を隠せない。
実は夏美の父はレスキュー隊員。
ついこの間も、マンションの屋上から飛び降り自殺しようとしていた女性を、救助したばかりだった。
(危険?護身グッズってことは、何か俺たちに危険が迫ってるってこと?)
(でも、ここは学校、マンションじゃないよな)と少し多々野も疑問に思うのだが…。
「ヒーローアイテムだからな、マンション、マンションって、俺たちに助けに行けって、言ってるんだよ‼︎」と、してやったり顔である。
多々野とは対照的に、ビビリ屋の仲本は青ざめた顔で夏美を覗き込んだ。
「夏美ちゃん、だ、大丈夫!?」
不安に怯える仲本を落ち着かせようと、夏美は柔らかい手で、優しく彼の髪の毛をなでた。
「仲本くん、落ち着いて、まだ朝の寝癖が直ってないわよ」仲本を見つめ、2人の目が合った。その瞬間、ブレスレットがまるで血圧を測るときみたいに、仲本の手首を圧迫する。
そして、不思議なことに、仲本の脳内に、夏美の本当の叫びが流れ込んだのだ。
(……ど、どうしよう、こ、怖い!も、もしマンションの屋上から、自殺しようとしてる人がいたら…!)
(えっ!? 夏美ちゃん、今……)
仲本は絶句した。夏美は微笑んでいる。なのに今、瞳が合った彼女の奥底から、震える本音が直接響いてきたのだ。
「痛!なんだよ、この締め付けは…
右手にはめたブレスレットを、左手の親指で、脈をはかるように掴む仲本。
(ぼ、僕の脈の心拍数か早くなっている…
夏美ちゃんの心拍数と、僕の心拍数がシンクロしてるのが、手に取るようにわかる。
そんなことって…)
装着したブレスレットに内蔵されている、米粒大のランプのようなものが、夏美の鼓動に合わせるように、妖しく点滅している。
(仲本、お前が夏美ちゃんを好きなのは、俺も知っている、バレバレなんだよ…)と
頭をなでられる仲本を、羨ましそうに見つめる多々野。
「……赤いマンション? この近くで赤いマンションって言ったら、あそこしかないわ!」
と、天井を仰ぐ夏美。「まさか、誰か飛び降りとか…しないでしょうね……そんなことあるはず…」
「あれ?これは?」
ヘッドホンの右サイドに、液晶のデジタル時計に映し出されたような数字が、小さく点滅している。「ほら、ここ?」とその場所を指差す仲本。
「何?」と夏美が振り向いた拍子に、
仲元の指が『80』という数字に触れると、点滅はまるで時限爆弾のスイッチを止めたかのように「80」のところでピタっと止まった。
その瞬間、
ブオオオオオーッ‼︎
夏美の体が、垂直離着陸機「ハリヤー」のようにゆっくり床から浮き上がった。
「う、浮いたぁぁ!!」と仲本。
「すげえっ! 本当に浮いたぞ!!」と興奮する多々野。
ヘッドホンから、アンテナのようなノズルが、下に向けて突き出している。
そして、ミリ単位の小さな噴射口から物凄い、エネルギーのようなものが発射されているのだ。
床に焦げ目は付いていないものの、物凄い高熱なのは確かだ。
噴射口の周りの空気が、熱でゆらゆら歪んでいるのが見てとれる。
だが夏美の体がその熱を感じないのは、ヘッドホンの端から、空気のカーテン(エアカーテン)や冷却フィールドのようなものが、噴射と同時に自動で発動したのか、あるいは噴射口の周りに、薄い磁界を張り、熱が直接体に触れないように、ガードしているためなのか、宇宙人の科学力は未知の領域である。
しかし、上昇した体は、地上80センチのところで浮遊したまま、微かに上下運動を繰り返している。
「……し、信じられない、浮いてるわ!」
「でも高くならないね」と多々野。
「もしかして、高度80センチって設定…?自分のせい?」と額に汗がにじむ仲本。
「え〜うっそ〜?」と困り顔の夏美。
「危険デス!危険デス!近ク!近ク!赤イマンション!赤イマンション!」ヘッドフォンからの連呼が鳴り止まない。
「もう〜行くしかないわね…」とにかく何が起こっているか、現場を確かめたい夏美だった。
「でも、こんなふわふわ浮いた状態じゃ、駆けつけることなんか、出来ないじやない!」
学校から100メールくらい離れたころにある、5階建ての古びた赤いレンガ作りのマンション。築40年は経っているだろうか、老朽化が激しい。
数人の通行人が、その通りに面した、赤いマンションから少し離れた場所で、指を差して叫んでいる。
「あれ見てよ、あそこよ、4階のところ!」
その情景の遠くから、走って来る3人の姿。
夏美たちである。
「一時はどうなるかと思ったわ、浮いた状態じゃ何も出来ないじゃない」
「でも、このヘッドホン、私の意志に反応するみたい、地上に降りたいと思ったら降ろしてくれたわ…」
「スゲェ万能じゃんか、タケコプターより速そうだし」と、こんな状況なのに、はしゃぎまくる多々野。
「なんか不気味な夕焼け雲だね」
と仲本が言うと。
「天変地異の前触れかな」と多々野。
駆けつけた夏美が息を切らせて、最後尾の通行人に尋ねる。
「あそこって、どこですか?」
「ほら、あの4階のベランダのところよ」
彼女の指差す方向を見ると、米粒みたいに小さく見える子猫が、
マンションのベランダのサビた手すりの角で、風を遮るように丸くなっている。
春の突風に煽られ、今にも吹き飛ばされそう。「なんで、あんなところに!」多々野が叫ぶ。
「本当だよ、飼い主は何やってるんだよ!」
仲本も叫び声を上げる。
「とにかく、飼い主に知らせた方がいいわよ、このままじゃ危険だわ!」
だが、時間は待ってくれなかった。春の突風は容赦ない、自転車でさえ軽くなぎ倒してしまうのだ。
風の塊の一撃がドーンと子猫にぶち当たる。
まるで放り投げられたように、子猫の体が宙を舞った。
「キャー‼︎」っと通行人の叫ぶ声。
小さな手足をバタつかせるが、どうにもならない…。
一直線に急降下。物凄いスピードである。
これほど万有引力の法則を、呪ったことが、かつてあっただろうか。
通行人は手押し車を押した老婆2人と、赤ん坊を抱いた主婦1人、そして病院帰りなのか、松葉杖の青年。それと、Tシャツからお腹を出した、丸々太った中年のオヤジが、缶ビール片手に頬を紅くしている。
助けられるはずがない。
猫とはいえまだ小さい、地面に激突すれば
間違い無く即死である。
地面は硬いコンクリート。床に落としたホールケーキのようになるのだ。
中年オヤジの缶ビールが、子猫が風で吹き飛ばされたと同時に、意識が子猫に集中していたため握力が弱まったのか、手から滑り落ちた。
ロング缶も地面に一直線に落下。
このロング缶と子猫が同じ運命をたどるのは、誰が見ても明らかだった。
「もう、ダメだ‼︎」仲本が叫んだ。
(なんだよ、このグッズ、危険を知らせるため
だけのグッズなのかよ!)
(こんな時、何の役にも立たないなんて…)
多々野が目を伏せた。
その瞬間だった‼︎
夏美は地面を蹴った。高度80センチ。低空飛行。しかし、そのスピードはまさにジェット機。あまりの速さで、瞬間移動したように見えた人もいるに違いない。
通行人が道端で一列になって並ぶ下を、
子猫めがけて、一直線に、弾丸のような速度で地表を滑走する。
落下する子猫を地面スレスレで、バレーボール選手のレシーバーのごとく、全身を最大限のばし、左手でキャッチ。
片やロング缶は地面に転げ落ち、ころころと転がりながら、路肩の溝で止まった。残ったビールが飲み口からこぼれ出ている…。
横たわる夏美の手の平からは、何事もなかたかのような「ニャー」と言う子猫のかわいい鳴き声が…生きている。
おばあさんたちから、拍手が沸きおこる。
「良かったわね。助かって!」
「……でも今の子、飛んでなかった?」
「まさか、スーパーマンなら、あんな低空飛行はしないでしょ!全力で走っただけだわよ」と主婦の声。
「でも、物凄いスピードだったのは、確かだよな」と松葉杖の青年もびっくり。
「あまり低空だったから、パンツも見えなかたよな」と勿体無さそうに、ロング缶に目をやる酔っ払いオヤジの顰蹙を買うひと言が、なぜか場を和ませた。
スライディングしたにもかかわらず(実際は飛んでたわけだが…)制服は汚れもしない、さらに擦り傷ひとつ負わない夏美を、疑問に思う人は、1人もいなかった。
【夕暮れの公園】
「ごめんなさい」と飼い主の中年のおばさんが子猫を抱きかかえ「この子、ミルク容器踏んづけて、全身ミルクだらけになっちゃって…絨毯を拭いてる間、ベランダに出てもらってたの。まさか、手すりの上に登っちゃうなんて…どうやって登ったんだろ?」と、平謝り。
高いところに登るのは、猫の習性である。「大丈夫?乳臭くない…?」
「大丈夫です。今度からは、そう言う場合は
お風呂場か、シャワー室に入れてあげて下さい」と冷静にアドバイスする夏美。
中年のおばさんは、何度も夏美の方を振り返り、「ありがとう」とお辞儀をしながら去って行った。
夏美は、水飲み場でベトついた手を洗い、少し手を痛めたのか、子猫をキャッチした手首を振りながら、近くのベンチに座る2人のもとに…。
「いや〜夏美ちゃん、お手柄だったね。 流石、レスキュー隊員の娘、血は争えないってことですか」
と多々野が冗談っぽく、良かったねって感じで夏美に話しかける。
すると夏美は、無言のままヘッドホンを外した。
そして、ニコニコ顔の多々野に、「多々野くん、あなた、私たちを騙したでしょ!」
「えっ?」と驚く多々野。
「一体どこから持って来のよ、このグッズ‼︎ 正直に言いなさいよ‼︎……もしもよ、もしも子猫じゃなくて、赤ちゃんだったらどうするつもりだった?」多々野に問いつめる。
「そして、もし助けられなかったら、私たちが殺したことになるのよ‼︎…そしたら、どうするつもりだった‼︎」
「どうするつもりって…」
「無責任に私たちに、こんなもの付けさせて…
ヒーローなんてね、漫画や映画の中の話‼︎
実際はそんな甘いもんじゃないのよ‼︎」何も言い返せない多々野。
あまりの夏美の剣幕に、隣の仲本も一緒に叱られてる気分に…。
暫くの沈黙のあと。
多々野は声高々に叫んだ。
「…俺はお前らを見返してやりたかっんだよ‼︎」
「都市伝説ボーイだの、陰謀論者だのってバカにしやがって…」メガネがくもり、多々野の膝の上の水晶の玉の上に、光るものが垂れていた。
「えっ多々野くん…」
多々野がこんなに怒った表情を、夏美たちに見せたのは初めてだった。
「べ、別にバカになんかしてないわよ、むしろ物知りだって、ね、仲本くん…」と興奮する多々野を静めようと夏美。
「あ、ああ、ぼ、僕たち、い、いや夏美ちゃんと僕なんか、あそこのコンビニのお弁当が美味しいとか、あそこの犬はよく吠えて、リールが切れたらヤバイとか、せいぜい町内のところで止まってるに…」
「き、君は世界情勢とか、移民問題とか、これからは起業して副業を持たないとダメだとか、凄いなって…」
「そうよ、レベルが違うなって…話の内容について行けないから、都市伝説ボーイとか、陰謀論者で終わりにしてるだけなの、ゴメンね。多々野くんがそんな風に思ってるなんて、夢にも思わなかったわ、本当にゴメン…」と、座っている多々野に優しく視線を合わる夏美。
「そりゃ宇宙人までいっちゃうと、ちょっとね」と、済まなそうな表情で、仲本と顔を見合わせる夏美。
それを見て、多々野がポツリ。
「実は、俺んちの離れに宇宙人がいるんだ」
一瞬静まり返り…。
「あなたね〜せっかくいいところで話を
終わらせようと思ったのに〜」と呆れ顔の夏美。
「終いには友達居なくなるぞ」と夏美に輪をかけて呆れ顔の仲本。
「それじゃ、このグッズはどう説明すればいいんだよ」仲本に食ってかかる多々野。
「確かに…点滅する水晶玉や、ヘッドホンの声は何とかなるけど、空中浮遊は説明出来ないな」
「もし出来るとしたら、米軍の秘密兵器か、
いつも君が言ってる、NASAのなんとかぐらいだね、それに…」
仲本は声を詰まらせた…。
「どうしたの、仲本くん?」と
フリーズしてしまった仲本を揺する夏美。
「あの時、夏美ちゃんの心の声が聞こえたんだ…夏美ちゃんが、僕の寝ぐせをなでてくれたとき…内心は、どうしよう、怖いって…もし、マンションの屋上に、自殺しようとしている人がいたらって…」
「き、聴こえたのか、夏美ちゃんの心の声が‼︎」とビックリしたような多々野。
「そうか、そのブレスレットは、心の声を聴くことが出来るグッズだったんだ‼︎」
目が点になり、顔を見合わす夏美と仲本。
「カア〜ッ…カア〜ッ」
カラスの鳴き声が夕焼け空にこだまする。
場所が変わって、多々野の家の離れの勉強部屋。下が駐車場になっている。
「正解‼︎」
「それ、相手の心を読むグッズだから…
敵が何考えてるかわかれば、襲われた時、対処しやすいでしょ」と多々野の勉強机の椅子に座ったまま、玄関口で立ったままの夏美と仲本に、護身グッズの説明をし始める、宇宙人のビビル。
そのビビルと彼らの真ん中に立っている多々野も、ビビるの解説に興味津々。
「ブレスレットが、装置者の血流(心拍)を加速させ、脳を超共感状態に強制移行させ、同時に相手と目が合った瞬間、ブレスレットが脈を打ち、装置者の鼓動と相手の鼓動を同期させるんだ。結果、相手と自分が同じ生命リズムになることで、相手の脳波や思考が、自分の脳内にノイズとして流れ込んでくると言う、理屈です」
とニッコリ顔。
「ヘッドホンに見えるグッズは、飛行用。
装着者の脳波でコントロール出来るんだ。
すぐに逃げらるからね。
聴こえたでしょ危険て?
ただ、最低飛行高度にセッティングしたのはまずかったね」
「この飛行理論は、周囲の空気を強力に吸い込み、ヘッドホン内部の超小型ユニットで、一輝に圧縮・加熱してプラズマ化し、音速を超える速度で、噴射する仕組みです。
これなら、空気があれば、地球上どこでも飛行可能ってことです」
「彼女が火傷しなかったのは、同時に冷却装置が作動したためなんだ…あとこの球体は…」
「もう、そのくらいにしとけよ、ビビル。お前少しは空気読めよ」と解説は訊きたいのだが、玄関口で立ったままの二人をチラ見する多々野。
1DKの仕切りのない多々野の部屋。
30インチの真空管のテレビ、積み上げられた5〜6台のビデオデッキ、旧式の電気コタツ、漫画本が乱雑に詰め込まれた本棚。壁には「ブレードランナー」「エイリアン」など、昔のSF映画のポスターが、壁が見えないくらいベタベタと貼ってある。レトロな昭和の時代に紛れこんだような部屋の中。
微動だにしないで、小さな宇宙人ビビルを見つめる夏美。
その夏美の後ろで、ジロジロと観察するように、ビビルを観る仲本。
「改めて、初めまして、宇宙人のビビルです」
いきなり挨拶をされてもと、まだ現実を受け入れることが出来ない2人。
身長150センチ前後、肌の色は人間と変わらない。頭はつるつるで、どちらかと言えば、白人系である。
服装は4月なのに、Tシャツに短パン。
多々野のを借りているのだろう…少しダブダブである。
違うところと言えば、昔のアメリカのSFドラマ、スタートレックのバルカン星人、ミスター・スポックのように尖った耳くらいである。
「これ、僕の護身用グッズなんだけど」と多々野に返してもらったグッズを手にして、自慢そうにビビル。
「昼寝の最中に、この猫がどこかへ行きはしないかと心配で、脚怪我してるくせに動き回るから、猫に照準を合わせて置いたのさ…
この球体は猫に危険が迫ったとき、点滅して教えてくれる仕組みになっているんだ」
足元にいる、片脚に白い包帯を巻いている茶トラの猫の頭をなでながら
「猫の行動範囲なんて、せいぜい100メートル。正確に護身グッズが役に立ったってわけね。助けた子猫、この近くだから、将来お前と出会うことになるかもね、母ちゃん」
とビビルの脚にまとわりつく猫の名前を呼んで、優しく語りかける。
猫の名前は多々野が命名。
元々は野良猫で、初めて出会った時、すでに3匹の子持ちだったとか…。
この猫、宇宙人と相性が良いみたいである。
「しかし、なんの断りもしないで、持ち出すなんて、ひどいよお前」
「だって、俺が興味深々なのを知りながら、護身用グッズって言うだけで、詳しく説明してくれないじゃないか…」と自分のやった事を正当化したい多々野に…
「どこの星に、自分の持ってる護身用グッズを、相手の星の住人に、手取り足取り教えるお人好しがいるっつうんだよ」
「まだ知り合って、1カ月だぜ…」と正論を言うビビル。
「…ビビルの言う通りだ…ゴメンね」
素直に謝る多々野に…。
「まっでも、いきなりの宇宙人登場より
この流れが、良かったんじゃないの?物的証拠もあるし…疑い深い2人には、丁度良かったんじゃないのかな…」と2人をからかうように、見つめるビビル。
いつもの夏美だったら、多々野に「あなた、私達のことを何て伝えたのよ!」と、いせい良く多々野を問い詰めるのだが…。
何も言えない夏美を尻目に
「な、居たろ宇宙人」と呆然とした表情の
2人を覗き込む。
そして「このことは絶対に秘密だから…絶対に…」
と急に真面目な顔になり、人差し指を立てて、自分の唇に持っていく多々野。
口止めのサインである。
当然のように、うなづく2人であった。
「にゃ〜」
お腹がすいたのか、猫の鳴き声が多々野の
部屋から漏れていた。
(第2話:原子分解収納銃へ続く)




