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正しい選択とは

 レスターが転移陣で消えた事を知ったブリトニーは半狂乱だった。


「お義兄様がどうして攫われたのです?しかもクレアさんと一緒とはどう言う事なの?」

 ブリトニーは不安と不満から絶叫した。侍女のシーナがオロオロしながらブリトニーを宥めるが、彼女の耳には届かない。

「お嬢様。もうそろそろ旦那様が迎えに来られます。どうか落ち着いてくださいませ。」


「ブリトニー嬢。アトキンズ副団長を狙った転移魔法陣が作動して、執務室にいたクレアが巻き込まれたんだ。

 理由はわからないが、レスター・アトキンズを狙ったのだとしたら、アトキンズ伯爵令嬢である貴女もここにいては危険なのです。」


 先程から何度も繰り返す言葉に、ブリトニーは納得がいかない。じゃあ早くお義兄様を助け出して!と叫んだ後、遂に意識を失った。

 彼女なりにぎりぎりの精神状態だったのだろう。崩れ落ちたブリトニーを、護衛騎士のマイクが抱きかかえて、ブリトニーが滞在している寮の客室へと連れて行った。

 

 残ったのは、ショーン団長、駆けつけてきたユーイン・ランバート総長、そしてジョシュアだった。



「転移前にアトキンズ副団長は手がかりを残しました。」

 ジョシュアが示したのは赤い小さな魔石である。


 この世界には魔力が存在する。魔力というのはいわばエネルギー源である。そのエネルギーを注入した、特定の用途に使うための石を魔石と呼んでいる。


 その魔石がひとつ、レスターとクレアが消えた跡にぽつんと残っていたのだ。


「この片割れをアトキンズ副団長が身につけているとすれば、石同士が引きつけ合うはず。

 ランバート閣下、お許しいただけるなら、わたしも捜査に加えていただきたく存じます。」

 ジョシュアは騎士の礼を取り、頭を下げユーインに許可を願い出た。

「特殊任務に長けている貴殿の協力が得られると心強い。わが辺境騎士団の精鋭と共に両名の救出に向かってほしい。」

「はっ、では直ぐに支度いたします。」



 翌日、アトキンズ伯爵自らがブリトニーを迎えるため辺境の地にやってきた。

 父と娘は涙の再会を果たしたが、伯爵はブリトニーの愚かな行動を叱責することも忘れなかった。そして、義理の息子レスターが転移陣で攫われた事を知り、守れなかったか、と肩を落とした。


 レスターが16歳の時に、エヴァンズ伯爵から頼まれて養子とした。アトキンズ家は幼い娘しかおらず、いずれ養子を取る事を決めていたが、()()エヴァンズ伯爵の次男レスターを養子にしないかと打診があった時、正直驚いた。


 レスターは感情の起伏の乏しい物静かな少年だった。そのレスターが騎士団に入団するとは考えてもみなかった。

 いずれブリトニーと結婚してアトキンズ伯爵を継ぐ身だが、レスターにはその気概が感じられない。学業は優秀だったので、領地経営の事なども学べばすぐに理解するとは思う。しかし、レスターの目はいつもブリトニーやアトキンズ家の()()を素通りしていた。

 勿論礼儀正しいし、義家族の我々に恩義を感じているのはわかるが、だからといってブリトニーに対する恋愛感情は窺えなかった。


(レスターが何を思いこのような辺境の地に志願してやってきたのか?)


 養子にしたといっても、貴族学院の学費はエヴァンズ家から既に支払済であったし、卒業後すぐに騎士団に入団してしまったので、アトキンズ伯爵がレスターの為にした事はほとんどない。

 むしろ、金銭的支援も何もないまま名ばかりの養子にして、ブリトニーと結婚して家を継ぐ義務だけ押し付けている事に、なんとも言えない後ろめたさを感じてしまうのだった。


(エヴァンズ家……、領地を持つ訳ではなく、では名ばかりの爵位かと言えば王城の政権中枢部に顔が利き、幅広い人脈を持っており、王家の懐刀と呼ばれている。

 そんなエヴァンズ家が、なぜ取り立てて目立つところのない、ごく普通のアトキンズ家へ、婿養子にしないかと打診してきたのだろうな。)


 アトキンズ伯爵は疑問を持っていても、エヴァンズ伯爵に理由を問いただす事は無かった。たとえ尋ねても、はぐらかされ丸め込まれるのは目に見えている。だから受け入れることにしたのである。


 アトキンズ伯爵が選ばれたのは、実にのんびり穏やかで素直な性質であるのだが、本人は気がついていない。

 人が良く騙されやすそうな、この人の良い男を密かに守っているのは、エヴァンズ伯爵なのである。 エヴァンズと繋がりが深いというだけで、周りの貴族達はアトキンズ家に手出しは出来ないと思うのだ。仮に何らかの悪意を持ってアトキンズ伯爵を陥れたとしたら、それは何倍にもなって報復される事だろう。

 


 目が覚めたブリトニーに、ここにいては危険だと言い聞かせたアトキンズ伯は、何とか彼女を帰りの馬車に押し込む事に成功した。

 ランバート辺境伯の好意もあり、王都までは騎士団から護衛を付けてくれることになった。アトキンズが連れてきた護衛騎士、ブリトニー専属の護衛マイク、さらに辺境の騎士達。鉄壁の守りで2週間の馬車旅を終えて王都に帰還したアトキンズ伯爵一行だった。


 無事の帰還後、アトキンズ伯はエヴァンズ伯爵に面談を申し入れた。

 そして話し合いの結果、レスターの養子縁組を解消し、ブリトニーには新しい婚約者を探す事にした。

 が、灯台下暗しとでも言おうか、護衛騎士のマイクに守られ危険な状況を共に過ごすうちに、ブリトニーの心はマイク一色に染められてしまっていたのである。


 16歳の少女が、危機を救ってくれた護衛騎士(ヒーロー)に恋をしてもそれは仕方のない事。あれ程、愛しいお義兄様と連呼していたブリトニーだが、事あるごとにマイクを呼びつけ、護衛だけではなくお茶の時間にも付き合わせるようになって、いよいよアトキンズ伯爵は決心した。


 マイク・スピアは男爵家の三男、一応貴族である。婿入りに障害はない。真面目な性格だし、ブリトニーを大切に思う気持ちは本物だ。

 もう、これはマイクしか居ないという事になり、ブリトニーはマイクを婚約者として迎えるのだか、それはまだ後の話。

 







お読みいただきありがとうございます。


レスターとクレアはどうなった?と気になる所で、ブリトニー退場です。アトキンズ伯爵は、エヴァンズ伯爵とレスターの秘密、自分の役割を知る事になります。

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