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怒れる男たち

 人の命を何だと思っているのだろう。


 初めてその犯罪、人身売買を知った時に感じた憤りは忘れない、そして誓った。

 ジョシュア・ノックスは愛する女性、クレアを巻き込んで不幸した犯人を必ず捕まえると。

「命に代えても。」

 子どもの頃からクレアだけを見ていた。彼女の幸せの為に命を差し出す事になっても躊躇いはない。

 だが、共に過ごす未来を望むジョシュアは、がむしゃらに剣の腕を磨き続けた。



 ファインズ伯爵夫妻が不幸な馬車の事故で亡くなったのは、ジョシュアが13になった年の事。母がファインズ家の一人娘の乳母として、幼少時より世話をしていた関係で、ジョシュアもまたファインズ家で過ごす事が多かった。


 お嬢様の弟的なポジションにあって、執事やメイド達からも可愛がられていたが、所詮使用人の息子に過ぎない。

 姉とも慕うお嬢様に婚約者が出来た時、当然それはジョシュアではなかった。


 クレアの婚約者はいけ好かないない男だった。

 婚約者のくせに、手紙も送ってこないし、花束のひとつも送ってない。初めは、嫌われたのかしらとショックを受けていた様子のクレアだったが、そのうち婚約は貴族の務めだと割り切ってしまった。

 クレアも婚約者のレスターもまだ子どもだったので、親が決めた婚約者とどのように付き合っていくのかよくわかってはいなかった。そしてジョシュアは彼らより更に子どもで、クレアを慰める事すら出来なかった。


 やがて運命の日が訪れる。

 ある貴族に招かれてその領地を視察で訪れようとしたファインズ夫妻が、崖から馬車ごと転落してしまったのである。同乗していた執事と侍女、御者、そして馬も含めて、全ての命が失われた。


 ファインズ伯爵を招いたのはこの国の大公家であり、ジョシュアが事故の原因を探ろうにも、手出しの出来ない相手であった。

 元々前国王の王弟であり、現国王の叔父、ゴールディング大公がファインズ伯爵を呼び出した理由は、自領に蔓延る不穏な動きを調査する為だった。


 9年前、異変に気がついたのは些細なきっかけだった。

 大公領は豊かな農地であり、この国の穀物庫と呼ばれているのだが、それが天候不順ではないのに不作が2年連続し、調査に乗り出した大公は、領地の人民の数が減っている事を把握した。


 気付くのが遅いと言われればそうかもしれない。大公家ではひとりの優秀な家令が大公の信頼を受けて、領民の管理や経営を請け負っていたので、初めて事実を知ったゴールディング大公は驚愕した。


 消えたのは壮年の働き盛りの男だけではなく、女子供にも及び、中には生活の痕跡を残したまま一家全員が消えているという家もあった。

 領地の全領民と農作地の状況を、部下に調べさせた大公は、やがてひとつの推論にたどり着く。

 それは離れた地にある大国を滅亡に至らしめた、漆黒の旅団という名のテロ組織が関わっているという事で、長年大公家に勤めていた家令が、その組織のメンバーだった。

 家令は、大公が気がつくとすぐさま姿を消した。


 そして旅団に関わる人間を調べるために密かに呼び寄せたファインズ伯夫妻、彼らは優秀な諜報員だったが、どこから漏れたのか、夫妻は馬車の事故に見せかけて暗殺されたのである。



 ここまでは、第三騎士団の内部で共有されている内容である。

 騎士団内に密偵が存在している事をわかった上で、敢えて情報を共有する。テロ組織だけではなく、近隣諸国からの諜報活動もある、というのは想定内だ。当然、この国からも近隣諸国へ諜報部員を送り込んでいる。


 さて、ジョシュアは一心に剣技を磨き、高位貴族の子息達の嫉妬や嫌がらせに屈せず、貴族学院騎士科をトップで卒業した。

 その美しい面立ちから、爵位の低さにも関わらず近衛騎士への抜擢を打診されたが、彼が希望したのは、第三騎士団であった。全てはクレアの両親、ファインズ伯爵夫妻の暗殺の真相を知る事と、クレアの憂いを取り払って彼女を幸せにする為だ。

 執着していると言われたら否定はしない。

 ジョシュアはクレアしか要らないのである。騎士としての名誉も、贅沢も、美しい女も、何も要らないのである。

 幼い頃から共に過ごしてきた、愛しい娘の笑顔を守りたい、そして隣にいるのは自分でありたい、それがジョシュアの切実な願いだった。



 ランバート辺境騎士団長、ショーン・ブレアを前にしても、ジョシュアは一切の迷いがない。

 

「王城中枢部には既に不穏分子が入り込んでいます。

第三では、各地に人員を派遣して調査を進めています。」


「それらは辺境騎士団の俺たちが知って良い内容だと?

 それに、君自身や、或いは俺が不穏分子ではないと証明できるのか?」


「それは、お互い信じるしかありませんね。」


 ジョシュアは胸元から第三騎士団からの親書を取り出して渡した。ショーンとレスターは、その親書を真剣な眼差しで読む。


「僕は、全王国騎士団達が一致団結せねば漆黒の旅団とは戦えないと考えています。

 既に辺境の地は巻き込まれている。先日馬車を襲った農民達は、住む場所を追われて、生きる為に馬車を襲ったと自白しました。

 旅団のやり口は、こうです。

 農地を焼き払い、人質を取って絶望感を植え付け洗脳するのです。そして恐怖心を抑える麻薬を与えます。」


「それは人体への影響が出るだろう?農民達を奴隷として売買する時に、壊れてしまうのは避けたいのでは?」


「ですから、奴隷は主に女子供であり、男は洗脳、投薬で使い捨ての駒として利用するのです。」


 ジョシュアの話を聞いて、ショーンとレスターは、沸々と湧いてくる怒りに顔を染めた。


「なんて事を……。

 人間は物じゃないんだ。それを道具のように扱うとは。」


 その場にいる3人の男達がそれぞれの思いに沈み込んでいる時に、クレアの悲鳴が聞こえたのだった。



お読みいただきありがとうございます。

重い話になってしまいました。

国名とかは追々出して行きます。

なかなか更新できず申し訳ありません。スローペースですが、お楽しみいただけると幸いです。

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