表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/43

光と共に消えたふたり

前回、ジョシュアが人身売買と辺境の農民との関連を団長達に語っているのですが、それは次回に。

誤字報告ありがとうございます、助かります。

 ショーンから下がるように命じられたクレアはホッとして副団長執務室へ戻った。

 部屋を去る間際にジョシュアは

「返事を貰うまで僕は帰らないからね。」とウィンクをしたのだが、その時のレスターの顔を思い浮かべてげんなりする。なぜレスターに睨まれないといけないのだ?


 クレアは室内を片付け、届いた手紙類の整理と今日の予定を確認した

 レスターの机の上にはブリトニーが焼いたクッキーの包みが無造作に置いてあった。中身は無い、という事は食べたのだなと嬉しくなる。 


 レスターは元婚約者ではあるが、あまりにも交流が無かったので彼に対しては特に思い入れはない。しかし、世間知らずで少し我儘だが憎めないブリトニーの恋は応援しており、2人が結ばれて幸せになるのを望んでいた。


(だからと言って、ブリトニー様が強引に辺境までやってきたのはいただけないわね。わたしは平民だから良かったものの、ブリトニー様は伯爵令嬢なのですもの。危険な目に遭わないとは限らないわ。)

  

 そんな事を考えながら仕分けする書類の中に、差し出し人の記名が無い白い封筒を見つけた。宛先は「ランバート辺境騎士団、副団長閣下」となっている。


 何故そうしようと思ったのか、後から考えてもわからない。

 クレアは抽斗からペーパーナイフを取り出すと、躊躇いもなく封を切った。中には折り畳まれた白い紙が入っていた。

 その紙を広げて中身を確認しようとしたクレアの指先に、小さな痛みが走った。


「つっ!」指先には赤い血の玉が出来ている。どうやら隠し針が仕込んであったようだ。そしてその血は折り畳まれた紙にポタリと落ちた。

 その途端、白い紙には紋様が浮かび上がり、四方へと光を飛ばし始めた。


「きゃあ!」

 

 思わず叫んだクレアの声に、応接室にいたショーン達が慌てて走ってきた。


「クレア!どうしたっ?」


 駆けつけた3人と、近くにいた騎士達が目にしたのは、紙に浮かんだ魔法陣から発する光に包まれたクレアだった。

 誰よりも早くレスターが近づいて、クレアに手を伸ばす。クレアも必死でその手を掴もうとして、掴んだ瞬間の事だった。

 二人は、皆の見ている前で消えた。


「クレアーっ!!」


 叫ぶジョシュアが目にしたのは、紙に浮かんだ魔法陣がゆるゆると消えていく様子だった。


(あれは転移の魔法陣だ。)


 状況を正しく理解したジョシュアはショーンに向かって告げた。


「ブレナー団長。いよいよ奴らの動きが始まったようです。僕はすぐさま第三に連絡を取ります。

 標的はレスター・アトキンズ、つまりエヴァンズ伯爵家だけだと油断しておりました。

 まさか、クレアまで狙われるとは………。」


「いや、これはレスターを狙ったものだ。そこにクレアが巻き込まれたのだろう。」


 封筒を拾い上げてショーンは言った。

「何故、クレアが勝手に封筒を開けてしまったのかはわからないが。」

「団長閣下。お話したい事があります。人払いを。」


 思い詰めた表情のジョシュアをショーンは強い目線で睨む。

「先程の話に関連すると考えて良いのだな?」


「はい。」


「共有はどこまで?」


「団長閣下の胸ひとつにおさめていただければと。」


 ショーンは頷き、自分の執務室へと移動して、会話を遮断すること道具を取り出した。

「辺境には魔術を使える人間はおらんのでな。」



「団長閣下。既にご推察かと存じますが、クレアは平民ではありません。ファインズ家の爵位は一旦王家の預かりとなっていますが、クレアが配偶者を得る事でファインズ伯爵家の復興が叶うことになります。

 王家の影として長年仕えてきたファインズ夫妻の功労に報いるために陛下から温情を賜っております。」


 ファインズ伯爵は元々第三騎士団に所属する騎士であった。

ある案件で潜入操作を担当した際に、利き腕を負傷した為に騎士を引退したが、数々の功労の恩賞として、『ファインズ伯爵』の名前を賜った。 

 その後、ファインズ伯爵は、王族専用の影として、情報収集活動に従事することになる。

 やがて娘が産まれ、その子にクレアと名付けたのだが、そのクレアが10歳になった時に、隣の領地エヴァンズ伯爵家の次男レスターと婚約した。いずれ親戚となる二つの伯爵家は、共に王族専用の特別な使用人であった。

 エヴァンズは、主に実行部隊であり、ファインズが入手した情報をもとに、国内に蔓延る不穏分子をこっそりと処分していた。


 クレア15歳の時にファインズ伯爵夫妻は馬車の事故で亡くなるが、実はこれは事故ではなく暗殺なのであった。

 一方エヴァンズ伯爵は、訃報を知るとすぐに、クレアとレスターを守るための行動を起こした。

 2人はまだ成人前だったので、両家から籍を抜く事によって守る事にしたのだった。



「そこまではわかった。色々聞きたいことがあるが、それは今は置いておく。

 それであの魔法陣は?」


「人身売買組織が動いている、という事です。クレアの両親を暗殺したのもそいつらです。」


 ジョシュアの美しい水色の目が昏くなる。


「エヴァンズ伯爵は強い。組織が狙ったのがエヴァンズなら撃退できたでしょう。

 しかし、事情を一切知らないレスター・アトキンズと、そもそもが無関係のアトキンズ伯爵家の人々を人質に取ればどうなる?養子に出してまで守ろうとしたレスターを、エヴァンズ伯は見捨てるでしょうか。

 彼は騎士として大層優秀なので、自分の身を守る術はあります。

 しかし、今、辺境(ここ)には、アトキンズ伯の一人娘であり、レスター副団長の義妹ブリトニーがいる。彼女はレスターの弱点です。狙われるとすれば本当はブリトニーの筈でした。

 ブリトニーを攫い、レスターを誘き出して、人身売買組織に今後一切手出しが出来ない様に、エヴァンズ家ごと潰すのが、奴らの狙いだと思われます。」


 

お読みいただきありがとうございます。

クレアの両親の死の謎と、レスターの実家との関わりが少し明らかになりました。

この世界は一応魔術はありますが、使い手の数が少ないので辺境では滅多にお目にかかりません。

緩い設定ですので、温かい目で見てくださればありがたいです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ