28 ついに見つけた
ある日、僕は夢を見た。
夢の中で、友人のタケルと他愛ないことをしゃべっていた。
僕は、夢の中でさえもコンクールのことを気にしていた。
「コンクール入賞歴はないんだ?ふうん、意外……」
「そんなに上手なら、なぜコンクールに出ないの?」
「槇先生の息子さん?実はそんなに上手くないとか?」
これらは、実際に面と向かって言われたことはない。母親の門下生同士の会話や、話の流れで僕のことに及んだ時、大学構内を歩いている時など、コンクール関連の話題が掠めるのだった。
母親もコンクールには出たことがない。昔は今よりコンクール自体が少なかったし、母親の先生からは、コンクールよりも大学卒業時に首席、大学院卒業時に首席を目指すように指導されたという。同期で一位は一人、成績や人物像も加味されるため、コンクールの一位より貴重だと考えられたからだろう。そして母親は両方、それを手にした。おそらく簡単なことではなかっただろう。僕が母親を超えるには、たとえそれが同じハードルではなくても、それくらい高く感じていた。
タケルには『文化の衰退』のことを話して以来、意外にも興味を持たれたようだった。僕は、夢の中でタケルに相談していた。
「なあ、タケル。僕の長所って、何?」
「シンイチの長所?そりゃ簡単だけど、難しいな」
タケルは、夢の中なのに真面目に考えてくれた。
「なんで?簡単なのに難しいって何?」
「だって、いいところがいっぱいあるんだ」
「思いついたのから言ってよ」
「まず、性格がいい。完璧ってわけでもないのがまた人間らしいし……。それから、いつも穏やかで人に優しい。誰にでも優しい……と言おうと思ったけど、最近は女子を警戒してる」
「バレた?」
「うん。でも、それはいいことだよ」
「そうなの?あまり深く考えていなかったけど」
「あのまま、女子全員に優しくしてたら、各階の女子トイレで戦争が勃発するぞ」
「なんだソレ」
「わからないのか、じゃあ違う方向から教えてやる」
「お願いします」
「もし、シンイチが今まで通り女子に優しくて、かおりちゃんが同じ学校だったら、ヤバいと思う」
「……確かに。そんなことが現実になったら、僕は誰にでも優しくしている場合ではない。かおりの観察日記を書きたくなる」
「ピーマンじゃないんだから……そうじゃない。シンイチは、かおりちゃんのことを好きなことが、すぐに周囲にわかる。女子はそれを察知して、かおりちゃんを陰でいじめると思うな。シンイチは自分でわかってるのかどうかわからないけど、モテるからな。それに、かおりちゃんが他の男に優しくされたら?」
「イヤだ!」
「ほらな?」
「あ……」
「だからシンイチみたいな男は、女子に優しくするのは特別な一人だけでいいんだと思う。大切な人がいるなら、その人を守るために敵と戦ったり、敵を倒したりするんじゃないか?」
「……僕は誰とも戦ったり倒したりしたことがない」
「マジか!シンイチって弱いんだ?」
「弱い?」
「さては戦いを見たことないな?戦ったことないんだろ?弱いっていうのはな、戦って負けた奴ではなく、戦ったことのない奴だ」
「そもそも戦う相手がいない」
「いつも穏やかなシンイチに、誰が戦いを仕掛けると思う?」
「ううん……わからない」
「シンイチに勝利して嬉しい人は誰だ?または、シンイチに負けて悔しがる人は誰かいる?」
「誰かいるかな……何か、誰もいないような気がする」
「本当にそう。シンイチって、逆に言うと、つまらないんだよ。いや、ダイスキだけどな、戦うとなると、の仮定の話な?誤解するなよ?」
つまらないんだよ。
つまらないんだよ。
つまらないんだよ。
つまらないんだよ。
つまらないんだよ。
これか。
目が覚めても、タケルの言葉が頭から離れなかった。




