004―2 4回目の憑依 ~一騎討ちするときは体力ゲージに気をつけてね~
―― 184年4月 夏 ――
夏、またまたこの時期は北平で民衆蜂起をやってるらしい。公孫瓚は何をやってんだか。
『張角軍が譙へ攻め込みました』
……来たか。
「孔伷様、張角軍が譙に攻め込んで来ました! 張角軍の兵力は――「10万ッだろ?」――です!!」
がしっと元気よく拱手しているこの世界での漢武、名前はなんだろう。
「漢武……なんだっけ?」
「はい!! 俺の名は漢武官弟と申します!! 俺ら兵士は孔伷様に最後までついていきますッ!!」
「っ! ……お前らの命、わしにくれるのか?」
「はい!!」
「そうか……」
恐らく負けるってのに……、なんか少しだけ悪いなぁ。って思ってる俺の善良さを誰か誉めて!
……とまあね、ウィットに飛んで行った冗談はさておき! ゲームの中とはいえこの世界で生きる奴らをぶっ殺すのか、さすがに自分の手を汚したことはないし、グロは苦手なんだけどな。
肉壁を前面に出しつつ安全重視で張角軍と戦って、なるべく『ふっ、孔伷殿こそ生涯の強敵よ……さらば!』みたいに、捕まったときにさくっと一思いにやってもらおう大作戦を打ち立てた。
『…………』
孔伷さん、そんな目でも見ても無駄だぞ。ていうかそのプラカード、いつ準備したんだ。そういうの出来るならもっとやり取りしようぜ!
「――出陣しようか」
「孔伷様、ご武運を――」
漢文……、ありがとう。あまり表情読めないし、今回の漢文はすぐ暴力振るうけど、今までありがとな。
◇
―― 譙の戦い ――
【1日目】
自軍兵力1部隊2万、対する張角軍の兵力は10部隊10万8000。
天候は雨、戦場の地図を見ると城の数は河を挟んで北に2つ、南に2つ。城の回りは平地で囲まれやすい守るには不利な立地。
孔伷さんが出来る陣形は、“Wの形”をした死亡率の低い【箕形】、“○の形”でどこから攻められても防御できる【方円】、“+の形”で毎日負傷兵を治療できる【生者】の3つ。
手持ちの特殊能力は、四方のどこかに火を放てる【火計】、混乱した部隊を抑える【収拾】、部隊全体の士気を高揚させる【激励】の3つ。
うーむ、見事なまでに後方支援タイプ、使えそうなのは【激励】ぐらい。そして初日から雨模様、すでに特殊能力の1つが使えない不運っぷり。ちなみに兵士たちの士気も44と低くて激励しても焼石に大雨……。
対するあちらさんは、北から張宝たち3部隊、西から張梁たち4部隊、南西から管亥たち3部隊で士気は平均90と激高、作敵交渉をした龔都もしっかり出陣している。
今からでも逃げるって選択肢……ないよね。
目の前には2万のリアル兵士たち、頭の中には例の情報チート画面。
……こっちに武将がいないせいで、死へのカウントダウンがはっきりわかるだけの能力だけどね。
さあ、気を取り直して、まずは士気を上げよう。
「おおい! 皆のもの、わしの武を見せてやろう! 敵をけちらしてやろうぞ!!」
――うおおおおおおおお!!
2万の声量ヤバし! 誰だお城から動かないとか、蹴散らせるわけないって言った奴は! そういう声だけはしっかり聞こえてるからなッ!!
まあ、それでも士気が20も上がって64だ。
張角軍の動きは――
「孔伷様、危ないッ!」
へあ? なんかキラリと光る銀色が飛んで――
「ぐあぅ! いってえええええええ!!」
右腕切れた、血が出てる! 待って、なんで俺が痛がってるんだよおおおお!? ――やっぱりおかしいぞ。
「刺客が紛れ込んでいただと!? も、申し訳ございません!!」
「ひい、痛い痛い痛い痛い痛いぃよ!」
「……恐れながら申し上げます!! 一軍の将がそれしきの傷で騒がれますと士気にかかわります!!」
それしきのって、俺は痛みに敏感なんだよおおおお!! 二の腕ざっくりいってるんですけど!
「こ、この中に華侘先生はいませんか? お医者さんはいませんかあ!?」
周囲なんて気にせずわめき散らす孔伷を無視して、漢武が右腕をがっちりと布で止血してくれてるけどめちゃくちゃ痛い。
このとき情報チートのおかげで張角と部下のやり取りが目に浮かんだ。
「孔伷陣営が騒がしいが……。なんと孔伷が刺客に襲われた!? ふっ運のない奴よ」
――まさかの犯人、第三者ッ!
ねえ、孔伷さんさぁ、もしかしてお得意の人物批評で誰かの名誉を深ーく傷けたりしてないよねえ? SNSがあったら匿名で悪口とか書き込んでそう。
小窓を見てたら、だらだらと汗をかき始めたけども。……こいつ絶対やってんな。
【2日目】
なんとか痛みに慣れてきた。傷口、ばい菌入ったらどうしよう……助けて華侘先生。
さて、明日には接敵しそうだ。部隊ごとの移動範囲が分かるから恐怖しかない。そもそも大怪我のせいで体力もないから激励も無理、ここは龔都に寝返りを打診するしかない。主導権がころころ変わる。
「龔都よ、貴殿のような者がなぜあのような逆賊に従う? 我がもとへ来い、共に戦おう!」
わかってるよな? 孔伷さん、自分の計略に満面のどや顔ッ!!
「黙れ黙れ、黙れぃ! 忠臣は二君には仕えぬのだッ!」
からの、どえええええええええッ!? 目玉が飛び出そうな孔伷さん、なんかざまぁ。
「なっ、バカな! あのとき貴殿は――」
――管亥殿の件なら前向きに考えておく、ではな。
あちゃー、これは……。
「ああ、あれか! うむ考えたぞ、しっかりと前向きに考えたが……お前のような奸賊とは共に天下を戴くことはないと判断したッ!」
「なあッ!?」
満面のどや顔からの絶望の顔……落差激しい。
孔伷さんが凹んでいる間も、城が攻め落とされていく。もうすぐ完全に包囲されてしまうな。ちなみに籠城戦は出来ない模様、謎のゲーム感が敵に回る。
【3日目】
2日目の劉辟の突撃で負傷兵士2573。こちらの反撃で劉辟の兵数1200。一気に城内は血生臭い空気が蔓延している。
そしてまた今日も劉辟が突撃……なんとか捕らえたけど味方の被害が……。
『孔伷が【鋒矢】の陣形を覚えました』
今ぁ? 城の外もヤバい、北側に流れている川の色……えぐ。
そうこうしているうちに、高昇、波才が次々と野城を占拠、張粱が目の前に迫るその時――
「玉砕覚悟で突っ込めぃ!! 大将首を挙げれば褒美は望みのままぞ!!」
いっそ清々しさを感じる龔都の突撃、コイツ許せんッ!
「死傷者3900人です!!」
孔伷の兵士はすでに1万を切ってしまった……。俺もかなり手が汚れた、眠れない……事もないか。
【4日目】
……恐らく今日で負ける。周囲は張粱、龔都の2部隊で2万に近い。
どうせ負けるなら、なぁ? 孔伷さんも俺の気持ちが伝わったのか強く頷く。……決して寝不足のテンションではない。
「龔都ッ! 貴公に将としての誇りがあるならば、わしと勝負せい!」
男には負けるとわかっていても挑まにゃならねえ時がある! それが今じゃああああい!! ひゃっはぁー! 斬る斬る斬る斬るキル斬るきkill斬る斬killきるキルアヒョー! ……決して寝不足のテンションではなぁい!
「はっ! わしを選ぶとは余程悔しいと見える! 良かろう、一騎討ちこそ戦場の華、いざ! 勝負!!」
「こ、孔伷見参! ふっ、やはり……一騎討ちは血が…………さわ――」
あれえ? 武力4、ヨン? くそ寝不足でぼーっとする。孔伷さんが俺の代わりに強がって見せてるけど、まさに蟲の呼吸だ。
「はっ! この龔都を相手にその威勢がどこまで続くかな、行くぞぉ!!」
くそ、おらああああぁぁぁ!! さっさとくたばれ糞野郎がああッ!!
互いに馬を走らせ……もとい動けなくて、龔都が馬で向かってくるのを待つ俺。興奮しすぎて傷口が開いた。もう顔も上げられない、迫る矛……。
「あっとと……はぼふ!」
バランス崩して体が傾く、ぶおんっと風を切る音が頭上でした。避けたというより――落馬した。腰痛い……。
「ははは、口ほどにもないな! おい、縛っておけ! 入城するぞ!!」
遠くで勝鬨を上げてるのが聴こえる…………。
◇
またもや処刑台、目の前には孔伷を見下ろす張角。
「大人しく降伏すれば良いものを……」
ああん? こっちはゲーム的にそれを許してもらえねぇんだよッ! 孔伷さんだってガンつけんぞゴラァ!? え、なんで目を瞑って大人してんの? 小窓ドンドン叩いちゃうよ、頭の中に拳を浮かべるも霧散した残念。
「ほう、まだわしに向かってくるか。む? 貴公、いや貴様は以前…………ああ、そうなのか。なるほどこれが渡り人か、どうやら別の場所でわしと逢った……、そしてわしに術をかけられたと見える」
渡り人? ってなぁに? はい、そこの孔伷さんも一緒に首をかしげない。待て、いま術って言ったな。なんでわかったんだ……?
「かつての我が師が語っておったのを思い出したわ。まさか本当に存在するとはな……。なんだその顔は貴様自身は知らぬと言うのか」
「し、知るわけないだろ! 気がついたら孔伷の中にいたんだぞ! なあ、俺のことを知ってるんなら助けてくれよ!」
「…………」
じっと見つめられる、沈黙が怖い。
「そうだ! なあ、俺が補佐すれば中華統一なんてあっという間だぞ! 聞いてくれよ、俺にはすげえチートがあるんだよ! 例えば――」
俺は必死で俺の有用性をアピールした……が。
「ふん要らぬ、わしが立ち上がったのは万民のため。その志さえあれば、貴様の知識なぞなかろうと天が導いてくれようぞ」
「そ、そんなこと言ったってお前はまもなく寿びゃああああああ――」
『禁則事項に触れました』
頭が割れそうになるなか、しっかりとお知らせだけが聞こえた。……そういう未来の出来事発言はタブー的なことはあるなら早め教えろよッ!
「ん? わしがどうした? まあいい、そろそろお別れだ」
「待って! ならせめてこの感覚共有的なものを消してくれ! 頼むよ」
前のお前がやったんなら、ここにいるお前も出来るんだろ!
ふっ、鼻で嗤われた気した、顔を上げると張角の冷たい目とつながった。
「あいにくだが、今のわしは、そんなもの知らん」
にやりと笑って手を振り下ろすのが最期に見た光景だった――
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