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星16 頼み事



 ある日の放課後。

 恐る恐る顔を出した職員室。

 いつもより五割増しの静音状態で接近したというのに、ツヴァイは気配に気づいて背後へと振り返った。


ツヴァイ「何だ、お前か。どうした? 提出物なら、ニオからもらっといたぞ」

ステラ「えっと、その……」


 いつもなら単刀直入に、掃除がなっていないとか、授業の準備はちゃんとしているのかと聞く所だが、その日のステラの口は、滑らかさを忘却したようにぎこちなかった。


ツヴァイ「何かあったのか?」


 怪訝そうに、それでいて少しだけ心配そうに聞かれる事に罪悪感が刺激される。


ステラ「いえあの、先生。お願いがあるんですけど……」

ツヴァイ「何だ、お前が俺に頼み事なんて珍しいな。いや、初めて……か?」


 驚いて目を見開かれるという大げさな動作が返って来たので、ついのけぞってしまい、せっかくの気力がしぼんていってしまう。


ステラ「や、やっぱりいいです。今のは聞かなかった事に……」


 慌てて、バックステップを取って回避しようとするが、遅かった。


ツヴァイ「出来ると思うか、この俺が」


 腕を掴まれて捕獲されてしまう。

 捕食者の目だ。怖い。

 なんか自分が小動物になってしまって、相手に食べられてしまいそうな気分。


 いつもはそんな事ないのに、この人時々怒ると怖いのだ。


ステラ「で、ですよね……」


 脱出失敗だ。

 ステラは頼み事について白状させられた。


 その内容はこうだ。


 とうに王族の身分を剥奪されているステラだが、用紙の上では情報が白紙にされても人間関係まではリセットできない。


 人の記憶を操作する事などどうやってもできないのだ。


 だからステラは、王宮にまったく関係のない身分になった今でも、王宮で過ごした頃の知り合いなら、顔も覚えているしたまにあって話をするくらいならできるのだ。


 それだけなら、貴重な人間関係を失くさずに済んだだけで済むが、それで終わらない話なのでステラは困っている。


 王宮で出来た友達、貴族の少女が同じ貴族からイジメられて引きこもりになってしまった。

 その友達は、人の集まる所を避け続けているのだが、どうしてもでなければならないパーティーが合って、やむなく外出する事に。


 けれど、イジメてきた者達もそこに現れるので、絡まれないようにステラについていて欲しいと言うのだ。


 話を聞き終えたツヴァンは、呆れる。


ツヴァイ「何が問題なんだよ。優等生のお前が俺に思わず相談したくなるくらい悩む様な事じゃないだろ」

ステラ「それ自体はそうなんですけど、話はそこだけじゃ終わらないんです」


 実は、ついていてやりたいのはやまやまなのだが、ステラにも問題がある。


 そのパーティーに参加する人物には、ステラが苦手とする人物の名も含まれていたのだからだ。


ツヴァイ「お前に苦手な人間なんていんのかよ」

ステラ「失礼ですね。いますよ。私にだって」


 まったく、この教師は自分の事を何だと思っているんだろうかと憤慨する。


ステラ「ヨルダンっていう人で、幼なじみの貴族の男の子なんですけど……。何と言えばいいのか、ええと、怖い?」

ツヴァイ「なんで疑問形なんだ、おい」

ステラ「だってよく分からないんです。あの人に見つめられると、何とも言えない心地になると言うか。近づかれると鳥肌が立つと言うか、分からないから余計に怖くて」


 そうだ。

 理由も分からなく、苦手になってしまった人間なのだ。


 けれど、だからといって友達も放置するわけにもいかないし、とステラが悩んでいるのだ。


ツヴァイ「はぁぁ……、そんで俺にお前の召使になって付いてけっていうのかよ、教師をあごで使おうたぁ、良い度胸してんじゃねぇか」

ステラ「う……」


 この国の貴族でも王族でも何でもない、ツヴァンが身分の高い者達の集まるパーティーへ行こうとすれば、当然そうせざるを得なくなる。


 その事はステラも分かっていた。

 だから途中で言うのを止めて退出しようと思ったのだ。


 けれど、


ツヴァイ「まったく、しょうがねぇな」


 ため息をつきながらもツヴァイは了承してくれたようだ。



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