星15 大人と子供の大事な約束
そうやってしばらく町の仲を巡って行った後、ステラはツヴァイに告げた。
ステラ「そろそろ帰りませんか」
ツヴァイ「もうか、まだ一時間くらいしか見てないだろ」
ステラ「でも、お昼には屋敷にお客さんが来るって言うから、お出迎えしないといけないんです。私がいなくても大丈夫かもしれないけど……」
ツヴァイ「ステラード、お前」
本当は、もうちょっと町を見て周りたい。
いや、もうちょっとどころではなく、一日中見ていたいくらいだ。
でも、そんな我が儘な事をしていいんだろうかと思ってしまう。
ステラードは、今の状態でもただでさえ、王族の恥だと言われているのに、やるべき事をほったらかしてのんびりしてて良いはずはないのだ。
ツヴァイ「お前な、もうちょっと子供らしくわがまま言ったらどうだ」
ステラ「え?」
ツヴァイは車いすを押していた手を放して前へと回り込んでくる。
ツヴァイ「子供ってのはそういうもんだろ。無理して大人ぶる必要なんかねぇよ」
ステラ「でも……」
我が儘ばっかり言っていたら嫌われてしまう。
ステラは嫌われてしまったから王宮から追い出されたのだ。
だからこれ以上嫌われてしまったら、今度は今いる屋敷からも追い出されてしまうかもしれない。
スカートの裾を握りしめる。
せかっく時間を使ってお外様にと選んだ服なのに、ぐしゃぐしゃになってしまった。
ステラ「迷惑、かけちゃうから。だから我が儘言っちゃ駄目なんです」
ツヴァイ「不幸になるからか?」
ステラ「……っ」
そうだ、捨てられる事は不幸になる事。
それはとてもとても辛い事だ。
そんな事にはなりたくない。
小さく頷くとため息をつかれた。
ツヴァイ「お前は気づいてたか? さっき話した店番のやつの事」
ステラ「えっと、あの呼び込みをしてた女の子ですか?」
唐突にとんだ話題に首を傾げながらも、反応を返す。
話した、と言うのなら買い物をした店の少女しかいない。
町に来てもステラード達は、今まで雰囲気を楽しんで見て周るだけだったから、町の住人とは会話してこなかったのだ。
ツヴァイ「あいつ、片眼が義眼だったんだよ」
ステラ「えっ、ほんとですか」
そういえば前髪が長すぎて、よく顔が見ないなとは思っていた。
まさかそんな理由があったとは。
ツヴァイ「お前と同じだな」
ステラ「あ……」
ツヴァイ「けど、アイツは笑って楽しそうだっただろ。我が儘もきっと言ってる」
ステラ「そうです、けど」
だから、ステラも我が儘を言っても不幸にならないと、そう言いたいのだろうか。
大人達から捨てられないと。
ステラ「お前がどんな人生を送って来たのかは詳しく知らねぇし、知った気になるつもりはねぇけどな。お前は子供なんだから、かもしれないでいちいちびくびく怯えてんじゃねぇよ」
ステラ「で、でも……」
ツヴァイ「ちゃんと守ってやる」
ステラ「?」
ツヴァイは、こちらの頭に手を伸ばして優しく撫でてくる。
ツヴァイ「俺は大人だからな。お前が困ったら、俺がちゃんと守ってやるよ。それが大人ってもんだろ。で、大人しく守られてんのが子供の仕事なんだよ。転んだら起こしてやるし、歩けねぇってんなら俺が手を引いてやる。なんなら抱っこして運んでやってもいいぜ。まだまあ……そんな成長してないし、重くはないしな」
ステラにとっての大人は、自分の為にならないと分かると簡単につないでいた手を放すような、相手を突き放して転ばせるようなそんな人ばかりだった。
けれど、それは大人じゃないのだと言う。
手を繋いで、一緒に歩いてくれるのが大人。
本当にそうなのだろうか。
ツヴァイ「そんな不安そうな顔すんなって。お前はまだ何も考えずに笑っていて良いんだ。ほれ」
そう言ってツヴァイは小指だけ伸ばした右手をこちらへと近づけてくる。
ツヴァイ「約束だ。やり方はさすがに知ってるだろ」
ステラ「はい……」
おそるおそるステラードも同じようにして手を伸ばせば、大きなツヴァイのそれは小さな小指をからめとって上下に振った。
ツヴァイ「これで約束交わしたぞ。だからもう、大丈夫だ。そんな頑張ろうとすんなよ」
ステラ「先生、はい……。はいっ」
話された小指に残る温もりが嬉しくて、交わされた言葉が優しくて。
ステラードはいつまでもずっとその思い出を忘れられないでいられるように、と強く強くその瞬間を心に焼きつけたのだ。
きっとこれは大切な記憶。
大事な記憶になる、思い出なのだから。




