19・キーボード。
先々代の領主さまは起き上がってたけどベッドの中だった。
専属の回復魔法師が付いてはいるのだけれど
日毎に魔法が効かなくなってきているという。
老化なんだろうか……それとも……
ともかく名乗った。〔クローバー〕と。
「ソレは君の本名かね?」
いえ、実は自分が誰か思い出せないんです。
フロルの街のそばの草原で一月ちょっと前に目覚めましたが
記憶がありませんでした。
持ち物に四葉のクローバーが描いてあったのでそう名乗ってます。
「四葉……ラッキー・クローバー」
なにかご存じなんでしょうか?
「私が召喚者だとは聞かなかったかね?
四つ葉のクローバーを見つけると幸運がやってくるという女子供のジンクスが
もと居た世界にはあった。
ココにはクローバー自体が無いんだがね。
無いはずのクローバーと言う名前のことを確かめたかった。
今更帰るのなんのということは置いておくとしても
久しぶりに故郷を思い出してしまったのでね。
記憶がないということだったが君は多分私と同じか近い世界から来たのだと思う。
なにか持ち物で変わった物は無かったかね?」
アイテムボックスから色々出してみた。
でも訳の分からない部品とか妙な武器とかなので
同じ世界ではないかもしれない。
でも彼がピックアップしたのは携帯ゲーム機だった。
「どうやら同じ世界のようだ。コレはあの会社のロゴだな。
となるとコレはゲーム機なのかね?」
最初の頃は家庭用は据え置きタイプだけだったはずだ。
ということはその頃の人なのか?
あれ? コレは記憶の断片なのかな。
「電源……ああ、電池が残ってるね。ちょっと使ってみていいかな?」
使い方を教えないのにスイスイと手慣れた感じでゲームを始めた。
単純なアクションゲームだ。
一時してから彼は電源を落とした。
「ありがとう。もう帰れないが故郷の夢を見た気がする。
君は多分同じ世界から来たと思う。
私と同じように元の世界には帰れない可能性が高いだろう。
記憶が戻ってもソレを確認するだけになるかもしれない。
無理に記憶にこだわらないほうがイイと思うよ」
お気遣いありがとうございます。
でも名前くらいはホントの名前を知りたいんです。
神殿の石板でも妙に文字化けしてましたし。
「どんなだったか覚えてるかね?」
何度かやってみましたが同じでした。
〔RあJPTPNあ TYうHい〕です。
先々代さまはなにかブツブツつぶやいていたが
執事に筆記用具を持って来させた。
そしてアルファベットと平仮名を書き並べた。
どこかで見たような……
あ! キーボードだ!
「〔たかやま ゆうじ〕だね。
アルファベットが一文字づつ次にズレてる。
母音はそのまま平仮名で出たりしてるんだ。」
RあJPTPNあ TYうHい
TAKAYAMA YUUJI
なるほど……Pは一つ次にズレれば記号キーだけど
アルファベット限定なら下段のAになるわけだ。
「私はサトー・リョーヘイだ。
ココではリョー・サトーだがね。
よろしく。たかやま君」
よろしくお願いします、サトーさん。
リョーヘイって良平ですか?
「いや、、竜兵だよ。オヤジのシュミがバレるよな」
良平よりカッコイイですよ。
神官さんも領主さまも話の展開に驚いていた。
オレも名前が判明したことに驚いた。
竜兵さんはもうココに五十年ちかくいるという。
そうか、戻れないのか。
あれ? 元の世界の時間とココの時間はズレてるんだろうか?
それとも竜兵さんは過去へと召喚されてるんだろうか?
確かめようがないけどね。
専属の人の回復魔法が効きにくくなってきていると言う話だったので
オレが掛けてみることにした。
意外にあっさりとよく効いた。
魔法に体が慣れ過ぎて来ていたのかもしれない。
「ありがとう。今夜は良く眠れそうだ。
君はもういちど神殿のステータスの石板を使わせてもらいなさい。
他の文字化けも規則性のあるものだったら分かるのは
名前だけじゃあないかもしれない。
ガイ……できたら便宜を図ってやってほしい。
どうやら同郷の者のようなのでな」
夜も遅くなったのでお暇することにした。
神官さんがステータスの石板を使わせてくれると言ってくれたので
明日は神殿に行ってから土魔法使いに色々教えることになった。
あー、〔たかやま ゆうじ〕か……
ありがちな名前だとは思うけどオレの名前なんだよな。
なんだか恥ずかしいというかむずがゆいような
妙な感じがした。
図書館で探し回っても見つからない訳ですねえ。
ココにはクローバー自体が無いって言ってます。
さて、クローバーくんは〔たかやま ゆうじ〕くんでした。
まあ、普通にありそうな名前だったね。
キーボードの文字配列なんて覚えてます?
言われるとどれがどこだっけ……なんですが
普通に入力できてますからコレは手指が覚えてるって
ことになるんでしょうね。
以前、NHKの朝ドラで〔和文タイプライター〕が
出て来て驚きました。
アレに触ったことがあります。
母校の高校にあったんです。
ちょっと朝ドラとは型が違いましたがひらがな・カタカナと
漢字の活字がダーッと並んでました。
(wiki によると最低で1000~2000文字以上だそうです。)
それを一文字づつ探してガチャンと印字するという
オソロシイ代物でしたよ。
どの活字がどこにあるか覚えてないと絶対に使いこなせない
魔の機械……な気がしました。
昔はこんなだったという見本ではありましたがワープロやら
パソコンやらの有り難さを実感させられましたねぇ。
うん……開発してくれた技術者さん方に感謝です。




