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幽かな絵

 と、明りがパパパッとついた。人工灯の明りに、目がくらむ。

 しばらく目を閉じていると、だんだん目が慣れてきた。恐る恐る目を開けると、


「あ、掛け軸が」


 私の目の前にあった筈の、女の幽霊を描いた掛け軸が、スパッと真ん中から切られていた。右上からか左下から斜めに切られている。女の幽霊の絵が無い。真っ白だ。

 その横には、仁王立ちし短刀を持っている、みつ。


「な、何、があった、の?」


 一人、うろたえている私。フジさんやみつはいいとして、何で、枝野さんや柿森さんは平静なの?


「ごめんね、かおちゃん。騙すような事しちゃって」


 短刀を鞘に戻し鞄に入れながら、みつがすまなさそうな顔で言った。


「すまなかったね、神凪さん」


 フジさんまでが、私を見てすまなさそうに言った。

 な、何、何なの?

 柿森さんと枝野さんが足を崩した気配がした。


まさには言ってあったんだが、宗次そうじはやっぱり見えなかったんだなあ」


 フジさんが、うってかわっておかしそうに言った。先程の怖い声音を出していた人物と同一とは思えない朗らかさだ。


「俺? 何かあったか? 電気消したのはあれだろ、演出なんだろう。なかなか雰囲気あったぜ」


 マジか。柿森さんには、見えなかったのか。しかも、あの電気消えたの演出だと思ってるし、本当大物だ。枝野さんはその様子を見て、苦笑している。


「そろそろネタバレしていい? フジさん。かおちゃん戸惑ったままだし」


 みつが、もともと座っていた位置に戻りながら、そう聞いた。フジさんは、みつの問いにうん、と頷いた。

 みつが、私の方を向き直り、最初にごめんね、と首を傾げた。だから、可愛くない。


「何が、ごめんなんですか」


 ちょと言葉に棘があるのは、仕方ないと思う。だって、私何か騙されてるらしいし。


「えっとねー。まず最初にネタバレすると、さっきかおちゃんが見た幽霊は、本物の幽霊じゃないんだ。つくも神の……変種っていうか、そんな感じ」


 わけがわからず、首を傾げる。


「あれは、多分、最初は見間違えただけなんだと思う」


 みつの良く解らない衝撃のネタバレを、フジさんが解説してくれる。


「考えてもみてくれ。暗闇で、白い絵を見続けるとその残像が目に残る。それが、蝋燭をすべて消した暗闇で浮かびあがり、さもいきなり幽霊が出たように感じる。江戸時代のような、本当の暗闇の中だとさぞ肝を冷やしたことだろう」


 苦笑交じりに話すフジさん。言われてみれば、そう、なのかな。


「そして、商家はノイローゼのような事になり、見えないモノが見えるようになる。そういう意味では、確かに幽霊だね。だから絵を手放すと、それがなおる。そして、その噂話を聞いた後の人達も、暗闇で絵を見続け、思い込みで見てしまう。それだけこの絵が完成度が高かったということだね。でも」


 フジさんの声のトーンが低くなる。


「いつしかそれが、本物だと信じられるようになった。問題はここからさ。本物と信じられ、恐れられるようになったその絵は、じつを持ちはじめた。女の幽霊である、という実が」

「実を持つ、というのが私が言っている、つくも神になった、って事。前、海で祭られてた宝玉があったでしょ。人の信仰や想いを一身に集めてしまうと、そうなる事があるの。それが、今回は幽霊と想われていたから、幽霊のようになってしまった。でも、本当の幽霊じゃないから、祈祷とかでは消えるハズもなく。そうして巡り巡って、フジさんの所にこれが持ちこまれた」

「知り合いの古物商が困っていてね、つい引き受けてしまったんだ」


 フジさんとみつが交互に話す。


「で、フジさんは考えたんだ。絵が本体なら、絵をどうにかしたら良いんじゃないかって。でも、ただ絵を消しても、幽霊は出続けてしまう可能性がある。だから、幽霊が出た瞬間。絵を私が、幽霊をフジさんが、同時に何とかしたら消えるんじゃないか、って」


 みつが、真っ二つにした掛け軸の方を見た。あの短刀、玉葉くんからもらったモノだけど、そんな使い方して良かったのだろうか、とふと思った。


「慣れて驚かない俺達だけだと、出てくれるか心配だったから、神凪さんを呼んだんだ。少しでも怖がってもらったほうが、出やすいだろうと思ってね。宗次がくるのは想定外だったが、全く意味なかったな」


 フジさんが笑いながら、柿森さんを見た。柿森さんは、何故かドヤ顔をしてふふんと言った。


「俺はそういうのに全く関係が無いからな!」


 苦笑して、フジさんは私を振り返る。


「ともかく、黙っていて悪かったね。無闇に怖がらせてしまって。すまない」

「あ、いえ。必要な事、だったんですよね。確かに怖い思いをしましたが、それが必要だったといわれては、文句も言えませんし」


 苦笑しか出ない。


「神凪さんは、僕が守ってたから大丈夫だよ」


 ずっと、抱きしめていた懐のぬくもりが喋った。


「そうね、ありがとう、玉葉くん。だいぶおかげで落ち着いていられたわ」

「みつはー! みつもかおちゃんを守ったよー!」

「はいはい」


 黙って連れてきた張本人が、何を言ってるんだか。……でも、まあ、みつが居れば安心だろうと信頼しているのもまた事実なので、否定はしない。


「とりあえず、今日はみんなありがとう。今度お礼をするから、楽しみにしててくれ」


 フジさんがそう言って、立ち上がった。それを見て、枝野さん、ついで柿森さんも立ち上がる。私も立ち上がったが、足がしびれていた。情けない。それを見て、みつが手を貸してくれる。恥ずかしいが、仕方ない。

 そんな私達を待って、枝野さんがお堂の扉を開けてくれる。


「それじゃあな、フジ。またな」

「おお。正も宗次も、またな」

「お礼奮発してくれよ」

「かっきーは何もしてないだろう」

「そうか? 見物客は多いほうが良いだろう」


 笑いあう、三人。ああ、本当に友達、いや親友なんだなあと、心がほっこりした。


「じゃあね、フジさん。また遊びに来るね!」

「ああ、またな。神凪さんも、今日はありがとう。気をつけて帰ってくれ」

「はい、それでは、また」


 私達もそれぞれフジさんに挨拶をして、車に乗り込む。

 フジさんは、車が動き出しお寺を出るまで見送ってくれていた。

 あ、お札もらうの忘れてた。……ま、いっか。解決できたみたいし。

真相判明&タイトル回収

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