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「玉葉、きみ狐型になったら?そしたら、仕事が無いとか気にしなくて済むんじゃなぁい」


 ごく簡単にかつ面倒くさそうに言った。

 何だって! 狐型だって! 狐ってあの面長の中型犬ぐらいの大きさで可愛い動物よね。可愛い動物っていうのは良いものよね!


「この容れ物って、そんな事できるの? ヒトに固定されてるんだと思ってたんだけど」

「やってみないとわからないけど~、できると思うんだよねえ~。きみ、化けられるよね」

「うん。あんまり上手じゃないけど」

「そう。まあ、とりあえずやってみようかな」


 そう言うと、みつは溶けていた顔を机から引き剥がし、億劫そうに立ち上がった。そしてそのまま、私達の座る来客用のソファーの所まで来た。ああ、あの最初に玉葉くんを、そしてオオカミさんを呼び出したやつ使うのか。

 私は察し、ソファーから立ち上がった。湯のみを自分の机に移動させ、みつがソファーをどけるのを手伝う。玉葉くんは、何をしているのかわからないようで、みつに立たされた場所で私達を見ていた。

 ソファーと机を横にどけると、床には前描いた円と幾何学模様が変わらずあった。それを見て、玉葉くんも思い出したようだ。


「それ…」

「そ、初めてきみを呼び出した結界。何かを描き変えるなら、ここが最適だと思ってね。さ、入って」


 みつが玉葉くんを促がし、その模様の中に入れる。とたん、


「……うわ」


 玉葉くんが、見た事も無いような嫌そうな顔をした。そういえば、前狐を追い出すためにオオカミさんを呼んだのよね? そのオオカミさんが現れた場所って、玉葉くん的には、どうなのだろう。まあ、顔を見ればわかるか。


「不破さん、これ」

「あー、気にしない気にしない。一回だけだし。きみは悪い子じゃないから、関係無いし大丈夫ダヨ」


 小声で多分、と言ったのを聞いたのは私だけだろうか。玉葉くんは嫌そうな顔に加えて、困ったような顔になったが、とりあえず黙ってみつにしたがっていた。


「それじゃあ、情報を描きかえようか」


 そう言うと、みつは口の中でごにょごにょと何かを唱えた。すると、以前見たように、透明な壁のようなものが光り、中にいる玉葉くんが靄に包まれた。靄に包まれている間も、みつは何かを唱え続けている。

 しばらくすると、うっすら光っていた靄が晴れはじめ、中に居た玉葉くんが見えるようになってきた。

 中にいた玉葉くんは、


「あれ?」

「おや」


 服が、変わっていた。

 たしか、平安ぐらいの男性の服だったと思う。ふんわりした袖と、腰を紐でとめているからか着物がゆったりとして見える。下は、袴を足首で絞っているので、案外動きやすそうだ。若草色の上着とさらに薄い色の袴が良く似合っている。そして、髪が金色に輝いていた。綺麗なプラチナブロンドというのだろうか、光に透けていて綺麗だった。前はお姉さんと同じ明るめの茶色だったのに、不思議だ。


「あっ、これは……うか様の御前にはべるときの服だね」


 そう言って、壁が消えたのを見て、玉葉くんが外に出てきた。

 その歩みは、体重を感じさせないような軽やかな足取りで。


「そこまで弄った覚えは無いんだけど……ま、いっか。これで、化けられるでしょ? やってみてヨ」


 みつが不思議そうに首をかしげていたが、その疑問は放棄したようだ。玉葉くんに向かってそう言うと、玉葉くんはこくりと頷いた。


「やってみる」


 そう言うと、玉葉くんは右袖を前に出し、自分の顔いや頭までもすべて覆い隠した。そして、くるりと時計回りに回ると、


「おー」


 先程までの服に変わっていた。……え? 私、今、目を離してなかったけど、どうなったのかわからなかった。まるで服を着替える途中を認識できなかったかのように。

 みつは、気の抜けたような声をあげながらも、感心したように頷いていた。


「じゃあ、今度は狐になってみようか」

「うん」


 玉葉くんは、みつの言葉に頷くと、パーカーの裾を広げ、先程と同じように自分の顔と頭が隠れるようにまたくるりと回った。

 すると、


 狐に、なった。


 ちんまりと足元に座る、金色こんじきのに柔らかく光る毛並みの良い狐がいた。

 また、何があったのか認識できなかった。でもでも、目の前にいるのは、顔が細く鼻が長い、狐だった。かっ、可愛い!!


「調子はどう?」

「うん。悪くないよ。やっぱり、ヒトの時より消費少なくてすむね」


 玉葉くん、と思しき狐は喋り、立ち上がるとそのちんまい四肢でとたとたと一周した。柴犬より大きい、ぐらいかな。全体的に細い感じがする。そして、大きな耳と、三つに分かれた尻尾!尻尾はいくつあっても良いものだ。ふわふわのふさふさで良い毛並みなのがわかる。


「さ、かおちゃん。どう……って、聞かなくてもわかるね」


 みつが、私を見て苦笑していた。なんですか、と聞くと、口を指差された。どうやらずっと口が開いていたらしい。いけないいけない。


「いや、もう、ヒトの時の玉葉くんも可愛かったけど、狐の玉葉くんもひたすら可愛いくて!」


 私が力説すると、みつがまた苦笑していた。玉葉くんも苦笑している雰囲気が伝わる。喋っていても尻尾がいっぱいあっても、可愛い。


「それにしても、玉葉、きみは金毛だったんだね」

「うん…」

「九尾になれるかもね」

「それは……どうかな。わからないよ」


 二人は雑談をしているが、私は玉葉くんをもふりたくて仕方が無い。


「じゃあ、とりあえず。玉葉、きみの仕事は、かおちゃんを癒すこと。良いね? でも、私やかおちゃんに仕事を頼まれたら、引き受けること」


 みつが、狐にもっともらしく言う。狐は、こくんと縦に頷いて、わかった、と言った。この非日常なはずなのに何故か馴染む光景が、何だかとっても居心地が良いと思った。


「玉葉くんを独り占めしていいの!」

「もちろん……っていうか、かおちゃんぐらいじゃない?」


 失敬な。玉葉くんの可愛さは万人共通だと思うわ。


 まあ、なんにせよ、私達と玉葉くん(狐型)二人と一匹の新しい日常が、こうして始まったのだった。


新従業員は狐ですw

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