ミステリ編集者
本当にすごいと文月は思った。
雑誌の連載が終わって、単行本にするにあたっての新しい取り組みだと思った。近年は、何かと批判を受けがちな推理小説部門ではあるが、最新の近代捜査を盛り込んでいい感じに警察を巻き込んでしまえれば、安心だ。
文月はワクワクする。乱歩先生は人見知りという事で出版社に見える場合は、下っ端の文月などは会えるどころか見るのも難しい存在だった。
しかし、この報告書をうまく書けば、もしかしたら、乱歩先生に会うことが出来るかもしれない。
そう考えると、なんだか楽しくなってくる。
向井とともに、物語の隠れた住人として会いに行くのだ。
N某は、岩井なのか、違うのかは分からないが、赤いファイルの手紙の売り先は、主人公の作家が初めてとは限らない。
祖父江の勤務した出版社にも来たかもしれない。
手紙は買わなかった。が、数枚の気になる部分を青写真で複写させてもらう、そんな演出もいい。
自分の知らない、自分の作品の影の人物が細かい設定を届けたら、果たして作者というのはどんな顔をするものだろう?
酒を片手にさまざまに思い浮かべる文月に向井が赤いファイルを渡した。
「これはやろう。これで、会社に義理が立つだろう?さあ、これからは、神秘雑誌の編集として物語を始めよう。」
向井の言葉に文月は驚いた。
「どういうことでしょうか?」
驚く文月に向井は笑った。
「そのままの意味さ。君は僕の雑誌の編集、いや、『悪霊』の作中のミステリ編集としてこれからの謎を解明するのさ。」
向井は愉快そうに笑う。
「どういうことでしょう?」
文月の不安な顔に向井はイタズラっぽく笑って言った。
「喫茶店で言ってただろ?『面白くなんてないですよ。あの殺人は犯人が念動力と催眠術で殺したらしいんです。』と。これを聞いて、僕が何も感じないとは思わないだろ?」




