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第36話「王子」

「殺せ!! 何をしている!! さっさと殺せ!!」


 縄から解き放たれ、椅子から立ち上がるクロムウェル様を見て、そう大声で叫ばれるサイアス様。


 声だけ聞けば威勢がいいですけど、わたくし達から離れるためにドタバタと焦った様子で黒服たちの影に隠れて行ってますので見た目は最悪ですわね。


 しかし、発された命令自体は私達にとって危機的状況を招くものです。


 ドーム状のパーティー会場。


 その中心にいる私達。


 立ち上がった王子様が机を避けるようにして数歩前に出て。


 その背中に自らの背を預けるように私は動き、お互いの背中をかばい合って敵に備えます。


 そんな私達を取り囲むようにして腰を落とし、こちらを睨みつける武装した黒服さん達、約40人。


 一度に相手するのは、さすがに手に余る人数ですわね……。


「ふぅ……全く手がしびれたな……」


 そんな状況だと言うのに、クロムウェル様は剣を持っていない左手で、右腕をさすっています。


「あの、王子様?」


「なんだ?」


「もう少し緊張感を持っていただけませんこと? 私達、いま敵に取り囲まれてるのですよ?」


「おっと。そうだな。間違いない」


 そう口にしながら、ジワリと王子様が姿勢を落とし、右手に力を込められる。


 それだけで周囲に立つ黒服たちが動揺するように、もしくは戦意を保とうとするかのように体を固くするのが見えました。


 それを見渡しながらクロムウェル様が私に問いかけて来ます。


「……他の連中がどうなったか知ってるか?」


「他の連中と言いますと、シナノ様とあの外交官の方ですか? あの人たちなら、私とは別の地下室に閉じ込められてましたので助けだして隠れて貰ってます」


「隠れて貰ってる? お前、一人でやったのか?」


「私以外に誰が出来ますの?」


「あ~いや、そうだな……。それで、お前、剣はどれくらい使える?」


「あなたにあと一歩で負ける程度には」


「ハハッ。なるほどね。なら、このままやっても普通に勝てそうだが……」


 グルリと右肩を一回ひとまわしされると、クロムウェル様は言葉を続けました。


「より完璧に勝つとするか」


 そう余裕とも取れる発言を口にして。


 私の背後で笑われる王子様。


 それを見てか、サイアス様が再度命令を下されました!


「何を! 何を突っ立っている、貴様ら!? 聞こえなかったのか!? 殺せと言ったのだ! 次期国王であるこの私が! そいつらを殺せと言った! 命が惜しくばクロムウェルとその女をさっさと殺せえええ!!」


「うぉ……うおおおおおっ!」


 金切声かなきりごえ染みたサイアス様の言葉に背中を押されるようにして、遂に黒服さん達が腰の剣を引き抜かれるとこちらに向かって――


「フッ!」


 ――来る前に動きを始めた黒い影があります!


 クロムウェル様が護衛の方々が動き出そうとするその瞬間に、体を前に倒し地面に上半身を押し付けるようにして加速すると、剣を引き抜きこちらへと一歩踏み出した大柄な黒服さんの一人へと急接近されました!


「ッ!?」


 しかし、敵もさるもの!


 真正面から近づいてくる王子様を前に、黒服さんは右手で引き抜いた剣を小さく素早く動かすと、縦一直線に勢いよく、王子様を両断しようと振り切られます!


 しかし、それさえもクロムウェル様の手のひらの上だったのでしょう!


 縦に振られる剣を最小限の動きで左に避けると!


 右手に握ったショートソードを逆手に持ち替え!


 勢いもそのままに黒服さんのみぞおちへとつかをめり込ませる!


「ゴホォゥッ!?」


 体の底から吐き出されるような呼気がして。


 カタリと握られていた剣が床に落ち。


 ドサリと大柄な黒服さんがゆっくり地面に倒れ伏す。


 一瞬、その場の空気が固まります。


 相手は王族の護衛をされているお方です。


 近衛騎士のような立場のある人ではないように見受けられますが、だからこそ『強さ』だけなら騎士にも負けない物を持たれているはず。


 だというのに。


 ほんの数秒のうちに。


 真っ向勝負で。


 王子様にいともたやすく。


 打ち破られた。


「……ゴクリ」


 誰の物とも知れない喉の鳴る音がその場に響きました。


 つ、強すぎますわ、この人……。分かってはいましたけど圧倒的です……。


 倒れ伏した黒服さんは、どうやらまともに食らってしまったようで、息も出来ずにお腹を押さえ、苦し気に身じろぎされています。


 その横で剣を順手に持ち直し、クロムウェル様が周囲を見渡しました。


 そして、フゥとひとつ息をつかれますと口を開かれます。


「お前ら分かってんのか? 外には500の兵、中には俺とそこのレイリィース。勝ち目があるとすれば俺を人質にとって交渉することだけだが、はっきり言ってそいつは無理だ」


 視線を左右にゆっくり振る度に、その先にいる黒服さん達がジワリと後ずさりされます。


 全身から放たれている覇気。


 一個の人間としての強さ。


 目を背けることも、耳を閉ざすことも、身動きさえも制されるその存在感!


 何度も声を上げていたサイアス様も、弟君のその圧に押されて、護衛の方の後ろに隠れ、口を半開きにしたまま震えていらっしゃいます。


「今ならまだ間に合う。全員武装を解いて降伏しろ。悪いようにはしない。身分も生活も保障する。だから――」


 そう続く言葉に、サイアス様が震えながら反論しました。


「――うっ……嘘だ! 騙されるな! 今そいつを殺さなければ、我々は皆殺しにされる! 今こっちがやるか! 後でやられるかなのだ! だからそいつをさっさと殺せっ!!」


「俺を殺した所でどうなる? 外にいる500人相手にここで籠城戦ろうじょうせんでもするつもりか? 分かってんだろ? 王都の貴族たちが俺に付いた時点で、お前らは詰んでるんだよ」


 そう口にした時の事でした。


 ゴゴゴッと言う地響きにも似た音が鳴り始めたのです。


「門が開いたな……」


 音に紛れて聞こえた王子様の声に、ザワリと黒服の皆様方が反応しました。


 門が開いた。


 特に争い合う音も聞こえませんでしたから、ほぼ無抵抗で門を開けたという事になるでしょうか。


 それはつまり、王子様の言葉を聞く限りでは。


 ここに500人の兵が踏み入ってくるという事であり。


 もし、このまま戦えばその結果は……。


「で、どうする? ここで剣を置くか。それとも俺たちとやり合うか」


 クロムウェル様が周囲を見渡しながらそう告げます。


 その目にはもはやサイアス様は映っていらっしゃらないご様子でした。


 居並ぶ護衛の方々に向けて、王子様の声が飛びます。


「お前らの人生だ。自分で選べ」


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