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第34話「逆転」

 ロウソクの灯った薄暗い地下室の中。


 気絶させ意識を失った黒服さんの一人、一番小柄な人から衣服をはぎ取り、それを手早く身に付けます。


 ここまでずっと寝間着のままでしたからねぇ。


 動きやすくはありましたけど、こっぱずかしくて仕方ありませんでしたし。


 ここで衣服を整えられるのは助かりますわ。


 白のシャツに首元までボタンで留める黒の上着。これには皮が縫い付けてあって、簡単な鎧にもなる上等な品物ですわね。


 それに長ズボンと皮のシューズ。シューズは底に鉄板が挟まっているらしく、想像していたより重い物です。


 上品に見えて、そのじつ実戦的。護衛用の高級品ってとこですか。


 後ついでに剣。


 狭い室内で振るう事を考えてか、刃渡り30センテ程のショートソードを腰にはいていらっしゃったので、他の方の分も合わせて3本ほど拝借させて頂きます。


 男装ルックに身を纏め、右サイドに纏めていた髪をいつも通りポニーテールに結びなおす。


「さぁ、行きましょうか……」


 ここに連れ込まれた時は顔に袋をかぶせられてましたから、現在位置はいまいちはっきりしませんが。


 歩いていた感覚からして、地下であることは間違いありません。


 何はともあれ。


 外の様子をうかがうために、まずはドアに耳をつけてみましょうか。


「………………」


 ヒンヤリとした鉄の扉に耳をつけ、外の音を探ってみますが、特になんの音も……。


 いや。


 何者かが争う音。


 いやいや。


 それとも違う。


 一方的に人が人を倒す音が響いていますわね。


 それ以外にもドタバタとした音が続いています。


 クロムウェル様の救出のために誰かがここに突入して来たのでしょうか。


 何にせよ好都合です。


 この混乱に乗じて私も動きましょう。


 そう思い、ゆっくりとドアをあけますと、私は外へと身を乗り出しました。




――――――




「なんだ! 何が起きている! 報告しろ! 今すぐにだ!」


「しょ、少々お待ちください! 何者かが侵入したらしいのですが、事態の把握がまだ……!」


 先ほどまで狂気じみたサイアスの声が響いていたパーティー会場。


 そこは今、混乱のるつぼと化していた。


 始まりは気絶した見張りの兵が発見されたこと。


 それと時をほぼ同じくして、昏睡した黒服たちが次々に発見され始めたのだ。


 一国の王子の護衛につく腕利きの護衛達が、ろくに抵抗した跡も見せずに倒れ伏している。


 その異様な報告を受けて、先ほどまでの余裕をかなぐり捨てたサイアスは、立ち上がり口の端から泡を吹きながら、手下たちに命令を飛ばし続けていた。


「事態の把握など後でいい! 敵の狙いは一つだ! 人を集めろ! ここにだ! 襲撃者の狙いはクロムウェルを救出することだ! ここに全員集めろ!」


「りょ、了解!」


 声を受け、転がる様にして会場から出て行こうとする黒服の前方から、別の人間が入ってくると、焦った様子でサイアスに近づくと膝をつき声を上げた。


「ご、ご報告です!」


「今度は何だ!?」


「この屋敷の外に兵が集まっています! 旗印はヴィランガード伯爵家!」


「ヴィランガード……? クハハハッ……。クハハハハハハハッ! おい、クロムウェル聞いたか!? トチ狂ったお前の親戚が、小娘を助けるために兵を率いてきたとさ! 王族にたてつくつもりだ! 身の程知らずにもほどがある!」


「………………」


 その声が聞こえただろうに、黙したまま何も答えないクロムウェルに対し、サイアスは苛立たし気に舌打ちをすると黒服へと告げた。


「門を固く閉ざして守れ。決して中に入れるな。連中に対してはそれだけでいい」


「で、ですが!」


「この王都で連中の集めれる兵力など数十がいい所。それだけで十分に封殺できる。いいから命令を伝えに行け」


「数十!? ち、違います! 敵の兵力はざっと500! 完全武装の兵が500です!」


「500……」


 一瞬、言葉の意味が分からずポカンとしたサイアスが、次の瞬間には目をむき出しにしながら黒服へと食ってかかった。


「500だと!? ありえん!! ヴィランガードにそんな兵力はない! この王都にそれほどの兵を連れ込めるわけがない! ならば、ならば外にいるのは……」


 サイアスの目が再度クロムウェルへと向いた。


 瞳を閉じ、身動き一つしない弟をギョロリと睨みつけ、そして口を開く。


「お前の子飼いの者どもか、クロムウェル? この事態を見越して、ヴィランガードに兵を与えておいたのか?」


 それを受け、王国の第二王子は兄を見返すと告げた。


「違う」


「違う物か! それ以外に何が考えられる!? お前が! お前が!! 私を殺すためにヴィランガードに兵を与えたのだ! そうに決まっている!」


「王族に牙を向けと、俺自身が王族であるのに兵たちに告げれる物かよ。あんたが乱心する前にそれを口にすれば、反逆者になるのは俺の方だ。だからこれはきっと――」


 クロムウェルが口の端に笑みを浮かべると、サイアスへと続けて言った。


「――結果なんだよ、兄上。こいつは全て結果に過ぎないんだ。あんたの行動。俺の行動。そしてそれ以上に、レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガードという女の行動。これは全て、その結果なんだ」


「ふざけるな! あの女がなんだ! あんなチンケな女がなんだと言うのだ!」


「ハハハッ。その女の行動で、盤面はひっくり返されようとしてんだぞ? それが分からない程イカれちまったのか?」


「うるさい!! さえずるなクロムウェル!!」


 サイアスは神経質に歩き回りながら、爪を噛みハッと目を見開くと黒服へと再度告げた。


「そうだ……そうだ……今は……今は……! 兵だ、兵を集めろ! 門に半分! ここに半分だ! あの女もつれて来い! ヴィランガードの娘をだ! 時間を稼げ! そうすれば連中は逆賊として他の貴族が、近衛騎士たちが……」


 意気込んで命令を出していた言葉が止まると、ゆっくりとクロムウェルへと顔を向け、こぼれるようにして言葉を落とす。


「500……貴族たちの私兵か……」


「さぁ?」


「馬鹿な。ありえん。この私にたてついて、その後どうなるか考えもしない愚か者ばかりなはずがない」


「そうかもな」


「今日の今日まで、この私に尻尾を振っていた犬どもが、今の今になって裏切るなどありえない」


「そうだな。きっと何かがあったんだろ。どっかの誰かがトチ狂ったりとかな」


「ッ!?」


 一歩大きく近づくと、サイアスが固めた右拳でクロムウェルの顔面を正面から殴った。


 ガタリと椅子が揺れ、クロムウェルの鼻から赤い血がジワリと流れ出す。


 サイアスはそれをにらみつけながら、殴った拳を左手でかばいつつ荒い息をついた。


「ハァッ! ハァッ! ハァッ!! お前、お前は!!」


「ペッ! 慣れねぇことはするもんじゃねーな、兄上。人を殴るなんて初めてだろ? ただでさえ体が弱いんだ。自分をいたわれよ」


「うるさい!! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!! もう喋るな!! この私の! 次期国王の耳を汚すな!!」


「空っぽの玉座にでも着くつもりかよ」


 また口に溜まった血を吐き出すと、クロムウェルは言葉を続けた。


「兄上、今ならまだ間に合う。この縄を解いて、俺を自由にするんだ。悪いようにはしない」


「黙れと言った! 黙れと言ったのだ! 今縄を解いたら、お前は私を殺すだろう! 私を殺して、次期国王の座を奪い取る! お前はそういう男だ! お前はそういう男だよ!」


「あんまり見くびるなよ。俺に野心なんてない。兄上を補佐するために、俺はこれまで――」


「聞く耳持たんわ! 私は知っているんだ……。お前の全てを……。この……この愚か者め……。私を混乱させて……何が狙いだ……何が、何が……」


 また爪を噛みながらその場をうろつくサイアスが、キョロキョロと視線をまどわせる。


 パーティー会場には先ほどまで数人しかいなかった黒服が徐々に増え始めていた。


 サイアスの命を受けて集まって来た者たちだ。


 全員、味方が次々に倒れ伏し、邸宅が兵によって囲まれている現状に、緊張と焦りの表情を見せている。


 数にして20から30。


 今もなお増え続けている。


 その人ごみの中に。


「待て……」


 大柄な黒服たちの間を縫い、その体に隠れながら。


「待て待て待て待て待て待て……」


 音もたてずに動く金色の影があった。


「待て! 止まれ! 全員、こちらを見ろ!」


 その声を受け、黒服たちが視線を向けたその先に、姿勢も低くサイアスへと駆けだした一人の人間の姿を見出して。


 黒服が一人、その前に立ちふさがったが、その身を軽く飛び越え、肩を蹴飛ばし更に飛翔して、空中で一回転してから、地面に音も少なくその影は降り立った。


 パーティー会場の中心。


 用意された机の近く。


 クロムウェルが縛り付けられた椅子のすぐ後ろ。


 そこに降り立ち、王国の第二王子を縛り付ける縄を一刀のもとに断ち切る。


「お前はほんと……すげー女だよ……。まったく予測できねー」


「まぁ、この程度ちょちょいのちょいですわ」


 そう笑いながら、レイリィース・ジョゼフィーヌ・ヴィランガードはクロムウェル・クォーツライト・アイリスにショートソードを手渡した。


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