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御三家と宗一郎

 「ゆりか!ゆりか!!」

気付けば、悠希がゆりかの肩をつかみ、ゆりかの目の前にいた。

 「悠希君…」

ふと冷静になり、辺りを見渡すと、ゆりかを取り囲むように悠希と宗一郎と千春がいた。


 「どうしたんだよ?気分悪いのか?」

「……大丈夫」

「ゆりかちゃん、本当に顔色悪いよ」

「ゆりかさん、無理しちゃだめよ」


 三人とも心配気にしている。

そんな中、ただ一人、貴也だけが冷静な顔でゆりかを見つめていた。


 「貴也君…」

ゆりかが貴也に視線を向ける。

「……またあの図書館の時みたいに、寝不足なのかもしれないね。

無理は良くないよ。帰ろうか…?」

腕を組み、そう告げる貴也の顔はもはや笑っていない。

真剣な目でゆりかを見つめている。


 『またあの図書館の時みたいに』−−

ゆりかが真島の妻として、子供たちの母としての記憶を思い出した時のこと。

先ほどのゆりかの呟きで、ゆりかがゲームの世界の『高円寺ゆりか』であることに気付いたと貴也は確信しているようだった。


 「そうか。

また寝不足だったのか?

それとも貧血?

前にもそれで倒れかけたんだから、無理するなよ」

ゆりかの両肩を掴んでいた悠希が手を離し、背中に手をまわす。

「え!そんなことがあったの?ゆりかさん、大丈夫?」

図書館で真島と出会ったときは、千春とはまだ親しくなかったため、なにも知らない千春はただただ驚いていた。


 「歩ける?俺、背負おうか?」

宗一郎の発言に悠希があからさまに怪訝な顔をする。

「は?なんでお前が背負うんだよ」

「え?具合悪いなら歩くの大変でしょ?」

「だったら俺がゆりかを背負う」

「いや、俺のが年上だし。

和田君より背大きいし」

「はあ?!そんな変わんねーよ」

ゆりかの頭の上をどうしようもない会話が飛び交うが、今のゆりかには突っ込む元気もない。

するとゆりかの気持ちを理解したのか、千春が止めに入った。

「ちょっと、二人ともやめなさいよ…」

「松原、これは男の沽券(こけん)に関わる問題だ」

「和田君…、そんなことで沽券って…」

千春が呆れかえり、宗一郎も少し困ったように後ろ首を掻く。

「あのさ、こんな時にそんなこと言ってないでよ。

それに、さっきもゆりかちゃんのこと背負ったから…」

「宗一郎君、それは…!」

宗一郎の言葉に、元気がなかったはずのゆりかが思わず宗一郎の口を手で押えた。


 は! ちらりとゆりかが悠希を見ると、重々しい雰囲気を纏っている。

「……今なんて言った?」

「な、なんでもないのよ!」

ゆりかが先程までの不調とは打って変わって、大きな声を出す。

「背負ったって言ったよな…?」

宗一郎を庇いアタフタしているゆりかの存在など見えていないかのように、悠希は宗一郎をじっと睨みつけていた。

そんな悠希を目の前にし、宗一郎はゆりかに押さえられた口元の手をそっと下におろした。

そしてちらりとゆりかを見ながら、ハッキリとした口調で言う。

「うん、言ったよ」

「宗一郎君!」

なんで誤解を受けそうに言うんだろう。

急に頭が痛くなってきて、ゆりかはこめかみを抑える。


 すると視界の片隅に、いつの間にか少し離れた場所で一人スマホで会話している貴也が映った。

こんな時に誰と電話をしているんだ。

ゆりかが眉間に皺を寄せていると、電話が終わったのか貴也がスマホを切りポケットにしまい、近づいてきた。


「ゆりかさん、狩野さんを呼んだから、昇降口まで送るよ」

「え?今の狩野?貴也君が呼んでくれたの?」

「うん。こんな所でグダグダしてないで、行こう」

貴也に手をぐいっと引き寄せられる。

「え?ちょっと…貴也君!」

「あの2人に任せてたら、いつまで経っても帰れない」


 うーん、ごもっともです。


 「貴也!ゆりかは俺が背負う…」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」

貴也が悠希にぴしりと言う。

「ゆりかさん、歩けるよね?」

「ええ」

正直顔色が悪かっただけで、別に倒れそうだとか、歩けないとかそういったことはない。

ゆりかは気丈に受け答えをしていた。

「昇降口に狩野さんが来てくれてるから、連れてくね」

いつになく強い口調で貴也が悠希に告げ、千春に目配せをする。

「松原さんも行くよ」

「はーい」

それまで不安げな顔で悠希と宗一郎のにらみ合いを見ていた千春も、貴也に呼ばれて安堵した表情に変わり、貴也が握っている手とは逆側のゆりかの腕に絡みついた。


 そして貴也は一度、宗一郎に向き直ると、いつも通りの天使のごとく艶やかな笑顔を向ける。

「江間先輩、色々お世話になりました。

それじゃ失礼します。」

有無を言わせない笑顔で、さっさと退散しようとした貴也に宗一郎が慌てた。

「え、ええ…?!ちょっと…」


 「もう、いい。俺も行く」

悠希もため息を一息つくと、スタスタと歩き始める。

「いや、俺も行くから!」

それを宗一郎も追う。

「なんでお前もついてくるんよ」

「心配だからいいだろ」

「その必要はない」

「心配するのに必要とか必要ないとか関係ないだろ」

廊下をいつまでも2人の声が響いていた。


 遠ざかるそんな彼らの姿を、悠希の取り巻き役をしていたお化けならびに野次馬たちが見ていた。

「さすが相馬様」

「女を掻っ攫っていったぞ」

「やるな」

「やるなといえば、宗一郎じゃない?」

「ああ。あの御三家にあの態度の人間は、今まで見たことない」

「あいつ、メキシコ帰りだから、外人なんだよ」

「いや〜、すごい度胸だ」


 ずっと事の成り行きを伺っていた外野がひそひそと話していたのだった。

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