11.奴隷
魔法陣というのは便利だ。
戦闘中に書いてる暇はないが、事前に書いておくことで幾らでも汎用性が出る。
魔力を込めるだけでその効果を発揮するということで、一般市民にも使えるようになっている。危険性の高いスクロールは市場には回らないけれど。
魔法陣は簡単なものであれば市民でも自分で書いて普通に使う。用途は涼んだり、火種を起こす程度だが。
魔法陣の中には、魔力を込め、衝撃を加えて初めて効果を発揮するものもある。それは主に、罠として使われる。
媒体としては基本何でもよく、魔法陣さえあっていればあとは魔力込めるだけ。相当な大魔法というレベルでもなければ、壊れはしない。
そもそもそんな魔法を起こすだけの魔力を持っている人が少ない。
まあ冒険者からしてみれば便利なスクロールを危険だから使わないなんてバカでしかない。
特に“転移”のスクロールは「妖精の蜜」で「キングトゥレント」
の紙に書く必要がある。しかも魔法陣自体緻密で、とても作るなんてことは出来ない。
「で、その転移のスクロールが手に入るらしいんだよ!」
ギルドのテーブル席で、リリが興奮したように叫ぶ。俺とカグヤはその話を長々と聞かされていた。周りにいるゴリゴリとビートにも、話は通してあるらしい。
魔法陣か。そういえば図書館でいくつか覚えたな。「冷却」とか「発火」とか、生活に役立ちそうなのを。
リリが興奮を収めて、話を続ける。
「なんか闇市らしいんだけど、別に危険でもないらしいからさ、行ってみようよ!」
「少し遠くなるんだけど、値段も大したことないって話だし、こんなチャンス滅多にないからね」
付け足すようにビートが勧めてくる。転移か。実際一回体験したことがあるが、意識はなかったからな。使ってみたい願望はある。
というか断る理由がない。
カグヤがいなかったら、闇討ちか!? とか思うところだけど。流石に疑心暗鬼になり過ぎか。昨日ビートたち、このことを調べてたんだろうしな。
「別に良いよ、行くか」
「私も良いわよっ!」
朝からカグヤの機嫌がめちゃくちゃ良い。
……まあ、昨夜の事だろうな。上手くやれてよかった卒業しましたありがとうございます。
それはともかく今はスクロールだ。
/////
大通りから外れ、人通りの少ない道を通る。そこからさらに路地裏、路地裏。と回ったところ。まだ市場にはつかない。
まあ闇市ともなればこんなもんか。
俺たちは先頭にリリ。そこから俺、ビート、カグヤ、ゴリの順で歩いていた。帝都が広いのは知っているけど、流石に疲れてきた。
「まだつかないのか? 結構疲れてきたんだけど。」
「ん? いや、もうちょっとだよっ」
リリが振り向かずに、いつも通りの元気すぎる声で返事してくる。そうか、もう少しなら頑張るか、と息を吐く。
歩きながら周りを見てみると、とても立派とは言えない、ボロ小屋の数々。そして周りには、ポツポツと人が座ってる。
全員目つきが悪い。「なんだこいつら?」みたいな目をしている。
スラム街みたい。早く抜けたい。
「この先だよ!」
唐突にそんな声が聞こえてきた。リリの声だ。目の前を見てみると、3個目の路地裏。
そうか、この先か。長かったな。
路地裏を進んで行く。進んで行く、進んで行く、進んで行く………
すると足元にフッ、と影が現れる。
影?
上から何か落ちてきてるのか?
上を向く。
黒い影。
影からのびる光る剣。
……っ! 襲われてる!?
すぐさまバックステップを踏……
ガンっ!
後頭部に強い衝撃。
? 何が起きた?
体が動かない。
え、なんで?
体が倒れてることに気づく。
え、ちょっと。
え?
うつぶせに倒れている俺の上から、声が聞こえてくる。
「フゥ、上手くいった」
「協力、感謝する」
「ああっ! いえいえ! 公爵様の遣いが、私たちなんかに頭下げちゃダメですよ!」
「そうですよ。それより、早く連れていってくれませんか? カグヤは傷付けたくないので」
……裏切り?
ヤバイ
俺死ぬ? どうなる?
ていうか頭いってぇ……
体だるいぃ……
……ん? カグヤ?
そうだ、あいつは……
「んぐぅううッ! んっ! んっ! んんんんっ!」
声が聞こえる。
籠っている、しかし明らかな怒声。動かない体を、首だけ回して後ろを見る。
すると、視界の少し先でカグヤがゴアラに拘束されていた。カグヤは全力でもがいて、こちら側に強い視線を寄越す。
ゴアラはカグヤの口を塞ぎ、完全に拘束し……
は?
おいおい、
離せよ。
何してんの?
え?
いや、あり得ないって。
何してくれてんの?
まじで
何
してんだよ
おまえ
気づいたら、自分の右手にデカイ火球が出来ていた。
轟々とうねるそれは、これまでで作ったどの火球よりもでかかった。
なんだこれ? と思う前に俺はそれをゴアラに投げつけた。
と思った。
しかし、それを放つ前に後頭部にもう一つ強い衝撃がきた。
ガァンッッ!
その瞬間、俺は意識を手放した。
手放してしまった。
/////
〜カグヤ視点〜
目の前が真っ白になった。どうしてこうなったのかわからなかった。
なんでルイが?
コラン公爵?
いや知らないよ誰それ。
暴れた。訳も分からないまま、暴れた。頭の中真っ白のまま。とにかく許せなかった。
なんで、あいつらはルイを連れて行くのか。どこへ? ねぇ。
やめてよ
暴れた。暴れて、暴れて、暴れまくった。涙もたくさん流して、剣も抜こうとした。
躊躇なく斬ってやろうと思った。
その辺りから意識が途切れた。
/////
気付いたら宿で寝ていた。寝させられていた。
起きれば目の前に、仲間の三人がいた。三人はひたすら話しかけてきた。語りかけるように、説得するように――
――擦り込むように。
私にはビートたちの言っている意味がわからなかった。耳に、入らなかった。
「コレン公爵に言われたんだよ」
「公爵に言われちゃ仕方ないって!」
「依頼の報酬も良かったしな」
「脅されたわけだし、気にすることじゃないよ」
「カグヤには、悪いことしたけど、今回のことは忘れよ?」
「ああ、あの程度の使い手なら、すぐに集まる。金もあるしな」
言っている意味がわからない。頭に入らない。入っても理解したくないようで、脳が拒絶しているのがわかる。
昨日まで、いやさっきまで。信じてた。みんな仲間だった。凄く仲が良かった筈だった。
もう嫌だ
嫌だよぉ……
/////
また気づいたらあの場所にいた。ルイが連れ去られた場所。
戻ってくるかもしれないなんて、思って。
自分の拳についている血を見て、自分がナニカを殴り飛ばしたことを認識した。
どうでもいいけど。
雨が降ってくる。
ここでいくら待っても、ルイは帰ってこない。虚しい雨音だけが、響き渡る。
ズキン……
お腹の下の方が痛む。
昨日、私は初体験を迎えた。
大好きで、尊敬していて、ちょっと意地悪で。でも、それも含めて大好きな――
――もう会えないかもしれない人。
ルイはコレン公爵の奴隷になった。それも雑務を任されるような、使う奴隷ではない。実用の奴隷だったら、わざわざ捕まえにきたりしない。
噂で聞いた、コレクションだろう。コレクションは特別な部屋に閉じ込められて、コレン伯爵や、その補佐の人たち専用の奴隷になる。
用途までは知らないが、きっと痛ぶられたりするんだろう。殴られたりするんだろう。
ルイが、コレンにいいようにされる。そう考えてみると、腹わたが煮えくりかえるような感覚を覚えた。
ふざけるな、と思った。
どうすればいい? ルイを、助けるには。
ルイが単身で出てこれるとは思えない。
コレン公爵の屋敷にはこの帝都に8人しかいないA級冒険者の一人が専属で警備をしている。
他にもC級冒険者クラスの実力者が、何人も警備に回っている。
そもそも奴隷の契約魔法をかけられたら、逃げようがない。
私が、助けるしかない。
どうやって、どうすれば――
――どうすればルイにもう一度会える?
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