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女神男子の正解を  作者: 作意 扉
第零章:スタートの前
10/18

10.イチャつく



 ――冒険者。


 生涯を終えるまでこの職業についていられるものは、全体の一割も満たないという。

 その理由は圧倒的な死亡率だ。


 まず、冒険者成り立ての青臭いガキが半分死ぬ。大抵が調子に乗り、ミスをし、帰ってこない。そして生き残った多くが、知識をつけて強くなろうとする。

 ここで死亡率はぐっと下がる。


 だが、それでも。例え『この上ない』ほどに気をつけても、やはりその中の半分は死んでしまう。

 

 そしてここである疑問が生じる。

 じゃあ残りの死んでない奴らはどうしたのか、というものだ。答えはもちろん一つ。



「冒険者辞めたいんですが」


「はい。では登録を削除いたしますので、冒険者カードをご提出いただけますか?」


「はい、どう…」



 スパァン!


 後頭部が、叩かれた感覚。ギルド中に小気味いい音が響き渡る。振り返ると、一人の少女が怒りの形相でこちらを睨んでいた。

 そして一言。



「あんた、何やってんのよ!」


「な……何?」



 後頭部をさすりながら振り返り、その少女に疑問を投げかける。



「何勝手にパーティーから抜けようとしているのかって聞いてるのよ!」


「違う、冒険者を辞めようと……」


「尚更ダメよ!」



 ここ五日間、冒険者をやってみたが、この職業は予想していたよりも大して面白くない。

 要するに、飽きたのだ。


 その冒険者活動の傍ら、リリに魔法を教えてもらったがこちらの方がすこぶる面白い。絵を描くだとか、歌を歌うだとかと同じ面白さを感じる。

 魔法のスキルも、LV3まで上がり、第二位階魔法だって使える。


 五日間やってみて、魔法の方が面白いという結論に至った。



「……リリに魔法教えてもらう方が、面白いっていうの?」


「だってなぁ」



 もちろんほかにも理由がある。冒険者の訓練が必要だからと言って、朝早くに訓練させられる。

 まあこれはいいや。


 不満その一

 少しサボるとゴリラがウホウホ言ってくる。



『そんな事では、いざという時に死ぬウホォ!』



 とか何とか。あんまり覚えてないけど。

 まあ最終的にはGOサインを出してくれるからいいだろう。


 不満その二

 ビートが一々キメ顔をしてくる。



『モンスターとの間合いの取り方は……こうだっ!』(チラッ



 と、ウザイ。

 ありがたいけれど、男にそんなキメキメに見せつけられても苦笑する他ない。どうにも俺が男っていう認識が出来ないらしい。


 唯一、リリはまともだと思う。時々妙にカグヤをプッシュしてくる所を除けば魔法を教えてくれるいいやつだ。

 別に彼女だからプッシュとかいらないんだけど。

 これは余談なんだが、リリを教わっていた時の事。



『あ〜! やっぱり便利だねぇ、無詠唱。羨ましい!』


『やっぱり、珍しいのかね?』


『うーん、どうだろ。魔術師の2割くらいかな、使えるの』


『別に少なくないじゃん』


『十分珍しいよ。私は使えないからね。想像力が弱いんだと思う。詠唱を唱えれば、イメージに入れるんだけどね〜』

 


 と、無詠唱と言うのは別に驚かれる訳でもないらしい。多少想像力が強ければ誰でも出来るもの、というのが共通認識。

 まあ、そもそもMPがある程度なければ使えないらしいけれど。


 これも聞いた事だけど、SPはRPGでいうHPとは違って、体力の数値。スタミナポイントらしい。

 俺はこのSPは普通よりも少し上程度だが、MPは結構多いとの事。やったぜ。

 ワンチャン俺TUEEEE!! もある気がしてきた。


 まあ、そんなこともあって俺は魔法を勉強したい。



「じゃあ、冒険者は辞めないことにする」



 カグヤの顔がパアっと喜色に染まる。



「けど、今日は取り敢えず図書館に行かせてくれ。調べたいことが出来た」


「んー…じゃあ、私も」


「いや、別に何も無いし、刃目の所にでも行ってろ。あいつなんか悩んでたっぽいから相談にのってやってくれ」



 この前、刃目のところに行ったら、珍しく神妙な顔をしていた。



『どうした、コウ。珍しいな、そんな顔をするなんて』


『ん? あ、いや。どうにも、上手く剣ってのが作れなくて。色々教えてもらってはいるんだけどな』


『まあ、それは仕方ないんじゃないか?』


『……それでおやっさんに、お前は頭回すことに関しちゃダメダメだなって言われたんだよ』


『大正解じゃないか』



 カグヤならば俺よりもそういうのに詳しいし相談に乗れるだろう。

 そんな考えをカグヤに伝えると、カグヤは、



「……本当に何もないの?」


「ああ、」


「私にも協力して調べてほしいこととか」


「いや、魔法のことは分からないだろ?」



 するとカグヤは少しむくれたように頬を膨らませ、



「……分かったわよ」


「……ありがとう」



 素直に礼を言うと、『礼を言う事でもないでしょ』と冒険者ギルドを出て行った。



/////



 さて、カグヤへのお詫びは何がいいか。

 五日前、俺はカグヤの期待に添えず、そのお詫びを明日までに用意することになった。それを今日買おうと思っていたのだが、ついでに冒険者登録を消そうとしたら嗅ぎつけられて見つけられてしまった。


 カグヤは基本的に俺から離れようとしない。何かと理由をつけて、くっついてくる。

 以前リリには魔法をご教授いただいていた時、近くの木からひょこっと出てきて『偶然ね! 私にも魔法教えて!』と言うことがあった。

 可愛いものだが、今日に関してはカグヤがいては意味がない。


 雑貨屋のような店が立ち上る通りを見ながら、いいものがないか探す。

 あいつが好きなものは何だったか。


 カグヤは、江戸時代から続く由緒正しき道場のお嬢様だ。

 弓術、剣術、柔術、何でも教える馬鹿でかい道場。

 そんなところで育った故に、本人も日本伝統の文化を叩き込まれている。


 俺はお屋敷に行ったことがあるがとにかく、和。和。和。名家というのがひしひしと伝わってくる。本人も小さい頃は英才教育を受けていたらしい。

 

 そんなわけだからあいつの喜ぶものもよく分からない。思いつくもの、和菓子、お茶、お寿司、全部ここにはない。


 思案していると、視界の端にあるペンダントがあるのが見えた。

 それは雑貨屋の入り口に、これ見よがしにかけられている物。


 それに付いてる宝石は、恐らく偽物だろう。光り方も、見た目の重みも、本物とはものも程遠い。何よりもその値段が物語っている。

 銀貨一枚。


 俺の現所持金の大半を使う値段。それでも安すぎる。そんなペンダントだった。

 けどその偽物の宝石の色は――


 ――翡翠色だった。


 そうだ。そうだった、自意識過剰とかじゃない。あいつは俺のことが好きだった。大好きだった。

 

 ならば俺にちなんだものがいいだろう。完全に痛い男だけど、本当のことだ。俺自身よく分かってない位に、あいつは俺のことが好き。

 理由もよく分かんないけど。まあいい。


 俺はそのペンダントを購入した。






/////






〜カグヤ視点〜


 少し、私の扱いがおざなりな気がする。あいつは私の彼氏という自覚がないのだろうか。

 それとも……私が好きではないのだろうか。じゃなければ他の男と二人きりにさせたりしないよね?

 ああ、もう。怖い。


 思えば、これまで面と向かって『好き』と言われたことはない。

 うぅぅ………



「どうした、カグヤ」



 不意にそんな声がかけられる。ああ、そういえば、相談に乗ってたんだっけ。

 刀を打つのと、剣を打つので感覚の違いが分からないらしい。



「そうね、やっぱり刀を打つって意識よりかは一から鉄を変形させるって意識の方がいいんじゃない?」


「ふぅむ……違いがわからない」



 ああ、苛立つ。ルイに対する焦燥感とコウへ対しての呆れが混じってイライラする。

 コウも、悪い人ではないんだけど……。ああ、早くルイの所に行きたい。別に悪くないコウが邪魔に感じて仕方がない。

 そんな私を見て、コウは不思議そうに聞いてくる。



「今日は何でこっちにきた?」


「ルイに言われたからよ。相談に乗ってやれって」


「じゃあ、」



 コウは、布で自分の汗を拭い、



「解決して、ルイのところに行くといい」


「私だって、そうしたいわよ……!」



 今更何を言ってるんだこいつは。ああ、もう。すると、コウは私に頭を下げて来た。



「頼む」



 うっ、と言葉に詰まる。素直な分、コウは不躾になる時がある。けど、やはり根はいい人だ。



「……小さい頃でも思い出したら?」


「……ん。」


「刀の打ち方も何も、分からない頃。今のあんたはその時と一緒でしょ?いくらあんたでも思い出すくらいは出来るでしょうに」


「……思い出す」



 そう呟くと、コウは目をつぶって考えるように下を向く。こういう勝手なところは、あいつに似ている。

 一々ルイに結びつけてしまう自分に苦笑しながら、コウを待つ。


 1分くらいだろうか。ようやくコウは顔を上げると口を開いた。



「分かった。ありがとう」


「そう、じゃあ私はルイのところに戻るわ」



 そう言って私は席を立つ。すると、帰ろうとした私の背中に声がかけられた。



「……せっかく会えたんだ、仲良くしろよ」


「当たり前じゃない」



 私は振り返らずに答えた。その時のコウの声はどこか影があったように思えたが、私にはどうでもいい事だ。


 早くルイのもとに戻りたい。こうしている間にもルイの心が私以外に移っちゃいそうで怖い。

 私は、走った。



/////



〜ルイ視点〜


 実際は本当に図書館で調べたかったものもあったけど、ペンダントを買ってしまったせいで預ける銀貨が手元にない。

 大人しく部屋に戻るか。カグヤの。


 部屋につき、ベッドの上で横になる。最近、ちょっとした悩みがある。

 これは、冒険者活動をしていた五日間のうちに気づいた事だが、この世界には『闘気』というものがあるらしい。


 魔力とは違って、肉弾戦に用いられる。僅かに体力を消耗して体を強化する気を纏わせるというものだ。


 まあ、簡単にいえばこれのLVが上がらない。今現在はLV2だが、カグヤやビートは4にも5にもなってる。これは纏わせるというより放出して一体化する感覚。


 これを俺は魔力と同じように考えてしまい、使おうと(・・・・)してしまう。

 カグヤたちが言うには、「相手をこの手で倒す!」という強い意志を持てば纏えるようになるものらしいが、難しい。

 全身全霊を持ってという考えはあるが、実際にできているかは怪しいものがある。


 九死に一生でも得れば分かるのかもしれないけど、わざわざそうなろうとも思わない。

 まあ気長に頑張ろうかな。


 と、言ったところで部屋の扉が急に開いた。見てみると、そこにはカグヤが居た。

 扉を開けたカグヤは、キョトンとして顔をしている。どしたん?



「随分と戻ってくるの早かったわね」


「ああ、大した調べ物でもなかったしな」



 まあ前回に比べれば早すぎると思うか。するとカグヤはむすっと頬を膨らませ、



「じゃあ私も付いて行ったってよかったじゃない」



 不味い。サプライズが。



「いや、まあなんだ。それよりコウの悩みは解決したのか?」


「……まあ納得したみたいだったし、解決したんじゃない?」


「そうか」



 よかった。良かったのだが、カグヤの機嫌がやはり悪い。こちらに来てから不機嫌なところばかり見ている気がする。

 いや、機嫌が悪いというよりこれは……



「何か悩みでもあるのか?」


「……え?」



 ドアの前で俯いたまま立ち尽くしていたカグヤが顔を上げる。

 


「別になん……」


「?」



 おそらく、「別になんでもない」と言おうとしたんだろう。しかし、いやと首を振りこちらの目を見据えて来る。

 その顔は、これまであまり見たことのない顔だった。こんな顔、パフェを選ぶ時くらいしか……



「ルイは、私のこと……好き?」


「……」



 急になんだこの小娘は。頰を染めながらも、どこか申し訳なさそうに言うカグヤを訝しむ。

 よく分からないがとりあえず応える。



「まあ、好きだよ」


「っ! じゃ、じゃあさ、私が他の人を好きになったらどう思う?」


「どう……?」



 どう思う? なんでこんな話になっているのか分からないが。

 もしかしてこれはあれか、俗にいう別れ話か……か?



「ーー嫌だな、それは。」


「っ! ふ、ふーん。嫌なんだ、へぇ〜! ふーん。」


「……別れたいのであれば、別れるけど」


「うぇっ! な、なんでそうなるの!?」



 え? 別れ話じゃないの? よかったぁ……

 次回予告が累、死す。ってなるところだった。ショックで。



「はぁ…別れ話じゃないのか。良かった」


「ち、違うわよ、ただ…………」



 カグヤの表情には影が差している。明らかに不安がっている表情だ。今度は目を合わせないように、静かに話しかけてくる。



「ただ、私をコウと平気で二人きりにしたり、冒険者辞めたがったりしてたから……私はどうでもいいのかなって」


「……別に、そう言うわけではないよ」



 そういうわけではない。ただ、カグヤはそういうのは大丈夫だと思っていただけだ。大丈夫な女子だ、と。


 ああ、それがダメなのか。

 その認識がダメなのか。分かった、分かって来た。

 すぅっ! と肺に空気を送り込み、これから紡ぐ言葉に備える。



「……少なくともな、」


「え?」



 ああ、なんかこっぱずかしいな。俺のキャラに合わない。

 合わないけど、軋轢が生じるのは良くないからな。うん。



「少なくとも、今現在では、」


「……う、うん」


「一番大切な女の子、だよ。俺にとっては」


「っっ!!!」



 恥ずかしっ!

 うっわ、黒歴史。


 チラリとかぐやの顔を見てみると口角がニマニマと上がり、手で抑えていても、指の隙間から分かるほど赤面している。

 時折、むふふふふという声が漏れてくる。



「う、うん、分かったわ。分かった、分かった。うん、うん」



 何が分かったんだろう。多分本人もなんとなく言っているだけだろうけども。まだニマニマは収まっていない。



「そ、そろそろ寝ようかな」


「まだ5時だけど」


「う、うん。でも、横になりたいかなぁ」



 そう言って、こちらに顔を見せない体勢で横になる。

 その背中からはムフフフフッという声が漏れ、時折キャー! とか言いながらベッドの上で跳ねている。


 ……まあ、良かった。もう俺はここにいなくていいな。


 そう思い、部屋から出ようと立つと、カグヤが俺の手を引いて来た。

 いつの間に出て来たんだ。ベッドから。



「今日はもう、用事もないでしょ? その、寝ない?」


「……早すぎるだろ。夜ご飯も食べてないし、せめて何か食べてから……」


「嫌」



 予想外な強い拒否の言葉に、一瞬たじろぐ。

 なんで?



「だから、いくらなんでも早い。8時くらいまでそこら辺で暇を潰して……」


「いやっ!」



 だからなんでだ。ここまで頑固なカグヤは見たことがない。これまで、一度も。

 俺が戸惑っていると、カグヤは顔をうつむかせながら言葉を紡ぐ。



「今日はもう部屋から出たくない。誰も部屋に入れたくない」



 カグヤは必死に言葉を紡ぐ。強く、愛らしさを覚える。



「二人でいたい。二人きりでいたい!

 お願い、今日だけだから……!」



 ……そんな風に彼女・・にお願いされたら、もう拒否するのは、野暮だろう。

 いや野暮とかじゃなく、なんというか、デリカシーがないだろうよ。

 静かにカグヤの側に近づき、寄り添う。



「……形が、欲しい」


「え?」



 唐突な言葉に、思わずカグヤの顔を見る。するとカグヤは、頬を染めて呟く。



「好きだって、世界一好きだっていう形が欲しい」


「……お前今、結構めんどくさいぞ」


「知ってる」



 それでも、とこちらを見てくるカグヤ。

 形……。



「キス、とかか?」


「っ! そ、そういうのじゃなくて、ね」



 カグヤは茹でダコのように真っ赤になってる。こんな積極的な奴だったか? と訝しく思っていると――

 ポツリ、とお嬢様が呟く。



「もっと、形になるもの……プレゼントとかじゃ、なくて」



 形……。キス以上となったら、そう、なるよな?

 でも形……?

 

 思案すると、ある答えに辿り着く。


 あ、

 え? いや、そんな。

 ないない。

 ……ないよな?


 チラッとカグヤを見るとこれ見よがしに、お腹を撫でていた。こちらをチラ見しながら。

 

 ああ、

 え? 無理だろ。



「カグヤ、それは……」


「い、今じゃなくて!

 ………今じゃ、なくて、良いから」


 ――約束して?


 ……そんな風に上目遣いで言われたら、拒否できないだろ。

 まあ俺にも人並みのアレはあるし? 健全だし?

 ……まあ、将来って話なら。良い……か?

 俺自身、顔が赤くなっているのを感じながら応える。



「………うん」


「っ!? ほんと!? もう確約だからね、覆らないからね! 男に二言はないんだからね!」



 次々とまくし立てるかぐやを、不思議と穏やかな気持ちになりながら、笑って答える。



「ああ、良いよ」


「っっ!!」



 普通男に二言は無いって男が言うセリフなんだけど。

 まあ、どうでも良いな。また、にへってしてるし。ニヨニヨっとしてるし。

 良かった―――



「ね、ねぇ。」


「なんだ? まだあるのか?」


「そ、そんな言い方しないでよ……」



 別に口調を強くしたつもりはないけど。反省しているとカグヤは目を逸らしながら、まだ赤い頬を抑えて、今日最後のお願いをしてきた。

 


「……れ、練習しない? その……作る、練習」


「ああ……え? れ、練習?」



 それって………


 ああもうめんどくさい、悩むのもめんどくさい。

 言いたいことは分かったんだし、ここまで来たら了承しよう。



「分かった」


「だ、だよね……って、え? それって……うむっ!」



 口付け。



「ちょ、ルイ、そんな………急に……」



 そして、

 ベッドイン。

 ここまで読んでいただいてありがとう御座います。

 拡散、ブクマしていただけると有難いです。

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