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転生人生、海辺の国家の第四王子  作者: 疲労感
第二章 緑の国と聖なる大樹編
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第12話 『伯父と公爵と艦隊司令』

 

 

「んんー…もう少し、こう」


 お手本を見せるために目に追える速さでフリーデさんが剣を振りぬく。

 それに追従するように僕も剣を振った。


 ロイド・カルボン。今日も今日とて修行である。

 以前と違うことといえば、


 右を向く。大海原。

 左を向く。大海原。

 上を向く。大空。 


 大いなる大洋のど真ん中で修行している点ぐらいだろうか。

 足場になっているのはカルボン王立海軍旗艦、大型帆船『エリースト・レイブン』

 現在は船の上である。



「見えたぞー!」


 頭上高く。メインマストの物見台から大きな声が響く。 

 彼の声に反応して周りで作業をしていた船乗り達が慌しく動きだすが、皆一様に安堵した空気を纏っていた。その反応を見るに、此度の船旅の目的地へと、無事到着したと見て間違いないだろう。

 船乗り以上に僕もほっとした。初めての船旅だ、不安にだってなります。

  

「おー、いつ見ても緑の国だ。うん」


 騒々しい甲板の中に、暢気でのんびりとした声が聞こえる。

 声の方に視線を向ければ、潮風に乗せて綺麗な白髪をなびかせながら、フリーデさんが目を細めて遠くを見つめていた。

 残念ながら僕が見える景色は一面の海原だけである。


「見えるの?」


 尋ねたのはソニア。

 彼女とウォーレン君も僕と同じようにフリーデさんから剣の稽古を受けて、今はフリーデさんと同じように船の手すりに手をかけて皆仲良く進行方向を眺めている。

 一般的人間である彼女も僕と同じ様に海原しか見えていないのであろう。

 それもそのはずで、物見台の船員が望遠鏡を使ってやっと見える距離。どっかの大平原に住むような人なら違うかもしれないが、普通の町育ちでは到底それだけの距離を見ることは叶わない。


「竜人の視力舐めんなよー、すごいぞ」


 人間でない彼女にはそんなもの関係ないが。

 ただ、ソニアはそんなこと分かっていないので、


「私も鍛えたら見えるようになる?」


 期待した目で質問する。

 いや、無理だと思うよ、おじちゃんは。


「あー…うん。ソニアならいけるかもな」


 え?いけるの?視力も鍛えようと思ったら鍛えられるの?その辺も異世界クオリティなの?

 ソニアはさらに目を輝かせてどうやって鍛えるの?!とフリーデさんを質問攻めである。


「目を細めて遠くを見る感じでこう、グーッと」

「グーッと!」


 フリーデさんを真似して目を細める少女。

 何とも和む空間だ。

 

「あ、見えた」


 そんな馬鹿な。

 



「ロイド様!望遠鏡をお持ちしました!」


 いつも通りの元気のよさでラナさんが駆け寄ってきた。その手には言葉の通り望遠鏡が。

 残念ながら、どれだけ目をグーっとしても僕には大陸なんてこれぽっちも見えなかった。ウォーレン君も必死に目を細めていたが、何も収穫を得られなかったようである。

 幼いながらに無情で非情な現実を見せられた僕とウォーレン君は泣く泣くラナさんに望遠鏡を頼んだのだった。



 望遠鏡越しに見える景色は、フリーデさんの言うような、まさに緑。

 横一線に伸びる海岸線の上はその全てが緑の森に覆われているように見えた。

 

 此度の船旅、終着点はエルフが治めるただ唯一の国家、その名を『ユグドラシル』。

 緑の国とも呼ばれており、その名に違わず国土の九割以上を森林が覆う稀有な国である。


 城ニートである僕が何故こんな外国へ訪れているのか。全ての始まりは一月前まで遡る。

 







 最初に理解しておくべきことは、僕が一国の王子であること。

 当然僕の部屋はそれはもう豪勢なもので、この上を行く部屋は早々ないと自信を持っていえた。

 ただ、今立っている部屋はそんな豪勢な僕の部屋を更に数段広く豪華に。世の中上には上が居ることを教えてくれる。


 現在、INセドリック兄ルーム。


 今まで一度や二度では無い回数で訪れたことはあるが、遊びにくるような所ではないので何度来ても気を抜けない。

 背後でいつも通りに落ち着いているエリカさんは安定の安定感である。


「良く来たな、ロイド」


 短く告げながら、セドリック兄が執務机から顔を上げた。

 180を超える身長に、年を重ねる度に鋭くなる眼光。王家の威厳とでも言おうか、15の成人式を終えた辺りからある種の威圧感さえ感じるレベルである。

 中身は弟思いの良きお兄ちゃんであると分かっているので僕は特に気にならないが、彼に合うたびにウォーレン君は涙目になっていた。


「座って待っているといい、直に来る」


 促されるままに応接用であろうテーブルを挟んで対になったソファーに腰を下ろす。

 その時、大きな音を立てて勢い良く扉が開いた。


「ガッハッハッハ!!久しいなエリカ!元気そうで何より!」


 騒音の主は豊かな髭を蓄えた豪快なおじさん…服の上からでも分かる鍛え上げられた体と、黒く日焼けした健康的な肌、それらが作り出す雰囲気は若々しいが、皺の深さや数に、完全に白くなった頭髪を見るにおじいさんと呼べる年齢には行っているかも知れない。


「王子二人を並べておいて最初の口上がそれですか。グレゴリー公」


 怒っているわけでなく純粋に呆れたように告げるセドリック兄。


「ん?これは失敬!」


 おじいさん改めグレゴリー公は、ガッハッハッハと再びひとしきり笑ってから、


「お初に、ロイド第四王子様。ワシはオーガスタス・グレゴリーと申すもの。海に居る時間が長すぎて礼儀についてはもはや忘れてしまいました。どうかその点についてはご勘弁頂けると嬉しいですな!」


 一々大きな声で告げると、グレゴリー公はドカッと僕の対面のソファーへと腰を下ろした。


「そこに居るエリカの伯父をやっております。後は公爵位とカルボン艦隊総司令の職にもついておりますな」


 いや、後半。それついでみたいに言うような軽い事じゃないから。

 家庭教師の授業で習った限りでは、公爵は王家に次ぐ権力を持つ貴族で確かカルボン内に二人しか居なかったはず。艦隊総司令の方は良く分からないが、僕らの住まう王都レイブンの港を見るだけでも行き来する交易船の量は相当のものだ。大規模な港を持つ国家で、その職が軽いものであるとは思えない。

 え?エリカさんそんな人の姪っ子なの?いや、スゲーな。

 内心では突っ込みを入れながらも口ではよろしくお願いしますと返す。

 


「この年になると姪の成長だけが楽しみで生きておりますが、もう父親に似ずに可愛らしく育って――」


 一通り挨拶が終わるとグレゴリー公は機嫌良さそうに姪っ子について語る。

 王子二人を並べておいて続ける口上がそれですか。それでいいのかグレゴリー。

 可愛いのは分かったから早く用件を言ってください。

 話を進ませてくれと、アイコンタクト代わりに歪なウインクをセドリック兄へと送るが、彼は数秒の思案の後、何を思ったか此方を真似して同じように歪なウインクを飛ばしてきた。

 そんなものは求めていないんだよ。

 おい、何やり遂げたみたいな顔して満足してるんだ。


ゴホンッ


 流れをぶった切るように放たれた咳払いは、背後から。

 後ろを見ればエリカさんが恥ずかしそうに頬を薄らと赤く染めていた。

 いいもの見れたな。

 

「おぉ、これまた失敬。少々話がそれてしまいましたな」


 姪っ子の横槍でやっと我に返ったグレゴリー公。

 凄いな。この短時間で僕からの印象を国家の重臣から姪っ子好きのじじいまで落としたぞ。


「今回ロイド様をお呼びしたのは、毎年恒例となっている友好国への親善…まぁただ今年も仲良くしましょうねと言った挨拶と思ってもらって構わんのですが、今年はお披露目を兼ねてウォーレン様とロイド様がご同行されてはどうかと昨日の会議で提案が上がり、早速聞きにきたわけです」


 おぅ……結構な重責じゃないですかそれ?

 こちとら 見た目は王族、頭脳は庶民 だぞ。国家間の外交など荷が重過ぎる。


「今年に拘る必要も無いので断っても問題はありません」


 戸惑いが顔に出ていたのか、安心させるような落ち着いた声音でグレゴリー公が続けた。


「目的地はユグドラシル。エルフの納めるただ唯一の国家ですな」

「行きます」


 思わず即答してしまった。

 きっと今、僕の瞳は活力に溢れキラキラと輝いているだろう。

 一変した僕の態度にグレゴリー公がポカンとしているが、構わない。

 だってエルフですよエルフ。ファンタジーの定番中の定番。

 異世界に来た以上、出来れば見ておきたい僕的ランキングベスト10にランクインする。

 もはやロマンと言っていいその存在をこの目で見ることができるとは…ホント、王子やっててよかった。


 セドリック兄の成人式から二年。

 七歳になった僕は、こうしてあっさりと国際デビューが決定した。




 

第二章、始めました。


感想、誤字脱字アドバイス等あれば気軽に。作者のモチベーションも上がる、かもしれない。


最新話の更新によってこの後書きは削除されます。

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