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【完結】『仲間外れはいじめです』三年間断り続けた公爵令嬢が、突然言い出した  作者: 木風


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第五話 桶は、私が持ちますから

「ヴェルナー教官。ロートリンゲン公爵令嬢の卒業後の推薦枠は、王宮文書院だったな」

「は、はい、殿下」

「取り下げよ。代わりに、もし君が望むなら、二年の現地実務を経て再推薦する機会を与える。……罰ではない」


 みんなの視線を一身に集めたまま、オクタヴィアに向き直る。


「君は頭がいい。記憶力も、文章力も、この学年で最も優れている。惜しむらくは、君が一度も現場に立ったことがないというだけだ。二年、あの渓谷で暮らせ。冬に水が凍る音を聞き、子どもの咳を数えろ。そのうえで書いた案を、私はもう一度読む。約束しよう」


 オクタヴィアは立ち尽くしていた。

 やがて、ゆっくりと顔を上げた目は、赤くなっていた。


「……わたくしは、負けるのが怖かったのですわ」


 誰も口を挟まなかった。


「誰かと組めば、自分一人では足りないと認めることになりますでしょう。わたくし、それが怖かったのです。一人で負けたなら、まだ『本気ではなかった』と言い訳できる。だから……誘われるたびに断りました」


 あれほど自信に満ちていた声が、今はひどく頼りなかった。


「オクタヴィア様。それは、最初に仰ってくださればよかったのに」

「……申し上げられるわけがないでしょう」

「そうですわね……でも、覚えておいてくださいまし。私は十五回お誘いしましたわ。断られるたび、少しずつ傷ついておりました。それでも十五回誘ったのです」


 苦笑しながら、オクタヴィアを見る。

 きっと、私の眉はこれ以上ないほど下がっていると思う。


「誘われるということは、それだけ何度も、扉を叩かれていたということですのよ」


 オクタヴィアは、深く頭を下げた。

 公爵令嬢が侯爵令嬢に下げてよい角度を、明らかに越えていた。


「……申し訳、ございませんでした」


 そして振り返らずに講堂を出ていった。

 背筋は、やはり綺麗に伸びていた。




 春の光が降り注ぐ中庭で、テオドールが噴水の縁に腰かけていた。


「怒らなかったな」

「怒りましたわ、心の中では」


 私は賞状を膝に置いて笑った。


「でも、あの方に叫んでも、渓谷の水は綺麗になりませんもの」

「……君は本当に、そういうところが」


 言葉が途切れる。

 テオドールは咳払いをすると、小さな箱を差し出した。

 中には、簡素な銀の指輪が入っていた。

 宝石はなく、内側に、細い川筋のような線が一本彫られている。


「……殿下」

「あの村の鍛冶屋に打たせた。試作で余った銀を使ったらしい」

「これを、私に?」

「テオでいい」


 彼は私の手を取った。


「六年後、あの案の帳尻が合う頃には、私は王になっている。国庫の帳簿を睨みながら、七分の一の費用の話を他人事にせず考えられる人間が隣に必要だ」


 そこまで言って、眉を寄せた。


「……いや、違うな。言い直す」


 灰がかった青い瞳が、まっすぐ私を見る。


「焚き火の向こうで『ロッテといいます』と言った君に、私は惚れた。それだけだ。私の隣にいてくれないか、リゼット」


 少しだけ頬が赤い。

 中庭の隅では、いつの間にか来ていたミレーユが両手で口を押さえている。


 私は指輪を摘み上げ、光にかざした。

 銀の川筋が、春の日を弾いた。


「ひとつだけ、条件がございますわ」

「言ってくれ」

「毎年冬に、あの渓谷へ連れて行ってくださいまし」


 テオドールを見る。


「……桶は、私が持ちますから」


 王太子は声を上げて笑った。

 噴水の水音に、その笑い声が混じった。


 その年の夏、シュヴァルツ渓谷では村人自身の手で貯水槽の工事が始まった。

 現地事務官として派遣された若い公爵令嬢が、泥だらけの帳面を抱えて水路を歩いていたという記録が、今も王立文書館に残っている。


 六年後。

 シュヴァルツ渓谷の冬に、熱病で死ぬ者はいなくなった。

最後までお付き合いありがとうございました。

ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

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― 新着の感想 ―
公爵令嬢が反省出来る人で良かったです。 公爵にも素敵な出会いがあると良いですね。 これから同期の3人で仲良くしている気がします。
私だったら4回位で誘うのやめるなぁ。挨拶まで無視しなくてもいいと思う。
ミレーユとオクタヴィアも良い女じゃないか報酬の果実をよこせやい
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