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いつの間にか『魔王斬り』になってました  作者: LOOK Circle


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3/3

第三話 いつの間にか愛刀が出来てました


 スライムを倒し、俺はようやく聖神魔法を使えるようになった。


「……で?」


 俺は自分の手を見つめた。


「これどうやって使うんだ?」


「それを今から確認するんですよ」


 隣に立つアクアが、淡々と答える。


「あなたがどのような聖神魔法を扱えるのか、まだ判明していません」


「使えるようになったら、すぐ分かるんじゃないのか?」


「人によって異なります」


 アクアはそう言うと、少し開けた場所へ移動した。


「なので、実際に戦ってみましょう」


アクアは、俺がアクアから借りていた剣を取ると


「模擬戦闘です」


「まじか!」


 俺は思わず一歩下がった。


「いや、俺さっきスライム倒したばっかなんだけど!」


「だからこそです」


「だからこそって何だよ!」


「魔王斬りとして戦う以上、戦闘能力を確認する必要があります」


 アクアは剣を抜いた。


 その動作には一切の無駄がない。


 対する俺は――


「……武器は?」


「ありません」


「ですよね」


 アクアが剣を構える。


「安心してください。私は本気を出しません」


「それ、安心できる言葉なのか?」


「では、始めます」


「待って!」


 俺の制止を無視して、アクアが踏み込んできた。


「うわっ!」


 俺は慌てて横へ飛ぶ。


 だが――


「遅いです」


「え?」


 気づいた時には、剣の先端が俺の目の前にあった。


「……」


「……」


「今の、当たってた?」


「はい」


「俺、死んでた?」


「おそらく」


「怖っ!」


 俺は額の汗を拭った。


 だが、アクアは無表情のまま言う。


「もう一度」


「まだやるの!?」


 その後も、俺は何度も挑戦した。


 右へ避けようとして左へ転ぶ。


 攻撃しようとして足をもつれさせる。


 走れば木にぶつかる。


 しまいには、自分の足につまずいて地面へ顔から突っ込んだ。


「…………」


 アクアが無言で俺を見ている。


「……何か言ってくれ」


「ありません」


「その間が一番怖い!」


 アクアはしばらく俺を見つめたあと、ぽつりと言った。


「想像以上ですね」


「何が!?」


「……戦闘力が低すぎです」


「初対面の女の子に言われたくない!」


 しかし、アクアはそんな俺の抗議を気にする様子もなく、再び剣を構えた。


「ですが、不思議です」


「何が?」


「先ほどから、魔力の流れだけは妙に強い」


「え?」


 アクアは俺の手を見る。


「身体能力は極めて高いとは言えません。むしろ……」


「むしろ?」


「かなり低いです」


「そこは言わなくていい!」


「ですが、聖神魔法の魔力は強い」


 アクアの目が細くなる。


「どうやら、あなたの力は直接身体能力を高めるものではないようです」


「じゃあ、どんな魔法なんだ?」


「それを探します」


 模擬戦闘はさらに続いた。


 そして――


「……ん?」


 俺が必死に戦っているうち、手にしていた木の棒に、何かが流れ込んでくる感覚があった。


「アクア」


「はい」


「これ……」


 俺が棒を振る。


 ――ズンッ!


 地面に亀裂が入った。


「……」


「……」


 二人とも黙った。


「今の……俺?」


「それですね…」


「じゃあ、俺の聖神魔法って……」


 アクアは少しだけ考えた。


「武器への付与」


「……武器?」


「魔力を武器に流し込み、攻撃力を飛躍的に高めているようです」


 俺は木の棒を見る。


 さっきまで何の変哲もなかった棒が、まるで別物になっている。


「すげぇ……」


 俺はもう一度振ってみた。


 ――バキッ!


 木の棒が真っ二つになった。


「……」


「……」


「これ、結構危ないな」


「はい」


 アクアは即答した。


「あなたの聖神魔法は強力ですが、武器側が耐えられません」


「つまり……」


「あなたには、魔力に耐えられる武器が必要です」


 俺とアクアは顔を見合わせた。


 結論は一つだった。


「武器を買いに行こう」


 ◆


 街へ着いた俺は、思わず立ち止まった。


「……すげぇ」


 そこに広がっていたのは、まさに「異世界」と聞いて誰もが想像するような光景だった。


 石造りの建物。


 レンガの道。


 大きな広場。


 鎧を身につけた兵士。


 荷馬車を引く馬。


 街中には様々な種族が行き交い、店先からは香ばしい料理の匂いが漂っている。


「本当に異世界なんだな……」


「そう言いました」


「いや、実物を見るとやっぱり違うだろ」


 俺はキョロキョロと街を見回す。


 そんな俺を、アクアが横目で見る。


「田舎者みたいです」


「初めて来たんだから仕方ないだろ」


「……確かに」


 やがて俺たちは、一軒の武器屋へ入った。


「いらっしゃい」


 店の奥から、いかにも武器屋の主人といった感じの大柄な男が顔を出す。


「武器が欲しいのか?」


「ああ。俺に合ったやつを探してる」


「ふん」


 おっちゃんは俺とアクアを一通り見た。


「兄ちゃん、武器なんかまともに扱えそうに見えねぇけどな」


「失礼だな!」


「事実です」


「アクアまで!」


 おっちゃんは鼻で笑う。


「まあいい。こっちへ来な」


 店の奥へ案内される。


 そこには、数え切れないほどの剣や槍、斧、弓などが並んでいた。


「好きなのを選べ――と言いたいところだが」


 おっちゃんは一つの台座を指差した。


「その前に、手をかざしな」


「手を?」


「そうだ」


 言われた通り、俺は台座へ手をかざした。


 すると――


 カタッ。


「……ん?」


 奥に置かれていた一本の刀が、僅かに揺れた。


「お?」


 刀はそのまま台座から浮かび上がる。


「えっ」


 ゆっくりと宙を移動し――



 ――俺の目の前までやってきた。


「……」


「……」


 おっちゃんの顔から、先ほどまでの気だるそうな表情が消えた。


「おい……」


 声まで変わっていた。


「その刀に触れてみろ」


 俺は恐る恐る柄へ手を伸ばした。


 触れた瞬間。


 刀が、まるで俺を待っていたかのように静かに鳴った。


「……こいつは」


 おっちゃんが刀を見つめる。


「最上大業物24工の一つだ」


「最上……?」


「今この世界に23本しか存在しねぇ、特別な刀だ」


 俺は目を見開いた。


「23本しかないのか?」


「ああ」


 おっちゃんは刀を見つめたまま続ける。


「しかも、最上大業物は全部、名前を持ってる」


 そこで、少し間を置く。


「だが……こいつだけは違う」


「名前がない?」


「そうだ」


 その刀だけが、唯一名前を持たない。


 そして――


「何よりおかしいのは」


 おっちゃんが俺を見る。


「この刀が自分から人のところへ寄っていったのを、俺は一度も見たことがねぇ」


「……え?」


「そんなことは、一度もなかった」


 店の空気が変わっていた。


 さっきまで不愛想だったおっちゃんの目は、もはや完全に別人だった。


 俺の手に収まった刀を、まるで信じられないものを見るように見つめている。


「その刀を持って戦場へ行った奴は……」


 おっちゃんの声が低くなる。


「一人残らず帰ってきてねぇ」


「……」


 思わず刀を見る。


 不気味な話のはずなのに――


 俺には、なぜか嫌な感じがしなかった。


「でも」


 俺は刀を握る。


「こいつ、俺を選んだんだろ?」


「……おう」


 おっちゃんは静かに頷いた。


「なら、俺が使う」


 そう言って、俺は刀を手に取った。


 不思議だった。


 初めて持ったはずなのに、妙に手に馴染む。


 重すぎない。


 軽すぎない。


 まるで最初から自分のために存在していたかのようだった。


 おっちゃんは俺をしばらく見つめていた。


 そして――


「……こいつぁ、かなりの大物かもしれねぇな」


「え?」


「持ってけ」


「……は?」


「金はいらねぇ」


「いや、でも……」


「いい」


 おっちゃんは背を向ける。


「その刀が自分で選んだんだ。俺が口を挟むことじゃねぇ」


 俺は刀を見つめた。


「……本当にいいのか?」


「ああ」


 そこで、おっちゃんが付け加える。


「ただし、一つだけ」


「何?」


「名前を付けろ」


「名前?」


「ああ」


 おっちゃんは刀を見ながら言った。


「武器にも魂がある」


「魂……」


「持ち主が名前を付ければ、その武器は持ち主の愛刀になる。そうなりゃ、武器そのものの力も少しずつ成長していく」


「へぇ……」


 俺はもう一度、刀を見た。


 名前。


 そう言われても、すぐには思いつかなかった。


「どうするんですか?」


 アクアが尋ねる。


「うーん……」


 俺はしばらく考えた。


 この刀に合う名前。


 美しくて、強くて――


 それでいて、どこか静かな名前。


 そして俺は、自然と口にしていた。


「……│名桜《めいおう》」


 ――その瞬間。


 刀身が、ほんの僅かに光った。


「……!」


 アクアが目を見開く。


 おっちゃんも黙って刀を見る。


 俺は知らなかった。


 この時、名もなき刀に初めて名が与えられたことが――


 この先始まる、数々の戦いの幕開けになるということを。


 俺の愛刀。


 その名は――


 名桜。


 こうして俺は、聖神魔法だけでなく、


 一振りの特別な刀を手に入れた。


 そして――


 俺の『魔王斬り』としての物語は、少しずつ形を変え始めていた。

最後までお読みいただきありがとうございます!


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