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いつの間にか『魔王斬り』になってました  作者: LOOK Circle


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第一話 いつの間にか異世界に飛ばされてました

挿絵(By みてみん)

俺、山田太郎。


 年齢は――


 ――そこは今は置いておこう。


 職業、無職。


 さらに言えば、引きこもり。


 世間一般で言うところの、立派な「ヒキニート」というやつだ。


 毎日を自宅で過ごし、好きなアニメやゲーム、漫画に時間を費やす。


 外に出ることはほとんどない。


 人と話すこともほとんどない。


 そんな生活を続けていた俺に、ある日の朝、とある人から1本の電話がかかってきた。



 電話は母親からだった。



「太郎……お父さんが亡くなったの」




「……え?」



 その一言で、頭の中が真っ白になった。


 父親とは、ここしばらくまともに会話をしていなかった。


 それでも、父親は父親だ。


 何を言えばいいのか分からない。


 どうすればいいのかも分からない。


 ただ、母親の声を聞いているうちに、実家に帰らなければ、という気持ちだけが湧いてきた。


「……分かった。俺、一回実家、帰るよ」



 そう言って、俺は久しぶりに家を出た。


 電車に乗るため、駅へ向かう。


 いつ以来だろう。


 こんなに人の多い場所に来たのは。


 足がくすむ、人混みに酔いそうになる。


 駅のホームに立ちながら、俺はそんなことを考えていた。


 やがて、ホームに電車が入ってくる。


 快速電車だ。


 俺は黄色い線の内側で、ぼんやりと電車を待っていた。


「〜〜♪」


 気を紛らわすために流行りの作品の主題歌を爆音で流していた。



 その時だった。




「……え?」


 背中に、強い衝撃が走った。


 誰かに押された。


「うわっ――!」


 体が前へ投げ出される。


(押された……?誰に……?)


 線路へ落ちる。


 目の前に迫る、巨大な車体。


(あぁ……俺……ここで……)


 ブレーキ音。


(最後に……父親に会いたかったな…………)


 轟音。




「――――」


「おい!しっかりしろ!」


(誰……の声……だ?何も見え……ない――)


「ダメです!脈が――」


「――――!」


 そして、俺の意識は途切れた。


 ◆


「……ん?」


 次に目を開けた時。


 俺は、見知らぬ場所にいた。


「ここ……どこだ?」


 辺りは暗い。


 床も壁も天井も、はっきりとは見えない。


 その時、目の前に一人の女性が立っていた。


 白く艶やかな長い髪。


 どこか神秘的な雰囲気。


 そして――何故か、ものすごく困った顔をしている。


「あの……」


「……はい?」


 女性が恐る恐る声をかけてくる。


「えと……山田太郎さん、で合ってますよね?」


「……そう、ですけど、貴方誰ですか?」


「よかったぁ……!」


 女性は胸をなで下ろした。


「私、女神です!」


「……」


 数秒間、沈黙が流れる。


「……はい?」


「あっ、えっと、その……信じてもらえないですよね!」


「いや……普通は信じないと思うけど」


 女神を名乗る女性は、少し慌てながら説明を始めた。


「ここは、生と死の狭間みたいな場所です。あなたはさっき死んじゃいました」


「……死んだんですか、俺」


「はい……」


 自分でも驚くほど、実感がなかった。


 だが、あの電車。


 あの瞬間。


 どう考えても助かるはずがない。


「で、俺はどうなるんだ?」


 そう聞くと、女神は少しだけ胸を張った。


「あなたは、別の世界で生きてもらいます!」


「異世界転生ってやつですか?」


「そうです!」


 女神は嬉しそうに頷く。


「実はですね……あなたがここで死ぬのは、少しもったいないんです」


「もったいない?」


「ええ。ですから、私があなたを異世界へ転生させます!」


 あまりにも突然の話だった。


 だが、もう死んでしまったと言われた以上、断る理由もなかった。


「……分かった。転生するよ女神さん。なんか転生モノみたいで面白そうだし」


「本当ですか!?」


「うん」


「ありがとうございます!」


 女神はなぜか嬉しそうだった。


 妙に親近感の湧く女神だった。


 そんな彼女から、俺はこれから向かう世界について説明を受けた。


「あなたが行く世界には、魔物や人間が存在します」


「普通のファンタジー世界ってこと?」


「はい。そして、その世界のおよそ1800年前――『人魔大戦』という大きな戦争が起きました」


 人間と魔物。


 二つの種族による、大規模な戦争。


 戦争は終結したものの、それで争いがなくなったわけではなかった。


 その後も100年以上にわたって、魔物と人間の争いが繰り返されたという。


「そして、その世界には少し特殊な仕組みがあります」


「特殊な仕組み?」


「魔物が人間を一万人殺すと――その魔物は『魔王』へと進化できます」


「……一万人?」


「はい」


 俺は思わず眉をひそめた。


 一万人。


 そんな数を殺せば、誰だって恐ろしい存在になる。


 だが、それがその世界では、本当に『進化』として成立しているらしい。


「そのせいで、多くの魔王が生まれました」


「そりゃ増えるだろ……」


「はい。その結果――」


 女神の表情が少しだけ曇る。


「その世界では、勇者と魔王の力のバランスが大きく崩れてしまったんです」


 この世界では魔王は増えすぎてしまったらしい。


 だが、勇者の数には限りがある。


 このままでは世界そのものが危うい。


 そこで、神々が新たな存在を生み出した。


「その存在こそ――『魔王斬り』です」


「魔王斬り?」


「はい」


 神が選んだ、魔王を討つための特別な者。


 それが魔王斬り。


「魔王斬りは、神々の力の一部を直接行使できます」


「神の力を?」


 神そのものの力を一部借り、戦うための特別な魔法。


 それを使えるのが、魔王斬り。


「そして――」


 女神は俺をまっすぐ見つめた。


「あなたには、その『魔王斬り』として転生してもらいます」


「……俺が?」


「はい!」


「いやいやいや!」


 思わず声が大きくなる。


「俺、引きこもりのニートだぞ!?」


「知ってます」


「ヲタクだぞ!?」


「それも知ってます」


「戦ったことなんて一度もないぞ!?」


「だからこそ――」


 女神は、なぜか満面の笑みを浮かべた。


「面白そうじゃないですか!」


「いや、俺からしたら全然面白くない!」


 だが、俺の意見など関係なかった。


 女神は話を続ける。


「あなたがこれから行く世界には、すでに一人の魔王斬りがいます」


「一人?」


「はい。その子と会ってください」


「その子って?」


 女神が手をかざす。


 すると、暗闇の中に一人の少女の姿が浮かび上がった。


 どこか冷たい印象を与える、静かな少女。


「彼女の名前は――エイアレル=アクア」


「……アクア?」


「はい。彼女もあなたと同じ、魔王斬りです」


 その少女が、どんな人物なのか。


 俺にはまだ分からない。


 けれど


「まずは、その子と合流してください、それではいってらっしゃい!」


 女神がそう告げた瞬間。


「え?」


 足元が突然、消えた。


「うわああああああっ!?」


 俺の体が、暗闇の中へ落ちていく。


「ちょっ、待て! せめてもっと説明を――!」


「多分大丈夫ですよー!」


「多分!?今多分って言った!?うわぁーー!!」




 女神の声が、どんどん遠ざかっていく。


 そして俺は――


 異世界へと落ちていった。


 こうして、


 何の取り柄もない引きこもりニートだった俺、山田太郎は――



 いつの間にか『魔王斬り』になっていました。

最後までお読みいただきありがとうございます!


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