第271話 爆弾揚げ鳥
古臭く怪しい外観とは裏腹に、店内はかなりのお客さんで賑わっていた。
看板に定食屋と書いてあったため、ご飯屋ではあるだろうと思って入ったが、正直中に入るまでは本当にご飯屋なのか心配していた。
以前、別の街で似たような方法で店に入ったとき、違法薬物の売買店だったことがあったからな。
この店はちゃんとした定食屋で一安心。
「へー! 結構賑わってるじゃん!」
「とりあえず席につきましょうか。空いている席に座っていいんですかね?」
「大丈夫だよ。好きな席に座ってちょうだい!」
ジーニアの声が聞こえていたのか、店の奥からそんな返事があった。
俺たちは唯一空いていた奥のテーブル席に座り、ひとまずメニュー表を確認する。
「色々な料理がありますね。ステーキに焼き魚、丼ものも種類が豊富です」
「有名なのは、この爆弾揚げ鶏なのかな? デカデカと書かれてるし!」
「そうかもな。周りの客のほとんどがそれらしきものを食べている」
一人だけ焼き魚定食を食べているが、他の客はみんな大きな揚げ鶏定食を食べている。
正直、朝から揚げ物。それも、あのサイズとなると、おっさんの体には厳しいものがあるんだが……一番人気の料理を食べないという選択肢はない。
ジーニアも、なんだかんだ悩んでいたアオイも爆弾揚げ鶏にするようで、俺は爆弾揚げ鶏定食を三人前注文した。
サイズが大きいため、量が食えるということで人気な可能性が出てきたのが少し怖いが、注文してしまった以上は食べるしかない。
「はい、お待たせしたね。爆弾揚げ鶏定食三人前だよ」
「はっやー! さっき注文したのがもう来た!」
「一番人気なだけあって、常に揚げているからね。ちゃんと揚げたてだから安心してよ」
注文してから五分と経たずに提供されたため、作り置きで冷めているかもしれないと一瞬考えたが、どうやら作りたての様子。
拳サイズの丸々とした衣のついた肉が三個並んでおり、ご飯もかなりの量。
更にスープに加え、付け合わせの生野菜までついている。
王都のメインストリートで、銀貨一枚でこのボリュームはさすがにお得すぎるな。
「それじゃ早速食べるね! いっただきまーす!」
「私もいただきます」
食前の挨拶をしてから、拳サイズの揚げ鶏を頬張ったアオイとジーニア。
大きさが大きさだけに、食べるのに苦労しているようだったが、何とかかぶりつくことができた様子。
「ん——! 激熱だけどめちゃくちゃ美味しい! 肉汁が爆発してて、旨味もすんごいんだけど!」
「凄く熱いですが、本当に美味しいですね。これは大当たりだと思いますよ」
大絶賛の二人を見てから、俺も爆弾揚げ鶏を食べることにした。
かぶりついた瞬間、中に詰まっていた肉汁が弾け、口の中に旨味が広がる。
どうやら鶏の皮で包むように揚げているため、肉汁が逃げないようになっているっぽい。
二人が言っていたようにめちゃくちゃ熱いが、この熱さも含めて非常に美味しい。
「確かにめちゃくちゃ美味い。やはり大当たりの店だったな」
「グレアムに任せてよかった! 食べられるか不安だったけど、ぺろりと食べられると思う!」
「私も完食できそうです。お値段も安いですし、人気店の理由がよくわかりますね」
俺たちは夢中になって爆弾揚げ鶏定食を食べ進めていった。
めちゃくちゃ美味いが、やはり朝から揚げ物はかなりきつく、何とか完食できたものの胃が重い。
腹的にはもう少し余裕はあるが、やはり年を感じてしまう胃の重さ。
アオイとジーニアは単純にお腹いっぱいのようで、俺は胃を、二人はお腹をさすりながらお店を後にした。
「あー、お腹いっぱい! もう何も食べられない!」
「美味しかったですが、量が多かったですね」
「俺も胃がもたれてしまった。どうする? 少し休憩するか?」
「休憩したい! このまま道具屋巡りしたかったけど、お茶したいかも!」
「いいですね。私も賛成です」
満場一致ということで、どこかで一休みすることにした。
もう何も食えないだろうし、空いている喫茶店を探していると……見つけたのは「OPEN」の看板が掲げられているバー。
朝からバーはいかがなものかと思ったものの、喫茶店はどこも人でいっぱいだったからな。
お酒を飲むつもりがないため、ソフトドリンクが提供されていたら利用させてもらおう。
そんな心構えでバーに入ってみることにした。
「あら、いらっしゃい。好きな席に座ってちょうだい」
店内は薄暗く、時間帯もあってか客はゼロ。
バーのマスターは俺と同い年くらいの女性だ。
「座る前に一つ尋ねたいんだが、アルコール以外の飲み物って提供されているのか?」
「ええ。この時間帯は色々な飲み物を出しているわよ」
「やったー! ここでちょっとゆっくりしよう!」
「ふふ。今は暇な時間帯だし、ゆっくりしていってちょうだい」
「ありがとうございます!」
アオイの言葉に優しく笑ったマスターは、奥のテーブル席に座った俺たちに水を提供してくれた。
それから、メニュー表を確認させてもらったのだが、意外にもソフトドリンクの種類が多い。
もちろん酒の方が圧倒的に種類が多いものの、普通の飲み物の種類も充実している。
気になる飲み物もいくつかあるしな。
「何にしよっかな! ……元気ジュースに決めた!」
「元気ジュースってなんだ? 俺は白いカフェオレにしようかな。ジーニアはどうする?」
「面白い名前の飲み物が多いですね。私は……ミックスオレにします」
アオイが頼んだ元気ジュース以外にも、悪魔の誘惑や天使の孤独といった、カクテルチックな名前のジュースも書かれており、どんな飲み物か非常に気になる。
とはいえ、今の腹パンの状態では冒険する勇気も出ず、俺は無難そうな白いカフェオレを注文したのだった。
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