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初恋のフォークロア  作者: 遠梶満雪
初夏の段
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初恋のフォークロア

「ハリエット、ねえハリエット。頬が熱くて眠れないの。何か御本を読んでちょうだい」


「良いですとも坊ちゃん。何のお話がよろしいですか? 化け猫退治のお話かしら、それとも賢い靴屋のお話?」


「あれがいい、白い鷲の出てくる話」


「承知しました、でも、その前に。額のタオルを交換しましょう。薬も飲んで、毛布にしっかり包まって、お話はそれから」


──────────────────────


 これは悲しいフォークロア。


 ウェールツディットに旧く伝わるおとぎ話。


 今は昔、あるところに騎士に恋した白鷲がいた。


 善き騎士、誉れ高き騎士に焦がれた、大きな鷲。美しい鷲。


 その鷲に頼まれて、新月の晩、西の魔女は魔法をかけた。


 曲がった嘴を柔らかな唇に。


 鋭い爪を美しい足に。


 空飛ぶ為の大きな翼を抱きしめる為の細い腕に。


 鷲は綺麗な娘になった。


 魔女は予言した。


 月が三回満ちるまでに、騎士の愛を得られなければ、お前たちは永遠に引き裂かれるであろう。


 月が最初に満ちるまで、娘は歩くことができなかった。


 月が次に満ちるまで、娘は喋ることができなかった。


 月が最後に満ちるまで、娘は騎士に触れる勇気が出なかった。


 月が三回満ちた晩、騎士は敵の騎士に殺された。


 娘は嘆き悲しんだ。


 私に嘴があれば敵の目を突けたのに。


 私に爪があれば彼を掴んで持ち上げられたのに。


 私に翼があればそのまま共に飛び去れたのに。


 どうすることもできない娘は、山の火口に身を投げた。


 娘を憐れんだ女神が山の火をすべて真水に変え、騎士の流した血と交ぜた。


 水と血は川となって大地を潤し、草と獣を育んだ。


 恵みを求めて集まってきた人々が、一つの民族となり三つの王国を作った。


 女神は彼らに贈り物をした。


 北の王国アーシュライエンには山と海の恵みを。


 西の王国エルリンテンには清き水と美しき鉱石を。


 東の王国ラインには良き畑と素晴らしき駿馬を。


 三国が手を取り合い助け合い、二度と争いの起こらぬように。


 これがウェールツディットのはじまりである。

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