初恋のフォークロア
「ハリエット、ねえハリエット。頬が熱くて眠れないの。何か御本を読んでちょうだい」
「良いですとも坊ちゃん。何のお話がよろしいですか? 化け猫退治のお話かしら、それとも賢い靴屋のお話?」
「あれがいい、白い鷲の出てくる話」
「承知しました、でも、その前に。額のタオルを交換しましょう。薬も飲んで、毛布にしっかり包まって、お話はそれから」
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これは悲しいフォークロア。
ウェールツディットに旧く伝わるおとぎ話。
今は昔、あるところに騎士に恋した白鷲がいた。
善き騎士、誉れ高き騎士に焦がれた、大きな鷲。美しい鷲。
その鷲に頼まれて、新月の晩、西の魔女は魔法をかけた。
曲がった嘴を柔らかな唇に。
鋭い爪を美しい足に。
空飛ぶ為の大きな翼を抱きしめる為の細い腕に。
鷲は綺麗な娘になった。
魔女は予言した。
月が三回満ちるまでに、騎士の愛を得られなければ、お前たちは永遠に引き裂かれるであろう。
月が最初に満ちるまで、娘は歩くことができなかった。
月が次に満ちるまで、娘は喋ることができなかった。
月が最後に満ちるまで、娘は騎士に触れる勇気が出なかった。
月が三回満ちた晩、騎士は敵の騎士に殺された。
娘は嘆き悲しんだ。
私に嘴があれば敵の目を突けたのに。
私に爪があれば彼を掴んで持ち上げられたのに。
私に翼があればそのまま共に飛び去れたのに。
どうすることもできない娘は、山の火口に身を投げた。
娘を憐れんだ女神が山の火をすべて真水に変え、騎士の流した血と交ぜた。
水と血は川となって大地を潤し、草と獣を育んだ。
恵みを求めて集まってきた人々が、一つの民族となり三つの王国を作った。
女神は彼らに贈り物をした。
北の王国アーシュライエンには山と海の恵みを。
西の王国エルリンテンには清き水と美しき鉱石を。
東の王国ラインには良き畑と素晴らしき駿馬を。
三国が手を取り合い助け合い、二度と争いの起こらぬように。
これがウェールツディットのはじまりである。




