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「そろそろ時間だ」


陛下は翔にそう言った。


「そうですね」


翔はグラスを近くの使用人に預け、陛下と一緒に広間にある大きな階段の上に向かった。何かの発表をする気らしい。


「勇者の翔です。皆様、これからはお世話になります。今日、この場で俺は勇者パーティーのメンバーを紹介したいと思います」


発言したときの翔は見事なほどに立派だった。クラスの作文発表とは比べものにならない程規模が大きいのに。これは勇者の力なのか、それとも自分の能力なのか。性格を直してくれれば彼は完璧だっただろうに。


「呼ばれた者は前へ」


私はディルの横に移動した。


「私たち、呼ばれるよ」


そう小声で伝える。ディルは知っていたかのように頷いた。


「賢者、マーク・トレイデン」


「はっ」


周りから歓声と拍手が上がる。この人が誰かはわからないが、私も一応拍手をした。


「聖女、エリーナ・フォンゼニア」


第一王女が前へ出る。先ほどの比ではない拍手が広間に響いた。さすが、王族というべきである。第一王女様は笑顔でみんなに手を振った。まさしく聖女みたいな笑顔でみんなの心を奪う。その優しい瞳に私も飲まれそうになった。


「ありがとうございます、皆さん」


心なしか、前会った時と人格が変わっている気が...。


「冒険者、ディル、アーシェ」


シーンっとその場が静まり返る。私とディルが上に上がる時には周りは小声で互いにささやいていた。大方何を言っているのかは予想がつく。


「なぜ平民が?」


「パーティーメンバーになれるのか?それより、強いのか?冒険者ごときが」


皆、不満の目で私たちを比べていた。


「ちなみに、二人はどちらもSランクです」


そう翔が述べた瞬間、会場はワッと拍手と歓声に包まれる。


「Sランクだったか!」


「すげぇな」


この変わりように少し体から震えてしまった。


「これにて以上となります」


翔は最後に深々と頭を下げた。礼儀正しいところはさすが違う世界の日本から来た人と言うべきか。


最後に貴族たちは大きな拍手をして、宴はそこで終了となった。


結局、この宴は勇者パーティーのメンバーを公表するためだけに行われたのか?


「明日から出発だ。今日はゆっくり休むといい」


翔はパーティーメンバー全員に告げた...と思った。


「アーシェ以外は」


怒るよ?


完全な嫌がらせに怒りを湧き上がらせながら頷く。こんなにストレスが溜まるものとは思わなかった。まだあの告白詐欺事件を根に持っているのか、この人は。本当に性格がよけりゃ結構人気になれたと思うのに。


完全なる嫌がらせ。


「翔様、私に何か用ですか?」


ニヤッと彼の微笑みが暗くなった。そして軽蔑した目でこう言う。


「俺の命令は絶対な。ちょっと今夜は楽しませてもらうぜ」


その言葉の意味に目を見開いた。


「翔様、それはいくらなんでも...」


いますぐ殴ってやりたい衝動を拳を握ることで抑えながら困ったように眉を八の字にする。周りからしたら困っているだけの女性の出来上がりだ。


「俺の命令は絶対だよなぁ?」


確かに今彼の地位は私のよりも高い。だからってそれで「はい、体を差し上げます」なんて言う人がいるか。好きな人ならまだしも、世界一嫌いと言っても過言ではない人に体を差し出すなんて言語道断。


殴りたい。すっごく殴りたい。


そして、そう思っているのは私だけではない。それよりも、私以上にディルが横で怒りを示しているのだ。


なぜ、私よりも怒っているのだ、彼は。


「ショウ様、それは流石に度が過ぎるかと。貴方様の評判も落ちるのでは?」


口元は笑っているが、目が怖すぎるディルが言うと説得力の塊である。


「お前には口出しする権利はない。例え今評判が地に落ちようとも魔王を倒せばぐんと上がるぜ?」


グイッと翔は私の手首を引っ張る。


「こいつには恨みがあってね。一番嫌な方法で返してやろうと思ったんだ」


ぺろっと下唇と舐めた時、私は完全に危機を感じた。これじゃああの告白詐欺事件と同じじゃないか。だが、こんな大勢の貴族の前で断ったら私の首がなくなりかけない。


どうする...どうすれば...。


だが、先ほどと比べると帰って行っている貴族が多くなってきた。このまま貴族を返して人がいなくなるまで粘れば...。


「本当にそれだけは...」


翔に遊び心をくすぐらせるんだ。私をもっと遊び回せ。そして時間を稼げ。


「はっ!やっぱりお前も普通の女だな。こんなか弱く」


グイッと私の顎を上に向ける。憎っくき翔と目が合わさった。


「こんなにも、面白い!」


私たちの唇が当たりそうになる瞬間。私の目に涙が溜まった瞬間。


ディルが私を取り戻した。


「アーシェには指一本触れちゃダメですよ?」


そしておまけみたいな形で唇を私の髪の毛に埋める。


「何キスしてるのよ、あなたも」


翔にされるよりはマシと考えると、抵抗する気はなかった。


「ちょっと可愛くて」


「??」


ちょっと何言ってるかわからないかな。


貴族たちは皆もう出て行っており、広間には私たちだけが取り残された。目の端からは聖女がじーっとこちらを睨んでいるのが見えるが。てか、陛下もそそくさ消えてるんだけど。


「そうか。やっぱりなぁ。ディルよ、叶わない恋なんて捨ててしまえ」



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