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『エンド』。それは何か分からないが、なぜか懐かしさを覚える。私はこの言葉の意味を、真理を知っている気がする。思い出せない、それが何なのか。
「覚えてない、んだね。まあ、覚えてたらそもそも家族に虐められるようなことはないか」
「『エンド』って何か教えて」
ディルは唇に人差し指を当てた。
「いつか教えるよ。今はまだその時じゃない」
私より何倍もこの世の中のことを知っていそうなディルがそう言うんだったら私は待つしかない。
....だが、いちいち耳元でささやかれると変な気分になる。離れようとしても離してくれない。
「も、もうそろそろ入った方が...」
「もうすこしのこのまま-」
「あのー目の前まで来てるんで行くなら早くしてもらっても」
路地裏の入り口から聞き慣れた少年の声が聞こえる。ゆっくりと首をそっちに曲げると、ノアが気まずそうに立っていた。
「ノア!?」
ノア、ディルを交互に見る。そしてディルと私の今抱き合っている状況をノア視点から考えてみた瞬間、恥ずかしくなりすぐにディルから離れた。不意打ちでディルも力を入れてなかったらしく、するりと抜けた。
「もしかしてアーシェさんとディルさんって...」
「違うよ!」「そうだよ」
私はぽかんとディルも見つめた。
彼、今そうだよって言った?
え?
「ディル...違うでしょ!」
慌てて否定する。ノアに誤解はされたくない。恥ずかしいし何よりもそもそもそのような感情はディルに抱いていなかった。
私の慌てぶりを見て、ディルの目は冷たく細まった。そしてノアの方を向き、「ごめん、違うよ」と笑う。
からかっていただけ、と捉えた私は扉の方へ向いた。
「ノアがここに来たってことは一緒に教団を倒したいってことで合ってる」
「.......はい」
ゴクリ、と場の空気が重くなる。そこで浮いているのはディルの余裕な笑みぐらいだった。
心なしか、彼が少しイラついているように見えるのはどうしてだろうか。
「行こう」
ディルの合図とともにみんなで中に入る...と思った。
彼が合図した瞬間、私とノアの周りに立方体の結界が貼られた。
「ディル!何を!」
「ごめん、ちょっとストレス発散させて」
最後にわけわからない言葉を残してドアの向こうへ消えて行った。私は結界を強く叩くも、反応がないことから諦める。魔法を使おうとしたが、どうやら魔法が無効化されている結界らしい。魔力の差が発動者より倍は高ければ砕けるらしいが、それほどの魔力を持っていない。剣で、剣で結界を切れればいい。
だが、剣はディルから教えてもらった。動きも、技も全てディルから教わった。だとしたらその対策をディルがしてないわけがない。
「詰んだ...」
「アーシェさんはディルさんの結界を壊せないの?スタンピートを倒せるぐらいなら...」
「あれを倒したのはディル一人。私は何もしてない。だから、あの時だって...お金を」
くっ、と悔しく歯を食いしばる。
「あ、話がそれちゃった。結論としてはディルが帰ってくるかこの結界が破れるかのどっちかじゃないと私たちは出れないわ」
「その結界がディルが帰ってくる前に破れるって...」
ノアも何かわかったのか。
私は俯いた。考えたくないことをよりによってこんな時に何回も脳内で再生される。
「ディルが、死ぬってこと」
脳内で再生されるのは、ディルが中で殺される様子。
それは、絶対にいやだ。
座っている自分の体を起こし、鞘から剣を取り出す。物は試しだ、一回切ってみよう。いや、一回じゃない。壊れるまで何回も切って見せる。
「ノアは下がってて」




