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夜、私はメーアの街の地下へ続く道をディルに案内してもらう。もう閉店まじかの焼き鳥屋の店主が私たちを見て「出発したかと思った」と驚いていた。私は苦笑いを送り、先に進む。今まで気づいたこともなかった路地裏に私たちは入った。
「ここだね」
ここ、と指されたのは行き止まりの壁。周りを見渡しても地下へ続く扉らしきものは見つからない。見えるものといったら角に溜まっているゴミぐらいだ。
「本当にここであってる?あ、もしかしてあの壁を乗り越えた先とか?」
ディルはクスッと笑った。
「考えすぎだよ。ここで合ってる」
ここで合ってる、って。そう見えないが。
やはり何かディルにはわかって私には分からないものがあるのだろうか。もしや隠し扉が。
「気づいたようだね」
ディルはどこの言語か分からない言葉を発した。すると、壁がグニャリと歪み、扉に変形した。
「ど、どうなってるの?」
仕組みを知りたいが今はそんな場合じゃない。早急にこの教団を阻止しなければディルの言う”神”が復活してしまう。神が復活してしまえばこの世界はどうなるか。もう破滅一択しかないだろう。
「何強張ってるの?別にそんな危険じゃないよ。だって失敗しても神が復活するだけでしょ?」
神が、この星全て、私たちを創造した神が....復活するだけ?さすがに私の聞き間違いだろう。ディルは強い。それは真実だ。だが、いくらディルが強くても神に勝てるなんて思わない。スケールがデカすぎて想像もつかない。
ディルって頭いいイメージがあったけど、もしかしてそんなによくないとか?ならば私が神の危険性を教えてあげなければ。
「ほら、早く入ってパッパと終わらせよう」
先に中に入ろうとするディルの服を掴んで止めた。
「ディル。神様はいくらディルでも倒せないよ。私たちを造った神を私たちが倒せる訳ないから。だから、復活しても大丈夫なんて思わないで。ほんとに危険なんだから。下手したら今日、私たちの命日かもしれないんだよ」
ディルの服を掴んでいる手が震える。自分で”命日”と言って怖くなってしまった。
俯いている私を見て、ディルは微かに微笑んだ。その微笑みはどの感情からのものなのか誰にも分からない。
「僕のことを心配してくれてるの?可愛い」
「っ、私は本気で」
ディルは服を掴んでいる私の手を引き、自分の腕の中に私ごと引き寄せる。
「神なんて僕の相手じゃないから安心して。それに、君も神ぐらい倒せるよ」
耳元でささやかれ、くすぐったくて体をよじる。
...今、私も神を倒せるって言った?
少し火照っていた顔がどんどん覚めていく。
「え、いや、神を倒すなんて、私には...」
ディルを押して離れようとするが、力の差でそれはかなわない。
「いけるよ、だってアーシェは僕と同じ、『エンド』なんだから」
「........『エンド』?」