第79-1話
内容の大部分を書き直しております。
ここから新しく修正していきまので何卒よろしくお願いいたします。
いつもありがとうございます!
明らかに敵意を見せかけている目。
一歩間違えたら体中がずたずたになってしまうほど凄まじい殺気を込めているゆりちゃんの透明な目はもはや凶器と呼ぶほどのもの。
全身の毛が逆立つほどおぞましいその目を私はかつて何度も見たことがありました。
そしてその大体の状況はほぼ私が絡んでいることというのもまた私はよく知っていました。
「ゆり…ちゃん…?」
昔とは違って今はあまりしないようになった鬼気迫った顔。
地元の皆は「鬼の顔」と呼びながらゆりちゃんのこの顔を恐れていました。
その年の女の子にしては人一倍、いや何倍くらいは執着心が強いゆりちゃん。
欲しいものはどんな手を使っても手に入れ、一度手に入ったものは誰にも渡さない。
もし奪おうとする人がいれば完膚なきまでに叩き潰して二度と歯向かおうとすることなんてできなくないように徹底的に捻り潰す。
そしてその対象はいつだって私自身ということを私はあまりにもよく知っていました。
その行動原理はただひたすらの執着心と独占欲。
そのおかげで私は幼い頃ゆりちゃん以外の友達がいなかったことが少々ありました。
いつ他の誰かに私のことを取られたらどうしようって周りにピリピリしていたゆりちゃん。
多分「フェアリーズ」の活動をしながら小学校に入った直後が今までの中で一番ひどかったと思います。
その後、徐々にマシになって普通にお友達くらいはできるようになりましたが…
「…何してるんですか…?みもりちゃん…?」
どうやら今回ばかりはガチでキレたようです…
「こ…こんにちは…!緑山さん…!」
一目で分かるほどものすごい敵意を剥き出しているゆりちゃんに最初に口を開けたのはクリスちゃんの方でした。
軽い挨拶でしたが明らかに強張っているクリスちゃんの顔つきから私はどうやらクリスちゃんにはもう色々なものが分かっていると直感してしまいました。
でも返ってくるのは
「…前にも話しましたが私に気安く話しかけないでください…黒木さん…」
ゆりちゃんの無情な返事だけでした。
「ゆ…ゆりちゃん…!ダメだよ…!そんなこと言っちゃ…!」
その言葉に慌ててゆりちゃんのことを止めようとした私でしたが
「は…?なんですか?みもりちゃん…今その女の肩を持ってるんですか…?」
それは却って今の状況をこじらせてしまったのです。
「なんでみもりちゃんがその女の味方をしてるんですか…?」
「味方って…私、別にそういうつもりじゃ…」
一瞬詰まってしまう口。
その時、私は思ったよりうかつな行動していたかも知れません。
なんでゆりちゃんがあんな怒っていたのか私だって分からないまでもありません。
でもそれ以上、私は私達のことをずっと応援してくれたクリスちゃんに対するゆりちゃんの態度に少し、いや、かなり腹が立ちました。
「なんでゆりちゃんがあんなこと言うの…!?クリスちゃんのこと、ゆりちゃんならもう知ってるんじゃない…!?」
「ええ、もちろん知ってます…あの女が私達のファンだったっということも、私からみもりちゃんのことを奪おうとするたちの悪い泥棒猫ということも…」
「ど…泥棒猫って…」
驚きました。
顔色も変えずにあんなに平気そうに目の前の相手のことを「泥棒猫」って言ってしまうゆりちゃんのことに私は自分の耳を疑ってしまいました。
「うかつでした…まさかそちらの女の名前がみもりちゃんと同じ持ち場ってことを見落としていたとは…」
様子を見に来て良かったと安心するゆりちゃん。
でもその顔に本当の喜びなんて欠片もありませんでした。
私はふとそんなゆりちゃんからものすごい失望感を感じてしまったのですが一旦自分だけでも落ち着いてから話そうと思って
「ふう…」
息をいっぱい吸い込んで深呼吸をすることにしました。
「私…なんでゆりちゃんが怒っているのかよく分かってる…でもそういう言い方は良くないと思う…クリスちゃん、私のことだけではなくゆりちゃんのことも大好きだし私達のこと、ずっと応援してくれたから…」
「もうすっかり「クリスちゃん」って呼んでいますね、みもりちゃん…」
でも思ったよりゆりちゃんは私の話に耳を傾けてくれませんでした。
これは子供の頃からの生まれつきの悪癖。
一旦頭に血が上ったら相手が何を話しても全然聞いてもらわない。
真実や真意も問わずにただ目の前の現象について問い詰めて自分勝手なことばかり押し付ける。
そのせいで私達は何度も喧嘩を繰り返してきましたがいくら時間が経ってもゆりちゃんはその経験からなんにも学びませんでした。
そう思ったら急に腹が立ってきましたがそれでも相手がゆりちゃんだけに私はなんとしても理性的に振る舞おうとしました。
私は自分までそのテンションに巻き込まれたらまた喧嘩になりかねないってことをよく知っていたんです。
「別にゆりちゃんと口喧嘩がしたいってわけではない。ただゆりちゃんがクリスちゃんのことを少し誤解しているって思ってるだけだから。
私は私達のことを応援してくれたクリスちゃんの気持ちにちゃんと応えてあげたいしそれをゆりちゃんにも分かってもらいたいだかなの。」
「私に何を理解しろって言うんです…?みもりちゃん…」
相変わらず敵意に満ちたどす黒い目で私の後ろにいるクリスちゃんのことを睨みつけているゆりちゃん。
これから当分の間こういうペースでいくはずでだと早くも私は気づいてしまいました。
特に重要でもないところにしつこく絡みついてうざくてムカッとする言葉で何度も私のことを突っついてくる。
こういう鬱陶しい姿勢に呆れてしまった私まで尖った言葉遣いになってしまったらそこから誰か相手に謝るまで一言もしない冷戦状態に突入。
私はそれが特に嫌でした。
「だから何でもそういう言い方する必要はないってことで…」
「私の口調に何か問題でもあったってことですか?私は本当のことを言っただけですけど?」
っともうもともに私との会話ができなくなったゆりちゃんのその言葉に私はついにもうどうにでもなれってやけくそみたいなことを思う状態となってしまいました。
「私が言ったことに間違いなんて一つもありません。あの女はみもりちゃんのことを狙っている不埒な泥棒猫です。みもりちゃんの方こそどうして分かってくれないのか逆に私が聞きたいですけど?」
「ちょっ…!だからそういう言い草がダメって言ってるの…!何でもゆりちゃんからの視線で解釈しないで…!」
そしてこれがまたゆりちゃんのプライドに関わる何かを損なってしまったのか
「いいえ。私にはそういう判断力がありますからそうさせて頂きます。私は子供のみもりちゃんと違ってずっと大人ですから。」
ゆりちゃんはやけにムキになって今度は私のプライドに突っかかってきました。
「みもりちゃんは本当なんにも分かってませんね。いくら成長したと言っても所詮一人では何にもできないお子様のまま。どれだけ危なっかしくてハラハラさせるのかもう見てられないくらいです。
つまりあなたにはこのゆりがどうしても必要ということ。
あなたなはただ大人しく私の話に従えばいいのです。」
顔色も変えず猛烈に私のプライドに傷をつけてくるゆりちゃん。
でもその時の私は既にクリスちゃんに見られているってことさえ忘れていたほど興奮していました。
「ゆりちゃんにはそう言われたくない…!大体ゆりちゃんが何の資格で私のことをそういい切れるの…!?ゆりちゃんだって私と同い年だから勝手にお母さん気取りでそう言わないでよ…!」
「お母さん気取りって…!実際そうではありませんか…!」
そして既に喧嘩は始まったって気づいた時はもう遅かったのです。
「かな先輩のことだって一人では何にもできなかったでしょ…!?
全部私がみもりちゃんのアイドルとしての活動に支障が出ることを恐れてやってあげたことなのに…!私に向かってどの口でそう言えるんですか…!ひ…一人では何にもできないくせに私に歯向かおうとするなんて生意気なみもりちゃんですね…!」
「クリスちゃんだって手伝ってくれるって約束したから別にゆりちゃん一人のおかげってわけではないいし…!だからそんな偉そうな顔は止めて欲しいな…!」
「あ、そうですか…!それって私の力なんて必要ないってことですよね…!?」
真っ赤な顔になってもう本音を隠さず洗いざらい吐き出し始めたゆりちゃん。
でもそんなゆりちゃんより私の方がもっと興奮していたと私はそう思います。
「なんでゆりちゃんがそんなこと言うの…!?ちょっとぐらい他の子にも優しくしてあげてもいいじゃない…!
それに私はゆりちゃんの子供じゃないからそんな風に私のプライドに傷つけるのは止めてもらいたい…!私だっていくらでも自分の頭で考えて行動できるからゆりちゃんに子供とか一人で何にもできないってとか言われる筋合いはないよ…!」
「いいえ…!全然あります…!」
一歩も譲らないゆりちゃん。
興奮したせいなのか目がちょびっと潤っているゆりちゃんでしたがあえてゆりちゃんは先より強い勢いで私のことを追い込み始めました。
「みもりちゃんは弱い…!弱い上に無駄に情け深くてお人好しで大馬鹿ですから私の後ろに隠れていればいいんです…!今まで私に守られたようにあなたは私の後ろに隠れていればいいってことです…!」
「何保護者みたいなことを言ってるのよ…!大体ゆりちゃんはいつも過保護すぎなんだから…!」
っと言いかけた私の話に割り込んだゆりちゃんは
「大体同好会のことだって私がいなかったら入れなかったのではありませんか…!?」
その一言で私の口を封じてしまいました。
確かに同好会のことはゆりちゃんがいたから入ることができました。
ゆりちゃんが背中を押してくれて一緒にいてくれて私は同好会に入ってアイドルとしての再スタートを切ることができました。
それについては反論もできませんし反論する気もありません。
だとしてもその場でその事実を飲み込むことは結構しんどいものでした。
「私がいなかったらずっとうろうろしていたくせに…!
バカ…!大バカですよ…!みもりちゃんなんか…!」
「いや…!ゆりちゃんの方がずっとバカだから…!」
珍しく涙まで見せつけて全身を震えているゆりちゃんのことに私は少し自分の行動を振り返るようになりましたがやっぱり私、ゆりちゃんがクリスちゃんのことをそう言ったのは許せなかったんです。
私達がアイドルを続けられたのは全部クリスちゃんのようなたくさんのファンの皆からの応援があったこそだと思いますから。
そういう温かくて強い応援があったこそ今の私達に「フェアリーズ」という大切な思い出ができたと思いますから。
だから私も普段と違ってムカッとなったと思います。
ファンのことを、私達の思い出と夢を粗末にするような態度を他でもない私の大切な幼馴染が取ったから。
私はそれが我慢ならないほどがっかりしたんです。
「もういいです…!みもりちゃんなんか知りません…!勝手にしてください…!」
「いいよ…!勝手にさせてもらっちゃうから…!私だってゆりちゃんなんて全然知らないよ…!」
そうやってお互いに棘のような言葉を刺し合ったまま背を向けてしまった私達。
胸は憤りに抑え切れないほど大きく駆け出していて行き場を失った感情は全身を巡り巡ってさらなる激昂を呼び寄せてしまう。
お互いへの寂しい感情。渦巻く怒りと悲しみ。
でもそれら全部解消もできず
「もう話しかけないでください…!」
「こっちのセリフっつうの…!行こう…!クリスちゃん…!」
そんなモヤモヤな状態で私達は別れてしまったのです。




