第78話
いつもありがとうございます!
「ななお姉ちゃんとかなさんのことを仲直り…」
「うん…」
驚きを隠しきれない顔のクリスちゃん。
今の私からの話が随分衝撃的だったのかクリスちゃんは目を大きく開いて思いっきり驚きましたが
「そ…それはとてもいいことだと思います…!」
案外彼女は私の考えを支持してくれそうです。
私とゆりちゃんみたいな子供からの幼馴染というクリスちゃんと赤城さん。
クリスちゃんは彼女のことを「お姉ちゃん」と呼びながらよく懐いていてそんなクリスちゃんのことを赤城さんも本当の妹さんみたいに大切にしてくれたそうです。
もちろんクリスちゃんはかな先輩のこともよく知っていました。
「ななお姉ちゃん、いつもかなさんのことを楽しそうに話してましたから。」
堂々として人前では決して自分の綻びを見せなかったという赤城さん。
そんな赤城さんが自分の全てを出し見せられる唯一の人。
それがかな先輩だとクリスちゃんはそう思い返しました。
「お姉ちゃん…いつも私にこう話しました。クリスにもいつかきっと運命の人が現れるから。その時が来たらあなたはもっと素敵な女性として生まれ変われるって…」
そう話している時、誰より幸せそうだったという赤城さん。
だからこそ赤城さんがかな先輩と揉めてお互いのことから離れたという話を聞いた時、クリスちゃんはそのことがどうしても信じられなかったそうです。
「信じられなかったんです…だってお姉ちゃん…いつもかなさんのことしか思っていなかったし一緒にいる時には誰よりも幸せでしたから…なんで揉めたかなって思って何度も聞いたこともありますがいつも適当にはぐらかされて…」
「そうなんだ…」
何度聞いてもそれに関しては決して話したくないという赤城さんの態度に結局何も聞けなかったクリスちゃん。
私は先ゆりちゃんから聞いたお二人の間に起きた本当のことをクリスちゃんにだけに正直に話しました。
かな先輩の右手に起きた異変。
「事象系」の「超能力者」として覚醒したかな先輩は自分には制御できない何でも消していしまう右手から大切な赤城さんのことを守るため彼女の傍から離れることを選びました。
最後まで信じてあげられなかった赤城さんへの申し訳ないという気持ちで本当のことは一つも言えず二人の仲は悪くなる一方。
その挙げ句、赤城さんのためみ学校まで辞めようとしたかな先輩の話は私にとっても大ショックでした。
その同時に私は自分にがっかりしてしまったんです。
先輩は一人であんなに苦しんで悩んでいたのに私は本当に何も知らずただのんきにしていたんだって。
またアイドルになれることに舞い上がりすぎて悩んでいる先輩のことに気づいてあげられなかったんだって。
私にまたアイドルができるように頑張ってくれたかな先輩のことをほったらかしてただ楽しんでいただけの自分があまりにも情けなくてもう涙まで出そうです。
こんな風になるためにまたアイドルになったんじゃないのに…
私がやりたかったアイドルはこんなものではなかったのに…
やっぱり私はもう昔の自分には戻れない…
「そ…そんなことないですよ…!みもりちゃん…!」
そう思っていた私の震える肩を支えながらそれは違うって弱った心を正してくれるクリスちゃん。
その青紫色の目は決して私のことを責めることも、咎めることもせずただひたすらな強い眼差しでこう訴えてきました。
「たとえそうだったとしてもみもりちゃん、今はかなさんのことをすっごく思っていますから…!」
っと。
その優しさに間違いはない。
クリスちゃんはその気持ちだけは嘘ではないと私のことを一生懸命励ましてくれたのです。
「私は知っています…!みもりちゃんは皆の笑顔が大好きで誰かの力になりたいって本当の心でそう思っている人だって…!だって私が大好きだった「フェアリーズ」のみもりちゃんはそういう人でしたから…!」
「クリスちゃん…」
遥か昔、市役所のふるさと振興課で働いたお母さんの提案で始めた人生始めてのアイドル活動。
一緒にやるのはかけがえのない大切な幼馴染の女の子。
アイドル好きだったお母さんとご近所のお姉ちゃんから歌とダンスを学んだ私達はたくさんの人前で歌いました。
私達の歌が誰かの力となり、元気を与える。
自分達の歌で誰かが笑顔になることがこんなにも気持ちよくて素敵なことだなんて、その時の私達はそう感じてたのです。
たとえその幕を閉じられる時が痛くて辛くても私達にとってあの時の記憶は今もこの胸の中から生きている。
そして私達と同じくあの頃の私達のことを大切にしてくれたクリスちゃんの言葉に私は遠い昔の自分はクリスちゃんや他の人達だけではなく自分自身の力にもなるということに気づきました。
まるで目の前に昔の小さな自分と向き合っているような気分…
黒髪がとてもきれいで可愛い衣装を着て皆の前で歌うのが大好きだった小さな女の子…
その隣には自分が覚えている小さなゆりちゃんが私と手をギュッと取り合って胸の高ぶりを抑えきれず一緒にドキドキしてて…
「みもりちゃん…私…こんなにドキドキしてて…」
「うん…私も…」
っと触れ合った体からお互いの鼓動を感じ合った小さかった私達…
私…こんなにも小さかったんだ…っ
「って…えええええ!?!?」
でも今の自分が眺めているのが本当に実在する昔の自分ということに気がついた時、私は普段なら絶対出さない大声まで思いっきり出しながらびっくり仰天してしまったのです!
「えへへ…どうですか?」
「どうって…!なにこれ…!?」
目の前に起きていることを全く飲み込めていない私に小さい私達のことを抱きしめながら今の感想を聞くクリスちゃん…!
でも私から今言えることなんてせいぜいこれの正体を聞くことしかありませんでした!
まるで今私達の記憶から取り出したような生々しい姿!
子供の頃の私達を完璧にコピーして今私の目の前に現れたこれの正体は!
「これが私の能力なんです。」
「魔界王家」「夢魔」の「ファラオ」。
その「黒木クリス」という少女の能力は「夢」の概念を自由自在に操ることでした!
「すごい…本物みたい…」
なんと表現すればいいのかつい迷ってしまうほど不思議な気分…
まさか大人になった自分が小さい頃の自分達と会えるとは…
今まで生では見たこともない子供の時の自分自身。
でもそれは多分私だけではなく成長という自然な現象の中で生きている普通の人なら皆同じだと思います。
私達は時間と共に成長する生き物ですから。
だから過去はいい思い出になり大切なものだとゆりちゃんはいつもそう言いました。
でも…
「感触も本物みたいにむにむにする…なにこれ…」
さすがにこういう不思議な体験はなかなか…
信じられないと子供の自分とゆりちゃんの頭を撫でてみたりほっぺを触ってみたりする私のことを見てクスッと笑ってしまうクリスちゃん。
私からの触りがくすぐったいのか二人はただ愛らしく笑うだけでした。
か…可愛い…
「不思議…クリスちゃんってこういうのもできるんだ…」
「はい。自分が体験できたことなら完璧に具現化できます。」
「体験?」
っと聞く私に抱えていた子供の私達のことをクリスちゃんは「体験の欠片」と言いました。
とりあえず私も抱っこしてみたいな…
「みもりちゃんも抱っこしてみます?ほら、虹森さん。緑山さん。こちらのお姉ちゃんもギュッとしてあげましょうか。」
っと自分の中から二人のお嬢さん達を解放しながら私に向かわせるクリスちゃん。
彼女はその頃の私達を「虹森さん」「緑山さん」と呼んでいたらしいです。
彼女の話に二人は
「うん!」
彼女達はクリスちゃんから離れて私のところに抱きつかれてきました。
一抱えできるほど抱き心地よく中にちょうどいい感じで入ってくる小柄の少女達。
ポカポカしていい匂いがしてなんかめっちゃ癒やされちゃう…
自分が自分をギュッとして癒やされてるっていうのはちょっと変かなって思ったりするんですが…
「お姉ちゃん♥」
だ…だってこの可愛さですよ…!?ほら…!今私のことを「お姉ちゃん」って呼んでくれたし…!
今のでなんか心がバキューンっとした感じだしよく「可愛いは正義」って言いますからもういいんじゃないかと…!
ど…どうしよう…!
「こちらのお姉ちゃんは大人になった虹森さんなんです。仲良くしてくださいね?」
「え?そうなんですか?」
っときちんと二人に私のことを紹介するクリスちゃん。
彼女の話に二人はきれいな目を輝かせながら
「このお姉ちゃんが私の…」
「みもりちゃんがこんな風に…」
早速私のことに興味を示してきました。
「この小さなみもりちゃんと緑山さんは私の能力「鏡」で具現化した私の思い出の一部です。だから今のみもりちゃんのことを教えてあげても影響はありません。まあ、実際お二人さんのことに出会ったことがないのであくまで昔の自分が習得した情報を再構成して具現化したことに過ぎませんが私にとってはとても大切な子供達なのです。」
っと二人には聞こえないほど小さな声で二人の正体を教えてくれるクリスちゃん。
クリスちゃんは多分この小さな私達に自分達がただの「幻」ということを知らされたくないようだと私は薄く感じました。
「この能力は「夢」そのものの概念を自由自在に操ることができます。
夢の中に潜って相手の気持ちを探ったり操ったり暗示をかけたりするだけではなくこんな風に自分の夢を現実に具現化することも可能ということです。」
「私達がクリスちゃんの夢…?」
「そういうことです。」
私はその言葉になんだか恥ずかしいような嬉しいような気がして思わず今抱きかかえている小さな私達を先よりギュッと抱きしめてしまいました。
触れた皮膚から伝わる確かで温かい体温。
二人の子供達はそんな私のことを不思議そうに見つめていました。
「本当にお姉ちゃんが私…?」
っと未来の自分自身を確かめようと過去の私。
「えへへ…そうみたいね…」
そんな自分のことを不思議な気持ちで見守っている私は素直に自分の存在を小さな私にそう伝えました。
「背も高いし胸も大きい…本当にこんな大人になるんだ…私…しかも巫女様になっちゃって…」
「まあ…これは一種のコスプレというかそういうものだから…」
っと巫女姿の未来の自分を未だに信じられないっという眼差しで数年後の自分を確かめる小さなみもりちゃん。
でも私はそんな小さな自分を見てふと悲しくなってしまったのです。
きっとこの時は何も気にせず思うままに歌って踊ってたんだろう。
そんな自分のことが私は大好きだったしそうやって普通な自分を愛し、大切に思っていた。
普通で特に目立つところがなくても自分の大好きに向かって堂々と歩ける子。
この小さな自分はきっとそういう子でした。
でもこの時から何年後、私は壊れてしまう。
自分にも知らなかった素性に人生そのものが取り込まれて自分の大好きなものすら忘れてしまうダメな人になる。
今過去の自分に映っている今の自分がそういう人だということが私は我慢出来ないほど悲しくなってしまいました。
この時の夢は大切にしなければならなかった自分にとって宝物のようなものだったのになんで失っちゃったんだろう。
守ってあげなければならなかったのに…
大切にしてあげなければならなかったのに…
少し時間が経ってこの子が受ける苦痛のことをよく知っていた私は自分があまりにも可哀想で、申し訳なくてどうしても彼女の目が見られなかったんです。
「あの…」
その時、そんな自分に問いかけられる過去からの質問。
一言に過ぎない単なる子供のなんてことでもない普通な質問でしたが
「私はまだ…アイドルが大好きなんですか…?」
その一言は私の心の目を覚ますのに十分でした。
無邪気で真っすぐだけどどことなく寂しさを感じる質問。
でもその答えを私はたった一秒たりとも迷わずこう答えました。
「うん。大好き。」
っと。
一点の偽りもない自分の本当の気持ち。
その答えが聞けた時、ほっとした笑みで
「そう…でしたね…えへへ…良かった…」
っと喜んでくれた自分のことを私は今も忘れていません。
誰かのために、そして自分のために一生懸命アイドルをやり続けてきた自分。
そして今、とある昔の自分ははるか遠い未来の自分にそんな自分が今も続いていることを確かめて笑っていました。
これが後に私の素性を全部知っているクリスちゃんからの思いやりってことに気づくことができたのはもう少し後のことでしたが
「うん…大好き…」
私はほんのちょっとだけその場で泣いてしまったのです。
一度アイドルという大好きを、夢を失った私にもう一度自分自身と向き合えるチャンスを与えてくれたクリスちゃん。
彼女は今も私のことを、「フェアリーズ」のことを愛してくれていました。
「あ…あの…私からもお聞きしたいことがあるんですが…」
今度は小さなゆりちゃんから質問。
懐かしい~確か子供の時のゆりちゃんはこういう雰囲気でしたね~
しおらしくて大人しくて。
今も世界一で可愛いんですがこの頃のゆりちゃんは特別に可愛かったんですよねー
パンツも盗まないし私が使ったお湯を飲んだりもしなくて割りと大人しかった頃のゆりちゃんー
ちっこくて可愛いー
さて、小さなゆりちゃんは私に何がききたいんでしょうか?
「何かな?ゆりちゃん。」
っと小さなゆりちゃんと視線を合わせて話を聞く準備をする私。
「私…ちゃんとみもりちゃんの子供…産めたんでしょうか…?」
でもその答えにだけはあまりうまく答えてあげられなかったのです。




