第71話
日本の地震のことを聞いてとても心配になりました。どうか皆様何の被害もございませんように願っています。
「それにしても「合唱部」では青葉さんがお手伝いに行くんですね。」
「意外?でも私は普段「神社」や「教会」にお世話になっているから。」
そろそろ「神社」に着く頃、私はふと青葉さん自ら「神社」のお手伝いに行くことに珍しさを表し、彼女は私の気になることにちゃんと答えてくれました。
「私は「神社」からの「祈」や「教会」からの「祝福」がなければ陸地からの生活ができないから。うちのお母さん、昔「神社」の巫女様だったんだ。私が陸地で生きられるように「神社」の方に頼んでくれて。おかげさまで私はデビューできて今こうやって虹森さんと緑山さんに出会ったんだ。」
っと私の手を握って今目の前の出会いに感謝する青葉さん。
彼女のその言葉は私にとって少し重い気もしましたがそれ以上、私は彼女からそう思ってくれるのが嬉しくて嬉しくて仕方がなかったんです。
「ありがとう、二人共。私と仲良くしてくれて。」
「い…いいえ…!私達の方こそ青葉さんとお知り合いになれて光栄です…!」
私とゆりちゃんにお友達になってくれて本当にありがとうって礼を言う青葉さんの言葉は恐れ多くてどんな顔をすればいいのかなって迷うほどでした。
憧れるの人と出会えた上に向こうから先にお友達って言ってくれるのがどうしようもなく嬉しくて…
私はそんな青葉さんのことがいつの間にかもうこんなにも好きになっちゃって…
「青葉さん…いい人なんだ…」
私はそんな彼女のことをふとそう感じるようになってしまったのです。
「でも先輩達もいないのにちゃんと練習してたなんて。感心感心。」
「それほどでも…」
「でもそういう欠かさずコツコツする姿勢が大事ってことだから。そうだよね?緑山さん。」
「ええ。もちろんです。」
「そ…そうかな…」
入ったばかりの新入部員の私が先輩達の不在にも関わらずしっかり練習をこなしていることに感心の気持ちを表する青葉さんとそれに同意するゆりちゃん。
でも結局私が赤城さんとのレッスンができたのはゆりちゃんのおかげだったし青葉さんや他の先輩たちの頼みがあったこそできたことですから自分からはなんにもやらなかった私はと思います。
「そんなことないよ。」
そんな私の消極的な考えを青葉さんは違うって言ってくれました。
「赤城さんは基本人に自分のことを明かさないし人と交わろうともしない。ライブの時以外は同じチームの会長やルルさんとも距離を取っているくらいだから。」
「え…?じゃあ、ライブの練習はどうやって…」
っと聞く私の質問に少し言いづらいって顔でそれについて答えてくれる青葉さん。
その答えを聞いた時、私は赤城さんのもう一つの内側の秘密に触れることができました。
「VRとかで予めに会長が録画した振り付けの映像を使っていつも一人で練習してたんだ。吸血鬼は昼間で生きるには弱点が多いからそういうところも気をつけなきゃっと言ってるんだけど多分嫌だったと思う。」
「嫌って何が…」
信じられないって聞く私に自分なりの赤城さんの気持ちを推測する青葉さん。
でも青葉さんの推測がもろに違ったものでは少しでも思われないほど彼女の言葉は真実味を帯びていました。
「赤城さん、アイドルのこととかあまり楽しそうには見えないから。だから会長達やルルさんには見せたくなくないと思う。アイドルに本気で向き合っている二人にやむを得ずアイドルをやっている自分のことなんてきっと迷惑でしかならないときっとそう思っているだろう。」
真面目で真剣で自分自身に厳しくてその同時に周りのこともちゃんと気にする優しい人。
青葉さんは自分が知っている「赤城奈々」という人はそういう人だとそう話しました。
「赤城さんは自分に対してはとてつもなく厳しい人だから。きっとそれが自分に一番許せなかったことだと思う。」
だから彼女は周りから遠回りしている。そして今は自分自身からも…
そう思った時、私は今まで彼女がその終わりそうもない戦いをたった一人で続けてきたということに心がすごく痛くなってしまいました。
「私、人の顔とかを見ればその人の気持ちとかすぐ分かるんだ。心臓の音とかそういうのまで聞かせたらほぼ間違いなく当てられる。だから赤城さんが言わなくても彼女の気持ちが手につくほど分かる。ああ、この人、本当に苦しんだなって。」
それがなんとかしてあげたかったという青葉さん。
でも青葉さんは彼女の大切な人の代わりにはなれなかったそうです。
「誰より楽しく、幸せに歌える人。そんな人の顔を私は知っているからそうじゃなかった赤城さんのことを私がなんとかしてあげたかった。でもあまりうまくいかなくてね。」
その時の青葉さんの懐かしくて切ない顔は今も忘れてません。
会長や青葉さんのような特別な能力はない私に青葉さんが一体誰を思い描いたのかそれに関する確信はありませんでした。
でも彼女にそういう顔をさせてしまうその人こそ青葉さんの一番大切な人であり多分私をもう一度立て直してくれたあるおっぱいのでっかい人のことだと私はうっすらに感じるようになりました。
「あの人みたいに赤城さんも素敵な顔で歌って欲しかった。中黄さんとも仲直りして欲しかった。でも肝心な私がそういう方法を知らなかったから。うまくいかなかったのも当然なことだよ。」
そう言いながら私とゆりちゃんに赤城さんのことを託して本当に良かったと青葉さんはずっと感謝していました。
「やっぱり私なんかより虹森さんと緑山さんの方が適任者だったよ。二人共、本当に仲良しでアイドルのことも大好きだから。」
青葉さんはきっと会長や寮長さんもそう思ってたからこそ私達に彼女のことを頼んだと確信して私はそれが嬉しくようなちょっぴり荷が重いようなとにかく複雑な気分になりました。
でも誰かの笑顔のために自分が役に立ったというのはやっぱり我慢できないくらい嬉しいものでした。
「いいえ…多分一人で勇気が出なかったと思います…」
皆がいて一緒に赤城さんのことを心配してくれましたから私は勇気を出せました。
赤城さんの話を聞いて自分のことを話しました。
きっと大したことではなかったかも知れませんがこれは皆の思いがあったからこそできた大きな快挙だと私はそう信じています。
だから青葉さん、そんなに自分のことを責めないでください。
「うん。ありがとう。」
っと私からの励ましを素直に受け入れてくれる青葉さんは少し軽くなったような顔をしていました。
「でも人の気持ちが分かるだなんて、すごいですね。会長さんみたいで。」
「それほど大げさなものではないけどな。訓練を受ければ誰にでもできるし。」
っと青葉さんは大したことではないものだと自分の人を見抜く特技のことをそう言いましたが私はとてもすごい能力だと思います。
だって人って相手の心が分からなくて悩んだりする時が多いですから。生き抜くためのスキルの一つという考え方もありかなって。
あー…でもこういう、会長さんの前で言っちゃダメかも…
「うふふっ♥みもりちゃんに限っては私にもできますから♥そういうの♥」
「え?そうなの?」
「はい♥今、ゆりを犯したいと思っているんでしょう?♥もー♥エッチなんですから♥
全然違うわ!
***
「もう昼まで身をおいているのはあなただけですよ。副会長。」
セミナーのための資料のため一度巫女のルビーと共に生徒会室に戻ったなな。
そこでの彼女との会話の内容はななにとってあまり面白いものではなかった。
「日光の昼はあなた達、吸血鬼にとってあまりにも過酷な環境です。既に多くの吸血鬼が元の世界に戻っています。あなたはよく頑張りました。」
「それってつまりわたくしにもう夜に帰れということですの?巫女様。」
少し尖った口調。
だがルビーは彼女のことが心配になるだけであった。
「あなたはもう限界です。この前の健康診断の結果、あまりよくなかったんでしょう?シスターも言いました。もう帰らせた方がよくないかと。」
「それを言うのなら「人魚」の青葉さんの方が遥かに無理していますわ。」
自分とは別の都合で自分に合わない環境に身をおいているうみのことを思い出すなな。
ななは自分の一番のライバルだと思っている彼女のことを彼女自身より気にかけていた。
「海が近いっというわけでもないここの環境は彼女にとって悪影響しか及びません。いくら「神社」の「祈」や「教会」の「祝福」があろうとしてもいずれ限界が訪れてしまう。その時になったらこの環境は彼女のことを壊してしまい…」
「でもそれはあなたも同じです。」
うみへの心配を如実に表しているななの言葉を遮ってしまう巫女のルビー。
彼女はななが言っているうみのこととななのことがそう変わらないということをなな自身に教えてあげたかった。
「今は意地で耐えていても日光の影響を完全に防げる方法はありません。日光は吸血鬼であるあなたの体を蝕んでやがて破壊してしまうのでしょう。あなたの父のように。」
太陽の時間に長引いてしまったせいで二度とベッドの上から起き上がれなくなった元総帥のななの父。
ルビーは彼女には父と同じことにはなって欲しくないという親の気持ちで彼女を元の世界へ送り返そうとした。
「あなたの母が何を考えているのかこちらでは分かりません。でもこれ以上、あなたのことを危険に晒そうとするというのなら私は自分にできる全ての手を尽くして「赤城財閥」を糾弾し、あなたを元の世界へ送ります。もちろん青葉さんにも必ず帰ってもらいます。」
紛れもない本気。
機械の体だが誰よりも温かくて人間味の溢れる彼女の真剣さにななは一瞬言葉を続けられなくなってしまった。
「シスターも同意見です。いや、私よりもっとあなたのことを心配しています。今シスターが不在になったことに感謝するほど。」
長女の「緑玉」の代わりに全アンドロイドの姉役を担っているシスター「青玉」。
彼女には全てのアンドロイドのネットワークの管理職としての権限があり、世界政府に対しても強力な発言権を占めしていた。
彼女は近頃になって本格的にななをもとのところに送るための準備に取り掛かっていた。
「確かに私達は機械である同時に人を殺すために作られた兵器です。戦争の時、私達姉妹はたくさんの人を殺してきました。だからこそあなたのことが放っておけないんです。」
手に触れるだけで崩れてしまう弱さ。
人という存在がいかにも儚くて脆いのか、それを誰より知っている彼女はたとえななから嫌われることになっても彼女には寿命を果たして欲しかった。
「ただでさえ吸血鬼は寿命がそんなに長くないんですから。それほどあなた達は弱くて儚い種族なんです。」
だからこそ自分に向いている世界に戻って生き延びて欲しかった。
百年以上死に損なって生きている自分はまさに呪いの印だったが自然の流れに従って去ることこそ生の美しいだと彼女はそう信じていた。
「そうやってまた「神樹様」の中で巡り合うのが我々の信仰です。だから私は「神樹様」に仕え、その思し召しに自分の全てを捧げています。」
説教がしたいわけではない。
彼女はただななにもっと自分のことを大切にして欲しいだけであった。
「もう終わりにしましょう。向こうには私からちゃんと話しておきます。会長も、理事長も理解してくれるでしょう。」
だから彼女はこれ以上、この世界とのつながりをななに持たせたくなかった。
学校のことも、「Fantasia」のことも、今まで出会ったたくさんの出会いのことも。
そして何より彼女をこの世界に縛り付けている「中黄花奈」という柵も。
だが
「ダメですわ…」
ななはまだ彼女の心配どおりには従えなかった。
「わたくはまだ帰れませんわ…」
震える声。
ルビーから背を向けているななの小さな背中は「帰ってください」という言葉に心底から真の恐怖を感じ、ただ無力に震えているだけであった。
「このまま帰ってしまったら二度とあの人とは会えなくなってしまいますから…」
自分の命を捧げても成し遂げたい約束。
それが守れなくなることこそ自分の真の死だとななは決して日光の時間から離れることはできなかった。
たとえ太陽の日差しがその身を焦がし、焼き払うことになっても。




