第42話
はたらく細胞!とてもおもしろかったです!次の回が楽しみですね!
いつもありがとうございます!
「じゃあ、お気をつけてお帰りくださいね、みもりちゃん。」
「はい。それでは明日部室で。先輩もお気をつけてお帰りください。」
「はい。」
駅の前で別れの挨拶をする私と先輩。何とかぎりぎり終電に間に合ったようです。
普通な挨拶。明日部室で会うことを約束してこの辺で別れることにした私達でしたが実はここに来るまでの先輩からの話は正しくびっくり仰天の連続でした。
「私は未来から来ました。」
そう言われた時は思わず
「え?」
って反応しちゃったんですが本当は私のことをからかっているのかなっと思っちゃいました。
だって先輩って普段
「みもりちゃんー私自作のヨーグルトの味はどうですか。」
「はい!とても美味しいです!甘くないしさっぱりしててすごく優しい味だと思います!」
「そうですかーやっぱり取り立ての天然の素材は一味違いますね。味だけに。なんちゃって。」
「取り立て?」
っとさり気なくちらっと胸の方を見せつけたりする感じで私のことをよくからかっていますから。っていうかなんか周りの人達がどんどんゆりちゃん化しているかも…
「こ…こんな時にまたいたずらですか…?先輩…?」
っと初めては信じられないって戸惑っていた私でしたが
「私はこの時代から約百年の未来から来た「未来人」です。」
私は以前にもまして真剣そうな顔で自分の正体を明かしている先輩にどんどん引きつられて今の疑問を少し延ばしておくことにしました。
先輩が尋常じゃないってことは以前から薄々感じていました。
一緒にいるからこそ感じられる不思議な力。皆のことを何でも受け止めてくれそうな包容力やアイドルに対する情熱と愛情。
私は先輩のそんな温かさがずっと前から大好きでした。
でも…
「私は未来からこの時代に派遣された人間です。」
こんな話…そう簡単には信じられませんよ…
「ごめんなさい、みもりちゃん。急に変なことを言っちゃって。」
「いいえ…」
驚かせてしまってごめんなさいって謝る先輩でしたが今重要なのはそこじゃないので今は良しとしましょう。今はただ先輩の話に集中したいだけです。
とっさの出来事で頭はごちゃごちゃでめっちゃめっちゃで一体何から聞いたらいいのか大分混乱している私を見て
「色々聞きたいと思います。でも私には「ロック」がかかっていますのである程度の話以外は自動的に話が防がれてしまいますので話を始める前にまずそれに対してご了承いただきますね。」
予め自分の発言権の範囲は定められていることを示す先輩でした。
「でも今の私から話せる範囲までの話はちゃんと話すようにしますから。まずは順を追って私がここに来た経緯を話させてもらいますね。」
「あ…はい…お願いします…」
戸惑っている私のためにまずは「この時代」に来るまでの経緯について話そうとする先輩。
でもこんな真剣な先輩…初めてだからどう反応すればいいのか全く…
「まず私の上官は「協会」という名前の人達です。この時代に例えると世界政府と同じ立場の方々です。私は「協会」から派遣された俗に言う俗に言う「スパイ」ってものですが決してこの時代に害を加えるつもりはありません。むしろ私はこの時代の味方です。
未来の皆はこの星のことも、「神樹様」のことも自分達の命より大切にするいい人達ということは私が保証します。もちろんそれは私も同じです。」
「味方…」
私の手を握ってそう言ってくれる先輩に私は一欠片の疑いも持ちませんでした。だって私は心底から先輩のことを信じていますから。
先輩は本当に優しい人でいい人。その事実が私にある限り私は何があっても先輩のことを信じ切るつもりです。
先はちょっと…いや、大分驚いてしまってちょっと戸惑っていましたが私はやっぱり先輩を信じるようにします!
「ありがとうございます。みもりちゃん。みもりちゃんがそう言ってくれて私、本当に嬉しいです。」
ほんのりした笑みで感謝の気持ちを表す先輩。
その笑顔はあまりにもポカポカでふわっとして思わず心を緩めてしまいましたが私は再び心を引き締めて先輩の話に集中するようにしました。
「詳しい話はできませんが私が住んでいた時代は今大事になっています。いくつかの時代から膿んでしまった異なる種族達の間の感情が爆ぜてしまって事態は悪化される一方です。
それを防ぐために私は過去の1断面であるこの時代に送られました。多分私以外にも何人か送られていると「協会」は予測していますがまだこちらから把握していません。同じ「協会」と言ってもその中にも異なる考えを持つ派閥が存在しますから。お互いの目的が一致していても情報の交換などは一切やってないんです。」
っと言っている時の先輩はなぜかすごく悲しそうに見えました。
「協会」ことと今の学校のことを重ねて見てしまったんでしょうか。先輩はなぜかすごく憂鬱な顔で自分の身をおいた2つの状況に心を痛めていました。
「いくつかの条件はありますがこの時代に対する私の行動はほぼ自由です。「協会」の私の上官は「正しいと思うのならそう行動しろ」っと言いました。もちろん人達を扇動したり世界政府に未来のことを伝えたりするのはNGなんですが。だから私は自分が一番正しいと信じている行動するようにしました。」
「も…もしかしてそれって…」
そこまで言った私はいつの間にか先輩が未来人ということを全部飲み込んでいつかかな先輩から聞いた先輩の夢を思い出しました。
かな先輩と廊下の角でぶつかって足を捻った私を背負って部室まで連れて行ってくれたかな先輩。
その先輩から聞いたその夢は簡単そうに見えるけど決して楽ではない険しくて厳しい道程ということをこの学校で生活している間に思い知らされてしまった私はその眼の前の現実にずっと苦しんでいました。
ただ相手よりもっとたくさんの生徒を集めて相手のことを潰すための道具として行われているアイドル。そして苦しんで悲しむたくさんの生徒達。でも無力な私はその状況の中から何もできませんでした。
私は臆病で弱虫だから。いつもゆりちゃんの後ろに隠れて舞台にも上がらず皆のことを羨ましく見ているだけだから。私はそんな自分がとても嫌でした。
でも先輩は違いました。自分が信じている道を迷わず真っ直ぐに歩いていた。どんなに苦しんで泣いても逃げたり、諦めたりはしなかった。
自分にできる最善の選択、そして自分にできる最善を尽くそうと何度も自分を奮い立たせた先輩のその夢は今のその胸の中から熱く…
「どうしたんですか?みもりちゃん。そんなに私の胸をじーっと見て。あ!もしかしてミルクタイム?甘えん坊さんですねーみもりちゃんって。ちょっと待ってください。今出しますから。」
熱く…っていうか止めんか!!
うう…なんか調子狂いな…いつもこういう落ちですね、先輩って…最後までやりきれないっていうか…まあ、そういうところがまた可愛いって感じたりしますが今はそういうところじゃないですからちょっとぐらいは遠慮して欲しいです…
でも驚きました…未来の危機とか自分の目で見たわけではありませんがその深刻性だけは私も分かります。だって多分今の学校のことを見ている気分と同じはずだと思いますから。
傷つける皆、傷つく皆。そしてその道具で扱われる私の大好きなアイドル。先輩が見てきた未来の危機は多分それと似通ったものでしょう。
「でもまさかそれを解決するためのものがアイドルだったとは…」
無茶っていうかとにかく世界の存亡がかかったことにまさかのアイドルなんて…!
前から思ったんですが先輩って以外にそういうところあるんですよね…!
そう驚いているところの私を見て
「でもやっぱり私はこれしかないと思います。私のこの皆と仲良くなりたいって気持ちを歌で皆に届けられたらきっと何か変わると思いますから。こういう私もただアイドルを道具にしか思ってないかも知れませんけどね。」
っと寂しく笑ってしまう先輩。でも先輩のその表情を見た時、私はなんだか心がズキッとしました。
「でもいいんですか…?こういう大事な話、私なんかに言っても…」
不安な口調で先輩にそう聞く私でしたが自分にもこれがどれほどの失礼な質問なのかよく分かっています。
きっと先輩は私のことを信じて今の自分に話せるものは全部話してくれたんでしょう。私のことを心の底から信頼しているから自分の秘密を全部話してくれたんでしょう。
でも私は気づかないうちについこう思ってしまうのです。本当に私は先輩の秘密を知っても大丈夫な人なのかっと。出会ってから日も浅い私なんかに先輩の秘密を聞く資格はあるのかっと。
だって私は弱いから…先輩の力になってあげたいって勢いで来たけどこうしている間にも私は先輩に何を言ってあげたら言いのかすら分からないから…
結局私はどうしようもないポンコツで役立たずだから私なんかにその資格はないっと…
「本当に…私なんかに…」
急にこみ上げてきた涙に泣き始めた私の行動に
「ど…どうしたんでか!?みもりちゃん!?どこか痛いところでも…!?」
慌ててどこか具合でも悪くなったのか何度も聞いてくれる優しい先輩。でも私の涙は止む気配もなくずっとずっと流れ落ちました。
「私…先輩の力になりたいのに…先輩に笑顔にいて欲しくて頑張ってここまで来たのに…いつも…いつも助けられているくせに何もできなくて…ごめんなさい…ごめんなさい…」
悲しい。あまりにも自分が情けなくてもう惨めさすら感じてしまう。やっぱり御祖母様のおっしゃった通りだった。
私は普通だから。取り柄もない普通でダメな子だからこのきれいで優しい先輩の力にはなれなかった。色んなことを一人で抱え込んで頑張って苦しんでいた先輩の何の役にも立てなかった。
救いのない大バカ。出来損ない。臆病者。ちゃんと伝えようと決めたのに…先輩の笑顔のために頑張ろうと決めたのに私は…
「みもりちゃん。」
その時、私のことを抱え込んだのはいつか私のことをギュッと抱いて私のかこにとらわれていた傷を癒やしてくれた先輩の大きな胸でした。
いつの間にか私の傍に寄り添って自分の情けさを恨んで悔しんでいた私を抱きついて頭を撫でてくれる先輩。
私の涙に服が濡れていくのも気にせず私をギュッとした先輩は
「そう思ってくれるみもりちゃんだからこそ聞いて欲しいです。」
いつものような穏やかで温かい声で私の心をなだめてくれました。
「みもりちゃんは全然情けないとかではありません。むしろ今まで何も言わなかった私が悪いです。」
「そ…そんなこと…ないです…」
泣いている私をなんとか慰めてあげたいっという先輩の努力にも関わらず中々止まない涙。
でもその後の先輩の話は私の止む気配もない涙を一瞬で吹き飛ばすほど先のことよりもっと衝撃的なものでした。
「私はみもりちゃんにずっと感謝しています。」
「え…?」
先輩の桃色の髪の毛の中からちらっと見える先輩の顔。それは困っていることでもない、悲しんでいることでもないいつも私達を元気づけるひたすらの優しさでした。
「前にセシリアちゃんがこう言いました。セシリアちゃんには私の考えが見えないって。多分それは私がセシリアちゃんが思っているより高次元の存在からでしょう。それが原因で私は皆から遠ざけられているんです。」
「高次元の存在…」
その言葉の意味が一体何なのか今の私には分かりません。私にとって先輩は先輩だけですから。
泣いている私を全力で慰めたり、こうやって落ち着くまで抱きついてくれたりするいつもの優しい先輩のままです。
自分のことをいつも「マミー」って呼んだりお料理が上手であり得ない大きさのおっぱいを持った世話好きのおせっかいさん。
でも決して嫌じゃない私の大好きな人。先輩がいくら私達の常識から外れている人だとしても私にとって先輩はいつもの先輩と変わりはありませんでした。
だけど先輩はなぜか自分の存在を少し難しく思っているように見えました。
「でもこんな私でも楽しい思い出はいっぱいあります。かなちゃんと一緒に皆の前で歌ったこと、セシリアちゃんやすみれちゃんとのこと。ゆうなちゃんのセクハラもそんなに嫌じゃなかったんです。」
いや…そこはもうちょっと嫌がってもいいですから…っと思った私でしたが先輩はその全ての思い出を自分の宝物にして心の引き出しの中に大切にしまっておいていました。
それがどれほど先輩を支えてくれたか今の先輩の顔を見れば十分分かる私はそう思いました。
「そしてみもりちゃんとゆりちゃんが同好会に来てくれたことも。」
っと私の鼻先を指でくすぐったる先輩。
これはもう完全に赤ちゃん扱いじゃん!って心の中で思いっきり叫んだ私でしたが先輩のその行動はなんだかほんのりした懐かしい匂いがしたのでしばらくこのままにしようとしちゃいました。
「あの頃も私にとって大切な宝物でした。」
そう言った先輩から見せた一枚の写真を見たその瞬間、私は自分の中から一つのピースが合わせられたような気分を感じてしまいました。
「本当に…楽しかったんです。」
蘇る懐かしい記憶。振り向いただけで涙が出そうなその大切で切ない思い出を先輩は今も自分の中にずっとずっとしまっておいていました。
そうやって写真の中に止まっている時間を語り始めることにした先輩。その時の先輩の瞳の中には悲しみの欠片もないただの懐かしさだけがいっぱい詰まっていました。




