第13話
いつもありがとうございます!
「私は「中黄花奈」!かなと呼んでね!」
「「緑山百合」と申します。
以後お見知りおきを。」
ちょうど帰ってきたかな先輩とも挨拶を交わして、本気でこの同好会に関わることになったゆりちゃん。
どうやらこの同好会のことを自分の目で確かめておきたいと思って、わざわざ付き合ってくれたと思いますが、私だってもう子供じゃないですからそこまで心配しなくてもいいのにー…
「良かった。どうやらみもりちゃんにちょっかいを出しそうな悪い虫はいないようですね。」
ただの敵情視察でした。
でも思ったよりゆりちゃんが先輩たちにすぐ懐くようになったのはちょっと珍しいかもです。
ゆりちゃんはあの「緑山」家のお嬢様で、すごくプライドが高くて、あまり自分が認めた人ではない限り、軽々しく懐いたりはしませんからそれがちょっと心配だったんです。
でも思ったより自然と先輩たちと話し合ってるし、仲良さそうだから安心しました。
「これからみもりちゃんの世話をしてくれる先輩たちですから。
仲良くしておいて損はないでしょう。」
っと私だけにこっそりそう言ったゆりちゃんですが、私は多分ゆりちゃんだって先輩たちの明るい空気に引き連れられたと思います。
だって先輩たちに一緒にいると、もうこんなに楽しくなっちゃいますから。
ゆりちゃんだってきっと私と同じ気持ちだと、長い時間を共にしてきた幼馴染である私にはなんとなく分かるような気がします。
「検査の方はどうでしたか?かなちゃん。」
「バッチリ!全然問題ないよ。」
っと最終日の検査の結果を聞く先輩に、特に異常は見つからなかったということを教えるかな先輩。
かな先輩、あまり自分が能力者であることが好きじゃないって先輩はそう言いましたが、今のところ、特に変な様子はない。
元気で明るいいつもの先輩で、それに思わずほっとしてしまう。
特に先輩の方から自分が能力者であることを隠しているわけでもないって聞きましたし、私はこのまま、いつも通りにかな先輩に触れるつもりです。
もちろんかな先輩の能力者についても聞き出す気はありません。
私はやっぱりいつもの元気で、親しみやすいかな先輩の方が好きですから。
「じゃあ、緑山さんは「ユリユリ」だね?これからよろしく!」
「あら、素敵♥」
っとあのゆりちゃんのことを初対面であだ名で呼ぶことにしたかな先輩。
今までゆりちゃんのことをあだ名で呼ぶ人がなかった分、その呼び方は実に新鮮で、ゆりちゃんもすごく気に入ってましたが、
「ぴったりすぎる…」
私はその絶妙なネーミングセンスにしばらく返す言葉すら忘れてしまったのです。
「それにしてもさすがかなちゃんです。会ったばかりのゆりちゃんともうこんなに仲良くなっちゃうだなんて。」
「え?ミラミラだって同じじゃんー」
「私の方こそ先輩方が親しくしてくださって助かりましたから。」
「ゆりちゃん、礼儀正しいですねー」
「いい子だよ、本当に。」
っとゆりちゃんのことをすごく気に入ってくれる先輩たちでしたが、最初にゆりちゃんが私についていくって言い出した時はさすがにちょっと焦っちゃいました。
先も言ったんですが、ゆりちゃんって割と人を選ぶ基準が高くて、条件を満たさないとあまり相手しない癖があって、私はそれがずっと心配でした。
ぶっちゃけ、その基準ってやらが私に合わされているから、それは相当なハードルなのでしょう。
もちろん私と仲良くしてくれる先輩たちのことならきっとゆりちゃんも気に入ると信じていましたが、たまに予想がつかない突飛な行動をしたりする子ですから。
おじさんとおばさんはゆりちゃんのそういう悪い癖をちゃんと直しておきなさい言いましたが、まだそれが直ってないみたいで…
でも、
「みもりちゃんとは子供の頃からずっと一緒で、私はみもりちゃんの花嫁として将来みもりちゃんの子供を生む約束をしてー…」
「へぇーそうなんだ。」
「仲良しさんです。」
ああやって先輩たちと自然と話し合って、笑っているゆりちゃんのことを見るとやっぱりほっとすろというかー…
って今、なんの話をしてるの?
その後、先輩たちは私とゆりちゃんのための小さな歓迎会を開いてくれて、私とゆりちゃんは先輩たちが用意してくれたお菓子と持ってきた紅茶を飲みながらいっぱいおしゃべりしました。
ゆりちゃんは特に先輩たちから私のことを褒める時には、
「そうなんです!みもりちゃんは世界一で可愛い私の自慢の花婿さんなんです!」
っと鼻が高くなって、それはもはや天狗になるほどご機嫌だったのです。
もちろん私は恥ずかしくて死にそうでしたが、
「でもゆりちゃんが喜んでるから…」
私は久々のゆりちゃんの満面の笑みに今はこれでいいや、そう思ってしまったのです。
「はい♥みもりちゃん♥ゆりちゃんのパンツで入れた「パンティー」です♥
召し上がれ♥」
「絶対いや!」
っといつものゆりちゃんの得意な下ネタも先輩たちはいっぱい笑ってくれて、私たちはとても楽しい時間を過ごすことができました。
「あれ?その腕章は…」
でもゆりちゃんの生徒会の赤い腕章をかな先輩の目についた時、
「ユリユリはまだ1年なのに頑張ってるね。偉い偉い。」
かな先輩はそう言いながら少し寂しそうな笑みを浮かべて、自分の気持ちをはぐらかしてしまったのです。
「みもりちゃん。突然なんですが、今日、私がどんな下着を履いたのは見たくありませんか?」
「本当に突然なんだね!」
っと止める暇もなくスカートをたくし上げるゆりちゃん。
レースにフリルのいっぱいついている紫色の派手な下着が先輩たちに見られた時はさすがに焦っちゃいましたが、それがゆりちゃんなりの気遣いであることに気づいたのは、もう少し時間が経った後でした。
「でもモリモリまで手伝ってくれるとは思わなかったよ。
そんなつもりでミラミラに友達になって欲しかったわけではなかったのに。」
「い…いいえ。私だって先輩たちと同好会のことが好きですから…」
「そう?ありがとうー」
っと同好会のために体験入部という形でお手伝いするようになった私に、改めてお礼を言うかな先輩。
先輩はこれからもよろしくと、私とゆりちゃんのことを心から歓迎してくれました。
同好会をもっと盛り上げたいという気持ちはかな先輩だって同じで、私は先輩たちと同好会のために、今の自分にできる精一杯をやることを心から誓ったのです。
そして私たちのための短い歓迎会が終わって、
「それじゃ、今日の予定をご紹介しますね。」
早速、今日の部活動について私達に説明しようとする先輩。
いよいよ始まった高校での初めての部活に私は胸がドキドキして、今でも爆発しそうでした。
そして私と同じ気持ちで今日の活動に対する期待感を表していた先輩が自信満々と私達に見せたのは、
「今日はなんとチラシ配りなのです!」
この同好会のことを皆に知ってもらうために作った手作りのチラシだったのです。
「うわぁ…!なんですか?このチラシ!もしかして手作り?可愛いです!」
「本当です。すごく可愛い。」
今時珍しい手作りのチラシ。
技術の発展で誰もがパソコンで簡単に仕事をこなしているこの時代で、まさか色鉛筆とパステルでイラストを書き、字を書いた手作りのチラシが見られるとは。
可愛い鳥さんたちが一緒に楽しく歌っている、見るだけで心がポカポカする親しみの溢れるイラスト。
小学校の図工の時間とかで作ったはずの珍しいアイテムが私達の前に飛び出た時、私は懐かしさの一方、先輩の温かい感性に心が和んでいくような気がしました。
「これ、もしかして先輩が?」
「えへへー」
簡単で便利な生活の中で忘れかけていた粗削りでもどこか懐かしい素朴な感性。
それを再び呼び覚ましてくれるような心のいっぱい込められている手作りのチラシ。
先輩はこの間の幼稚園で行った奉仕活動の時、子供たちと一緒に作った宣伝用のチラシだと言ってくれました。
「皆が手伝ってくれた同好会の宣伝用のチラシです。
うまくできたとは思ってましたが、こんなに喜んでもらえたらますます自身ができちゃいますね。」
っとお母さんに褒められた子供みたいに喜んでいる先輩。
体はこんなに大きのに、見れば見るほど本当に子供みたいに純粋な人なんですね、この先輩って。
鮮やかなパステルトーンのイラスト。
鳥さんが大好きな私にはぴったりな先輩の作った宣伝用のチラシにはこの同好会がいかに楽しいのか、それを知ってもらうための短くても、印象的なキャッチコピーが大きな字で書かれていました。
「皆で仲良く、楽しく好きなアイドルをやりましょう!」
その一言が含んでいる意味がどれだけ大きくて、偉大なものか。
私は自分の大好きに向かってひたむきに、そして素直になれる先輩のことを心から尊敬しながら、密かに羨んでしまったのです。
先輩のその素敵な夢が叶えるために、自分も一役買いたい。力になりたい。
そう決意した私のこの同好会での初めての活動は、
「これを校門で皆に分けてあげるのは、今日の部活です。」
実に久しぶりにやることになったチラシ配りでした。
大分昔、子供の時にやってみたことがありますが、それはもう思い出せないほど昔の記憶で、うまくやれるのかどうか、正直に言ってあまり自身がありません。
でも自分で先輩たちの、同好会の力になると決めてたから、私は全力で自分のすべてを出し切るつもりです。
もちろんこれもゆりちゃんが傍にいてから出せる勇気ですが、これには一つ問題があって、
「でもゆりちゃんは大丈夫?見つかったら怒られたりするんじゃ…」
それは生徒会のゆりちゃんがこの同好会の肩を持つとまずいってことでした。
それについて、私はもちろん、先輩たちも、特に副会長の赤城さんと何らかの因縁を持っているかな先輩はゆりちゃんのことを心配してましたが、
「大丈夫です。私はみもりちゃんの傍でみもりちゃんの可愛いお尻を見ているつもりすから。」
ゆりちゃんは配るのはあくまで私だけで、自分は私の幼馴染として同行する予定だからなんの問題もないってー…
って今、なんて?
「それじゃ、これを飲んだら参りましょうか。
行けそうです?みもりちゃん。」
っと私のことを気にしてくれる優しい先輩。
確かに胸はドキドキのワクワクですごく緊張していますが、
「だ…大丈夫です!任せてください…!」
それでも私はこの小さくても偉大な一歩を全力で踏み出す準備ができていました。
「そうですか。なら良かったです。」
そんな私にほんのりした優しい笑顔を向けてくれた先輩は、
「頑張りましょう、皆さん。」
私の手をギュッと握って、私を外の世界に連れて行ってくれたのです。
「が…頑張ろう…!」
取り合った先輩の手。
意外と体温が高い先輩の手から伝わってくるぐっとした温かさに勇気をもらった私は何度も自分の心を奮い立たせて、新たな世界へ、大切なものを取り戻すために一歩を踏み出したのです。




