第14話
もう500人以上の方々が楽しんでくれました!本当にありがとうございます!
いつもありがとうございます!
「ああ…」
昨日のチラシ配りは思ったより結構順調でした。
人も少なくてあまり知られてはいない同好会ですが、先輩たちは皆、知る人ぞ知るとびきりの美少女で、特に学校の有名人であるかな先輩の方は大盛況だったんです。
元々この学校だけではなく、外の生徒達の間で話題になるほど有名な人で、普通にファンクラブとかができるほど人気もあって、かな先輩の方のチラシはあっという間に切れるようになったのです。
「ありがとう!ライブの時もよろしくね!」
っとライブのことも忘れずに細かく同好会の広報までするかな先輩。
見れば見るほど頼もしい人だと、心からそう思う時でした。
それに比べて先輩と、特に私は結構苦戦した感じだったと思います。
「よろしくお願いします!」
皆に同好会のことを知ってもらう大きな声でチラシを配っていた先輩。
でも先輩のチラシを受け取ってくれる人は誰一人いなかったのです。
かな先輩から聞いた皆から避けられるという先輩の話。
皆は先輩から妙な違和感みたいなものを感じて、できるだけかかわらないように距離を置いている。
その漠然な恐れに近い感覚の正体を感じる人も、感じさせる先輩も知らない。
ただなんとなく気まずくて、怖いって感じだと、かな先輩はいつか他の子から聞いたことがあると私にそう言ってくれました。
クラスでも浮いている存在。
首席の音楽特待生という人にしてはあまりにも距離を置かれている可哀想な先輩。
私にはどうして先輩が皆にそう思われているのか分かりません。
先輩はとても優しくて、純粋で、心温かい人ですし、私はすっかり先輩のことが好きになって、自分が大好きな先輩が皆にあんな風に思われるのがすごく悲しかったです。
ちょっと不思議で、住む世界が違うっていう感じはありますが、先輩はいつも真剣にアイドルと私たちと向き合おうとしている真面目な人ですから。
だから私は同好会のことだけではなく、先輩のこともちゃんと分かって欲しいなと、心からそう思ってしまったのです。
それでも先輩はめげずに、一人でも同好会のことを知ってもらうために精一杯声を出してチラシを配り続けていたのです。
誰ももらってくれなのに、諦めずにチラシを配るを先輩を見て、私は本当に強い人だと思ってしまいました。
そしてそんな先輩の気持ちが届いたのか、
「桃坂さん、私、一枚もらえるかな。」
「はい!もちろんです!」
同じ音楽科の先輩たちが先輩の方に寄ってきて先輩から何枚かチラシを取っていきました。
たとえ多く配ることはできませんでしたが、
「ありがとうございます!」
先輩は本当に嬉しかったと思います。
私の方は…まあ…
「あ…」
一言で言うと全然ダメダメって感じでした…
最初に意気込んでいたのは良かったです。
でも、知らない人に声を掛けるというハードルが今の自分にはあまりにも高くて…
「あ…こ…これ…」
いざ声をかけようとすると、なにか喉に詰まったように声が出でこなくなって、結局自分から一枚も配れないまま、高校初の部活は幕を閉じるようになりました。
もし変な子だと思われたらどうしよう、怖い先輩ならどうしようって考えで頭がいっぱいになって一歩も動けなかった私。
勝手に早合点しちゃって自分が自分を縛り付けている。
頭では分かっていてもダメなのはダメだったのです。
ちょうど同じクラスのクラスメイトたちが通り過ぎていて、ゆりちゃんの後ろに隠れてなんとか3枚くらいは配ることはできましたが、それはあくまでゆりちゃんの協力があってからこそできたもので、自分から勇気を出したわけではありませんから、結局自分の意志で配ったのはゼロ。
つまり私は見守るだけだって言ったゆりちゃんより全然役に立てなかったポンコツということです…
ゆりちゃんは、
「大丈夫ですよ、みもりちゃん。
チラシ配りなんてほぼ十年ぶりですし、無理することはありませんから。」
って慰めて、
「そうですよ、みもりちゃん。
いきなり慣れないことをさせてしまって私の方こそごめんなさい。」
「最初は皆そういうもんなんだから元気出して、モリモリ。」
先輩たちも一生懸命私のことをフォローしてくれましたが、私、立ち上がるまで少し時間がかかりそうです…
「大変だね…誰かを助けるのって…」
無力な自分。
心だけが先走ってしまって、むしろ先輩たちに迷惑をかけてしまったかもしれないと思うと、ますます自分のことを不甲斐ないと感じてしまう。
先輩たちの力になりたいという気持ちはこんなに大きいのに、その気持ちに自分の心と体がついていけないのがこんなにも自分を惨めに感じさせてしまうとは…
この心を押し付ける自分への失望感…私、前にも感じたこととかあるかも…
その時でした。
「朝から暗いね、虹森さん。
ため息をつくと幸せが逃げちゃうかもしれないよ?」
机の上に俯いていじけている私にかけられてきた可愛い女の子の声。
私のことを名字の「虹森」さんと呼ぶその声にびっくりして顔を上げて、その声を確かめた瞬間、
「おはよう!虹森さん。」
「ご機嫌よう、虹森さん。」
二人の可愛い女の子が私の顔を見つめて元気よく挨拶をしてくれたのです。
褐色のお肌と黒いショートカットが健康的で魅力的な陸上部所属の魔界生まれの「野田歩子」さん。
そして隣にいる色白の金髪碧眼の美少女があのアパレル業界の大手企業である神界の「前原グループ」の次女、「前原栞」さん。
生まれた世界は違っても私とゆりちゃんのようにいつも一緒にいるクラス一番の仲良しの二人が、同じクラスになってから初めて私に声をかけてくれたのです。
「お…おはよう…!野田さん、前原さん…!」
ゆりちゃん以外に子とあまり話したことがない自分にとって人気者の二人から越えをかけられたことはそれだけでびっくりするほどすごいことで、実際、私は自分がちゃんと二人に挨拶できたかすら覚えてないほど慌てていました。
それでも二人は、
「うん!おはよう!」
「おはようございます。」
こんな私のことを笑うことなく、笑顔で私の挨拶に応えてくれたのです。
二人が私に声をかけた理由についてはよく知っています。
「アイドル?虹森さんが?」
「あら、素敵です。」
だって二人は昨日、唯一私から渡したチラシを受け取ってくれた人ですから。
ゆりちゃんの背中に隠れておどおどしながらチラシを渡す私のことを笑ったり、バカにしたりすることなく受け取ってくれた野田さんと前原さん。
私は二人にお礼を言わなかったことに気づいて、
「き…昨日はありがとう…!チラシ、受け取ってくれて…!」
この際、ちゃんとありがとうって言わなきゃとなんとか勇気を出してお礼を伝えましたが、
「お礼を言われるくらいではないから気にしないで!」
「ええ、そうですよ、虹森さん。」
二人は特に大したことは何もしなかったと、むしろよく頑張りましたと、私のことを称えてくれたのです。
「チラシ見たよ。なんだか楽しい部活っぽくていい感じだった。
後、あの3年生の先輩のおっぱいがめっちゃ大きかった。」
「そうですね。」
っと先輩のでっかいおっぱいと共に同好会のことを知ってくれた二人の言葉に、私は早速宣伝の効果が出てきたような気がしたのです。
二人はアイドルにあまり詳しい方ではありませんでしたが、そのチラシを見て同好会に興味ができて私に色んなことを聞いてくれて、私は一人でも先輩たちを知ってもらうために二人に頑張って同好会の楽しさと先輩たちのことを話しました。
そして私の話を真剣に聞いて発表会のライブのことを楽しみにすると約束してくれる二人のことに、私はちゃんと同好会の役に立っている気がして、もう少し自分に自身を持つことができました。
でも二人が興味を持つようになったのはただ同好会や先輩たちのことだけではありませんでした。
「でも私はちょっと安心したかな。虹森さんだってちゃんと学校生活を楽しんでいるみたいで。」
「そうですね。実は私もそう思いました。」
二人は同好会に入ることで、皆みたいにやっと青春を謳歌するようになった私のことにほっとしていました。
「だって虹森さん、すごく気になっていたもん。」
ゆりちゃんがいないといつも一人だった私のことがずっと心配だったという野田さん。
野田さんといつも一緒にいる前原さんも、いつもそわそわしている私のことがずっと気になっていたと、初めて率直な話をしてくれたのです。
「虹森さん、あまり皆と話をしようとしませんでしたから。
もしかして私たち、なにか悪いことでもして嫌われているのかなってちょっと心配してました。」
「あ…ごめんなさい…別にそういうんじゃなくて…」
去年以来、ゆりちゃん以外の一人にあまり話をかけられなくなった自分は気づかないうちに皆を気まずくさせてしまった。
それにはちゃんと謝りたいと思った私に、二人は謝ることはないと、むしろ嫌われているのではなくて良かったと、ありのままの私を受け入れてくれました。
それから私たちはホームルームまでいっぱいおしゃべりをしました。
野田さんと前原さんは、
「虹森さんって思ったよりおしゃべり好きなんだね。」
「これからはもっと話し合いましょうね。」
って新しく見つけた私の一面に驚きながら、
「よかったらこれからも仲良くしてくれる?」
「私たち、虹森さんとお友達になりたいです。」
私と友達になりたいって言ってくれて、私は恥ずかしがりながらも、
「わ…私も二人と…なりたいよ、友達…」
ちゃんと自分の気持ちを続けることができました。
ゆりちゃん以外の初めてのお友達。
空に舞い上がる嬉しくなった自分は、生徒会室からゆりちゃんが戻ったら絶対話してあげようと、心を決めたのです。
「でもまさか虹森さんがアイドル同好会に入るって思わなかったよ。
もしかしてアイドル希望なの?」
「虹森さん、黒髪もサラサラでお人形さんみたいに可愛いですからね。」
「ないない…!私、ただのお手伝いだから…!」
っとアイドルになる気はないと否定する私に、
「え?なんで?もったいないじゃん。」
「本当です。絶対似合うと思いましたのに。」
二人はすごく残念がりましたが、今の自分にアイドルに挑戦するのはハードルが高すぎますから。
変な期待される前に、ここはちゃんと話して置くべきだと思う私に、
「そう?でも虹森さんの活躍も期待してるから頑張ってね。」
「ファイトです、虹森さん。」
野田さんと前原さんはたとえアイドルではなくてもこれからも応援すると、胸いっぱいの勇気を吹き込んでくれたのです。
ちょっとした勇気でもうこんなに早く自分の日常が変わっていく。
私はあの時、ゆりちゃんや先輩たちを信じて前に一歩踏み出して良かったって、自分のことをもう少し誇らしく思うようになりました。
後でゆりちゃんにちゃんとありがとうって言わなきゃー…
***
「みもりちゃん。みもりちゃんってば。」
「…え?」
っと気がついた時、私はいつの間にか外でゆりちゃんとお昼ごはんを食べていました。
あっという間に過ぎてしまった時間に戸惑っている自分に、
「もうー…私がいるというのに朝からずっとこんな調子なんですね。」
カモさんみたいに尖らせた口になってすねるゆりちゃん。
確か先まで教室だったのに、私はいつの間にか外に出て生徒会室から戻ったゆりちゃんとお弁当を食べている。
まるでタイムワープでもしたような感覚に、私はゆりちゃんに今の自分の状態をなんと説明すればいいのか困惑していましたが、それだけ私が野田さんと前原さんのことで浮ついていたということです。
ゆりちゃんにあまり気を使ってあげなかったのはすごく悪いって思うのですが、私はやっぱり野田さんと前原さんとお友達になって、二人が同好会のことや先輩たちのことに興味持ってくれたのが嬉しくて仕方がなかったのです。
「そんなに嬉しかったんですか。本当可愛いんですから。」
「えへへ…そう見えるのかな…」
っと照れくさく笑う私のことが愛しくてどうしようもないという愛情に満ちたゆりちゃんの透き通った青い目。
私は子供の頃からずっと私のことを見守ってくれたゆりちゃんのこの目を心から愛していました。
「喜ぶのも結構ですけど、今は大好きなあなたのゆりとの食事に集中したらどうですか。
はい、あーんです。」
「あ、うん…あーん…」
っと今はゆりちゃんとの食事に集中することを約束した私の口の中に朝作った卵焼きを入れてくれるゆりちゃん。
ふわふわな舌触りとちょうどいい塩加減。
定番といえば定番かもしれませんが、私はゆりちゃんのこのシンプルで愛情がいっぱい込められた卵焼きが子供の頃からずっと好きでした。
「忙しいのにお弁当まで作ってもらってなんかごめんね、ゆりちゃん。」
「いいえ。みもりちゃんが美味しく食べてくれればそれでいいですから。」
っとこれぐらいなんともないと、むしろ私に美味しく食べてもらうことが自分の喜びだと、私に言ってくれるゆりちゃん。
中学校までは私が作ってやったんですが、高校になってからはなぜかゆりちゃんがやるようになったお弁当作り。
高校に入って前よりずっと忙しくなったはずなのに私のお弁当作りだけは欠かせないゆりちゃんに、私は毎日感謝と同時に申し訳ないという思いをしています。
それでもゆりちゃんはただ美味しく食べてくれればいいって、それ以外、何も求めませんでした。
「少し早起きすればいいだけのことです。
朝の鍛錬の前にやっている日課ですから、みもりちゃんは気にしなくてもいいです。
はい、あーん。」
「あーん。」
「いい食べっぷり♥」
もう一つ私の口の中に卵焼きを入れてくれるゆりちゃん。
食べる時の自分の顔なんてあまり見る機会がないから、自分がどんな顔をするのかよく分かりませんが、
「みもりちゃんって本当に幸せそう食べますね。」
どうやら私は自分が思っているより、ずっと幸福に満ちた顔でご飯を食べているようです。
子供の頃からずっと食べてきたゆりちゃんの卵焼き。
他のお料理もすごく美味しいですが、私の一押しは断然この卵焼きかも。
遠足の時にも、運動会の時にも必ず作ってくれるし、どんなに食べても全然飽きませんから。
何度も真似しようとしてみたんですが、自分ではどうにもこんな味にはならなくて。
なにか特別な調理法でもあるのか何度も聞いたことはありますが、
「本当に知りたいですか♥」
っと目に変なハートを浮かべて、即スカートを捲ろうとするゆりちゃんを見て、結局私はネタを調べることを止めてしまったのです。
「あの子達、食べさせっこしているわ。」
「あら、可愛い。」
でもやっぱり高校生になって食べさせ合いはちょっと恥ずかしいかも…
「そういえば昨日はどうだったの?ゆりちゃん。」
っと昨日のことを聞く私の言葉に、
「そうですねー」
少し記憶を巻き戻して、改めて昨日のことを思い出すゆりちゃん。
まもなく、ゆりちゃんが私に言ってくれた昨日への感想は、
「本当に素敵でしたね、先輩たち。」
だったのです。
昨日のチラシ配りが終わった後、再び先輩たちの練習にお邪魔することになった私。
でも今度はなんとゆりちゃんも一緒で、私はゆりちゃんにも先輩たちの歌を聞かせてあげられることが嬉しすぎてすごくウキウキしていました。
空き教室での二人しかない小さなライブ。
衣装も、それっぽい機材もない、ジャージーのままの先輩たちでしたが、そのライブは空き教室の寂しい空気を一気にふっとばして、鮮やかにするほど素敵だったのです。
元気な歌声と可愛い振り付け、何より歌うことを心から楽しんでいる先輩たちの元気で弾ける笑顔。
その全ては私たちを魅了し、心を撃ち抜いて感動の渦潮を巻き起こしました。
そして私はまた見ることができました。
「すごい…」
遠い昔、あるご当地のアイドルのステージを見て、感動して言葉に詰まって、それでもなお、輝きに憧れてしまう栗色の髪を持った可愛い女の子を。
いつも自分で私のこと以外は興味ないと言ったゆりちゃん。
でもそんなゆりちゃんにもちゃんと好きなことある。
ゆりちゃんはただ私のことに関しては自分自身とも妥協しないほど厳しいだけで、本当は普通の女の子と変わらないほどアイドルが好きなんです。
だからあの時、
「私はみもりちゃんにアイドルになって欲しいです。」
あのちっこいゆりちゃんは私にそう言ってたのでしょう。
でもゆりちゃんが楽しかったのは、ただ好きなアイドルが見られただけではありませんでした。
「でも私が本当に楽しかったのは、またみもりちゃんの笑顔が見られたからです。」
奪われていた笑顔。
もう見られないと思ったその笑顔が先輩たちの歌でまた見られるようになった時、ゆりちゃんは心から本当の幸せを感じるようになったと、私にそう言いました。
「砕けそうな儚い笑顔。
でもそれが私にどれほど大切で大事なものか。
私はそれを取り戻してくれた先輩たちに心から感謝しています。」
だからこれから全力で先輩たちと同好会のことをサポートする。
私にそう言ったくれたゆりちゃんは、
「だからこれからもいっぱい笑ってくださいね。
私の大切なみもりちゃん。」
そっと私の手を握って、一緒に前に進むことを約束してくれたのです。
取り合った手からぐっと伝わる強い意志。
これだけで今のゆりちゃんが先輩たちに、あの同好会に感じている感謝がどれだけ大きいのか、こんな私でも分かりそうな気がする。
そしてそれはきっと自分も同じ気持ちだと、
「うん。大好きだよ、ゆりちゃん。」
私はこれからも一緒に頑張ることを、今のゆりちゃんのように約束しました。
支えてくれてありがとう。
私に勇気をくれてありがとう、ゆりちゃん。
私は何度もゆりちゃんに、そうお礼を言って、
「じゃあ、みもりちゃんの唾液まみれのこのお箸、私がいただいてもいいってことですよね?♥」
「あ…うん…どうぞ…」
「うめぇー♥みもりちゃんの唾液、うめぇー♥」
私が使っていたお箸を嬉しそうな顔で舐め尽くしているゆりちゃんをただ見ているだけでした…




