モテモテ8
「づがれだぁ~」
自室に入ると制服のままベッドに倒れこんだ。
帰りにファブリーズ、ミンティア、お菓子を買い。母ちゃんにアイロンを頼んだ。
今日はモテ道への第一歩だったんだが、思ったよりうまくいかないもんだ。
もっとあっさりラブコメみたいにいくと思ったら、作戦会議、爽やかになる練習、結構ハードな一日だった。
それと、なんと言っても俺の作り笑いがやばかった。たぶん寿命縮んだ。
よく脅されただけで「寿命一年は縮んだ」みたいな奴いるけど、そんな訳ないだろと俺は言いたい。
だから俺はリアルに二日という数字を選んだ。
そんなことより今日一日でやはりモテるのは大変だと痛感した。
飾霧がモテ男にしてあげるとか言って始まったけど、やつがいると体力よりも精神力を削られるから厄介だ。
あれで性格がよければ最高だったのに、可愛いやつって難点があるイメージだったけど、まさにその通りだった。
漫画やラノベと同じだわ。
何はともあれ飾霧と普通に話せたのはよかった。
女に免疫力が皆無な俺が、あんな美女と普通に話せるなんておかしなこともあるもんだ。
まぁ、美女は美女でも中身は最低だからな。
にしても、飾霧は目の保養にはうってつけ。あのスレンダーでいて出るところは出ている身体、そしてニーハイからの絶対領域。
そう考えると俺は案外ラッキーボーイなのかもしれない。ポジティブに考えよう。
明日からはNEW俺の清潔感溢れる爽やかパワーで女達をメロメロにしてやるわ。ふがー。ふがー。
「……興奮してきた」
しょうがないからティッシュに、ヒャウィゴー!
ーーーー
「よーし!」
翌日、教室の前で気合を入れ直していた。
昨日アイロンをかけてもらった制服にファブリーズを吹き付け、ググった着方でビシッと制服を着こなした。そして切ったばかりの爪が輝く手の平にミンティアを二粒出し、それを口に放り込み噛み締める。
準備は整った。さー、このドアを開けたらスタートだ。よし頑張れ俺。負けるな俺。いざ参る。
「おっ!」
「あ、ごめんね。気付かなくて」
俺が勢いよく扉を開ける前に、向こう側から他の生徒に開けられてしまった。いきなり出鼻を挫かれたぜ。
しかもよく見たら女子じゃねぇか……いやよく見なくてもわかるんだけどね。にしてもいきなりハードルが高いな。
ーーでも、ここは勇気を出していくしかない。
「き、気にしないでくれよ。それよりおはよう」
「う、うん。おはよー。じゃあまたね」
「ま、また」
あー。緊張したけど挨拶できてよかった。またねとか言われちゃった。いいな。またねって……。
これもう爽やかボーイの称号は頂いたも同然だな。このまま皆に挨拶をしまくるぞ。教室の中に入ると、すぐ近くに女子三人組を発見。
いつもの俺なら何も言わずにスルーだが、俺は変わったんだ。昔の俺だと思うなよ。
「やぁ。おはよう」
「おはー」「おはよう」「おはよー」
なんだこの感じ、味わったことがないぞ。皆笑顔じゃないか、実は俺の知らないところでモテているのかもしれない。これは行けるぞ。
次はあそこの四人組だな。クラスの中心的な存在のギャルグループ。ここをクリアすればゴールは目前だ。
勇気を出してスマイルだ。スマイル。全力のスマイルで挨拶しよう。
「おはーー」
「「「「きゃああああああ」」」」
一人の悲鳴がきっかけになり、全員がジェットコースターに乗った時のような悲鳴と表情してるんだが、意味が分からんぞ? 聞いてみるか。
「あのーー」
「ち、近寄らないで、人殺し」
俺の声を遮り、犯人扱い。聞き覚えがある言葉。
……あっ、俺の作り笑いは狂気だったんだ。調子が良すぎてすっかり忘れてたぜ。
ーーどどどどどうしよう。まずは謝罪からの一礼だな。
「す、すいませんでした!」
「う、うん。もういいから、近寄らないで」
「……わかった。それじゃ」
四人の怯えた目と言葉で俺のガラスのハートは粉砕したのだった。
生気がなくなり身体中から力が抜けた。俯いたままぶらぶらと手を揺らしながら席まで向かった。
席に着くと、机の上にだらんと突っ伏したままぶつぶつと呟き始めた。
「……近寄らないで……近寄らないで……近寄らないで……」
「直。おはよう」
「……ぅ……涼太か」
ゆっくりと顔を上げたそこには、太陽みたいに眩しいイケメンがいた。
「なんかやけにテンション低いな。昨日とは別人だな」
「ほっとけ」
「まぁ、元気出せって焼きそばパン奢ってやるからよ」
「ほんとか!」
集いし願いが新たに輝く星となる! 光差す道となれ! シンクロ召喚! 飛翔せよ、焼きそばパンッ!
涼太の言葉で瞳がキラキラと輝く、生気が戻り希望の光が灯る。
「ああ、嘘はつかない。知ってるだろ」
「そうだな。今日の昼は楽しみだぜ」