モテモテ50
涼太は再び話し始めた。
「イジメは止まることを知らず、徐々に悪化していった。ある日の昼休み。教室から逃げようとした俺はクラスの男子に捕まり、袋叩きにされていた。そんな時。直。お前がそいつらに向かって「だっせー」って言ったんだ。--覚えてるか?」
「ーーあったなそんなこと。確か……」
「だっせー」
俺は五人のモブに向かってそう言った。
「なんか言ったか」
「おい。文句あんのかよ」
二人のモブが騒ぐので言ってやった。
「だっせーって言ったんだよ。イケメンのこいつに嫉妬してイジメるのが、だっせーってな」
「はー? なに決めつけてんだ」
「うぜー」
「きっも」
粋がる三人のモブに向かって、
「おめぇーらわかってんだろ。自分がこいつより下で、自分たちがモブってことを理解してるから、妬んでいじめなんかするんだろ」
「意味わかんねー」
「なに言ってんのこいつ」
二人のモブが指を差して笑ってくるので、思い切り机を叩いた。
「いいから聞けよ! おめぇーらは間違ってんだよ。いくらこいつがイケメンでモテるからって言っても、八つ当たりはよくない。こいつだって好きでイケメンになったわけでも、モテたかったわけでもないんだからな。そもそも、イジメとかそんな無駄なことするぐらいなら、こいつを研究して、努力して、モテるようになった方が百倍有意義で、利口な筈だろ」
「何言ってんの? マジで意味わかんねー」
「ほんとだな」
「さっさと失せろよ」
叫くモブに向かって、
「そんな事してたらいつまで経ってもモブのままだぞ。イジメなんてモブをよしとしてる奴しかやらないんだからな。このまま永遠にモブがいいってんなら止めないけど、生まれた以上。こいつみたいな主人公になってみたいだろ。努力もしないで諦めるにはまだ早いだろ。俺はモブのままなんてごめんだね。こいつから全てを吸収して、こいつを超える主人公になって、モテモテライフを送るんだ。そんでてめぇーらはどうすんだよ!」
燃えたぎるような熱き魂をぶつけた。でもモブは、
「もううぜーから外行こうぜ」
「そうだな」
「行こう行こう」
「だっせー」
「マジでキモかったな」
そう言い残し、教室から出て行った。俺は吐き捨てるように、
「最後までモブみたいなセリフ吐きやがって」
モブの行った方を見ていると涼太が立ち上がり礼を言ってきた。
「ありがとう」
「いいって。それよりお前も主人公ならもっと頑張れよな」
「よくわからないけど、頑張ってみる」
その時。初めて涼太は笑った。
そうだ、これを気に涼太と仲良くなったんだ。
「覚えてるけど、まだ信じられないな」
主人公クラスのこいつが、俺に憧れてるなんてどうしても信じられなかった。
「まぁ、あれは始まりに過ぎなかった」
「始まりってなんだよ」
涼太はどこか楽しそうに口を綻ばせる。
「あれからお前といる事がかなり増えて思った。直には凄まじい向上心があるってな。お前はいつもその向上心を胸に生きてきた」
「そんなものが俺に……」
特に心当たりがないので、眉間に皺を寄せ考えてしまう。
「ああ、ほとんど空回りだったけどな。後は、基本モテる為の努力だった」
そう言って何故かハニカム涼太。
「そ、それが憧れとどう関係するんだよ!」
爽やかスマイルに動揺していると、
「わかるだろ。どんなにモテなくても諦めず向上心を持って頑張る直に、俺は憧れたんだ。俺も何か必死に努力したいって思ったんだよ」
今のは全て偽りでは無く、真実だと物語っているような真っ直ぐな視線。茶化す事など出来ずにただ頷く。
「そうだったのか。でもお前は元から勉強も運動もできたし、モテたじゃねぇか」
「確かに、直の言う通りだ。でも、その他の事で頑張ろうと思った。お前はさっき自分がお人好しじゃないって言ったけど、それは間違ってる」
「何言っんだ。俺は自分の為にしか動かない」
「いや、俺は今まで一緒に居たからわかる。ある時はお婆さんの荷物を持ち。ある時は財布を交番に届け。ある時は道を案内し。ある時は迷子を助け。直は知らない間に色んな人を助けているんだ」
「……それは全部モテるために」
そうだ。何処で女子が見てるか分からない。常に良い人を演じる必要があった。ただそれだけの事だ。
「見苦しいな。直は無意識のうちに誰でも助けてしまう。そんなお前を超えるために、俺も困ってる人はいないか探したり。元からできる勉強も、運動だってした」
「俺を超えるって、既におめぇわ超えてるだろ」
こいつはさっきから何を言ってるんだ? 俺の方がお前を超えようと、常にもがいていた。なのにお前はどうして、そんなにも闘志を秘めた瞳で俺を見るんだ。
「確かに。でもこれは努力の結果だ。直に会えて、いつしか親友にまでなって、お前というライバルがいたからこそ、ここまでこれた」
「俺がお前のライバルだって? ははは、そんな馬鹿な」
流石に失笑せずにはいられなかった。
「それが直の悪い癖だ。自分を低く見過ぎている」
涼太はそこで区切ってから、優しい表情で口を開いた。
「直。お前は、俺にとっての主人公なんだよ」
その力強い言葉が、胸に突き刺さる。だが、
「ーー俺が主人公なわけあるかよ。主人公ってのはお前みたいなやつのことを言うんだ!」
今までの人生を振り返ると、その言葉がどうしても信用出来なかった。
「考えてもみろ。直はいつも男子の中心で、そこそこ頭も良くって、そこそこスポーツもできて、何より優しい男だ」
「そこそこ多いな! やっぱりお前が主人公だろ」
良くも悪くも、やっぱり普通って事じゃねぇか。
上げて落とされ、憂鬱な気分になっていると、
「そこそこでも十分凄いだろ。だってお前、モテる以外はそこまで努力してないだろ」
「た、確かに……」
核心を突かれすぎて、納得するしかなかった。考えてみると、モテる為以外どうでもいいと考えていた俺は、その他の事は何もしていなかった。ここ最近は飾霧と共に少しは、他の方にも目を向けていた気がするが、それもこれも全てモテる為だ。
涼太は自信に裏付けされたような雰囲気で、
「俺は直に負けないように努力してきたからここまでこれた」
間違いなく主人公そのもの。これが、努力の結果か。
神々しい姿を見て、俺はゆっくりと口を開いた。
「そうか、わかったよ。お前の気持ちは。疑って悪かったな」
「いいよ。わかってもらえたなら」
津賀涼太は、やはり俺の唯一無二の親友だった。その親友があれだけ言ってくれたんだ。俺も本気を出すしか無いな。
「今までの話を聞いた結果。要するに俺とお前のどちらが主人公に相応しいか勝負ってことだよな」
「まぁ、簡単に言えばそうだな」
「てことは、どっちがモテるか勝負ってことだな」
「違うと思うぞ」
冷静にツッコまれたので、咳払いを一つ。
「ーー兎に角ライバルなんだ。負ける訳にはいかねぇな」
「俺も負ける気はない」
今日まで親友だった男が、俺のライバルになった瞬間である。




