モテモテ41
二時間が過ぎた辺りで飾霧からの着信があった。電話には出ず急いで美容院に戻ると二人の姿が見える。だが一人は別人になっていた。
髪の長さはそのままなのに重い感じが一切なくなり、毛先にはゆるふわのパーマがかかっていた。
前髪はさっぱりとしていて、顔がはっきりと見える。大きな瞳、小さく整った鼻、薄い唇、タレ目が特徴的。
その美人に近い顔立ちは、飾霧とは違うタイプ。日本人独特の優しさみたいなものを感じる。
あれ? なんか違和感が……
「……あっ! 眼鏡は?」
自分で言っといてなんだけど、第一声がこれとかないわ。
「……私。ほんとは目、悪くなくて……恥ずかしくて掛けていただけなんです」
まだ自信がないのか、俯き気味で喋る黒笠が可愛い。
「そうなんだ。それにしても見違えたよ! 俺の目に狂いはなかった」
まさか、俺に光る原石を見つける才能があったとはな。
「そ、そんなことないです……」
「茶番は後にしなさい。次はその性格を直すわよ」
話に割って入る飾霧の口調はハッキリとしていた。
「直すって、どうやるんだよ?」
「いいから私に任せなさい。さっさと行くわよ」
自信満々な表情で自分の胸に手を当てた。そして、どこかに向かって歩き出した。
「どこに?」
「貴方の家に決まっているわ」
飾霧は立ち止まり、当然とでも言いたげな顔で俺に視線を向ける。
「なんでだよ⁉」
「この子がこのままでいいのかしら?」
「そうは言ってない。どうして俺の家なんだ?」
「近いからよ」
無表情のまま即答されたので、やや怯む。一歩後ずさりしながらも、
「ーーなんで知ってるんだよ」
「私はなんでも知ってるわ」
「怖ぇーわ」
なんでも知ってるのかよ! 俺って、いつになったらモテるんだろう? 今度聞いてみよう。
「あの、私はこれだけでも満足なので……」
俺達のやり取りを聞いていたのか、黒笠が申し訳なさそうに入ってきた。
「無理よ。今の性格のままだとイジメは続く。それに、可愛くなった分恰好の的だわ」
「……それは……それで、仕方ないです……」
飾霧に冷たい視線を浴びせられ、黒笠は俯き気味でボソボソと呟く。
「いじめられて仕方ないなんて事、あるわけがねぇ」
その言葉に俺は飾霧よりも早く食いつき、顔を顰めつつ噛み締めるように言った。
咄嗟に黒笠が頭を下げる。
「ごめんなさい……」
「いや、俺こそごめん……」
小刻みに震える黒笠に、後頭部を掻きながらばつが悪そうに謝る。
二人して気まずい雰囲気に包まれていると、
「貴方も偶にはいいこと言うのね」
淡々と褒める飾霧に、怪訝な様子の俺は口を開く。
「そりゃあ俺だって偶には言うわ」
「それで、貴方の家に行くの? 行かないの?」
「わかった。来い」
もうやけくそでそう言った。どうせ断っても時間の無駄だろうからな。
「早くついて来なさい」
そう言い歩き出す飾霧の後を二人してひょこひょこついて行く。
それにしてもおかしいよな。俺ん家に行くのに、俺が後をついて行くってどんな状況だよ。
五分ちょっとで家に着いた。飾霧は本当に俺の家を知っていた。あそこからのショートカットまで知ってるとは恐れ入った。
来た事は愚か、教えてすらいない俺の家をどうして知っていたのかは、怖いから聞かないことにした。
俺の家は二階建てのどこにでもありそうな一軒家だ。鍵を開け中へと案内。
「まぁ、入ってくれよ」
「失礼するわ」
「お邪魔します」
専業主婦の母ちゃんが居るのは必然だと思ったが、外出してるらしい。少しだけ安心した俺は二階奥にある自室へと案内するが、キュッと部屋の前で立ち止まった。
完全に忘れていた。アレとかアレを片付けないといけない。じゃないと何かが終わる気がする。
「ちょっと待ってろ。片付けるから」
「私は気にしないのだけれど」
「私もです」
飾霧と黒笠はそう言ったが、気にするのは俺だからね。
「いいから少し待ってくれ」
二人の意見など無視して、一人で部屋に入り鍵を閉めた。バタバタと片付けること五分。まだ心配ではあるが、これ以上待たすのも悪いと思い。ゆっくりとドアを開けた。
「待たせたな」
「私を待たせるなんて百億年早いわ」
俺は飾霧を、未来永劫待たせてはいけないらしい。
「失礼します」
二人が部屋に入ると、飾霧が不思議そうな表情で辺りを見回す。
「意外と綺麗なのね。狭いけど」
「狭いけどが余計だ」
魔王の心は今日も荒れていた。
「本当、綺麗です」
「ありがとう」
普通に褒めてくれる。普通の心を持っている黒笠は可愛い。
「それじゃあ適当に座ってくれ」
「失礼するわ」
「……失礼します」
女子を部屋に入れるのは初めてだが、魔王が居るせいかそこまでドキドキしない。なんか複雑な気分だ。
魔王は当然のように、一つしかないドンキで買ったお気に入りの椅子に座りやがった。
優しい心の持ち主である黒笠はカーペットの上の座布団に座った。俺が用意した座布団は一つ余ったが、仕方ない。
すっと伸びた脚を優雅に組んだ飾霧が口を開く。
「早速だけど始めるわよ。作戦名は、黒笠雫大人の色気で全校生徒の好感度あげちゃおう」
「ほんと、それ好きなんですね」
好きすぎだろ。それと色気とか嫌な予感しかしないな。
「別に」
「……どう言った、感じなのでしょう」
黒笠が恐る恐る尋ねると、淡々と答えた。
「まずはその無駄に大きい二つの脂肪の塊をみんなに見せつけるのよ」
「ーーそそそそ、そんなの無理です!」
俺がツッコミを入れる前に胸を押さえながら黒笠が即答した。それに続かんとばかりに俺も言う。
「お前は鬼畜か」
「お前?」
「お前様は鬼畜か」
ギロッと睨まれたので様は付けたが、鬼畜は譲れない。
「鬼畜よ。無理でもやるの」
すぐに認めるこの女は正に鉄人。
「そんな……」
黒笠から絶望と言う名のオーラが滲み出ている。そんなの気にも留めない飾霧は悠長に話し始める。
「月曜日からワイシャツのボタンを三つ開けて登校よ。それとスカートも短くしなさい。まずは男子を味方につけるのよ」
「それって逆効果なんじゃ」
男はついても女が全く付いてこない気がする。イジメがエスカレートするのが目に見えている。
「そ、そんなの無理です。……恥ずかしいです」
正論。
「黙りなさい。私は絶対なの。さあ、黒笠雫。やりなさい。それで少しは性格も変わるわ」
「……」
飾霧の無茶ぶりがすごい! さっきまでは抵抗していた黒笠も流石に黙ってしまった。
「やらないとどうなるか、わかる?」
白い目で見下し、威圧する飾霧に俺はたまらず口を挟む。
「脅してんじゃねぇよ」
「奴隷は黙りなさい」
凄い剣幕で睨まれ謎の奴隷扱い。それで蹴落とされる俺じゃない。
「まだ、奴隷じゃないんだが」
「黙りなさい。いずれ奴隷」
「なんだよ。それ」
俺はいずれ奴隷になるらしい。てことはモテるのも時間の問題ってわけだ。やったー!
--ってなるか!
「黒笠雫。早くして」
「わ、わかりました」
俺から黒笠に標的をシフトチェンジして凍てつく瞳で煽ると、諦めたのか黒笠がボタンを外し始めた。
「わかっちゃダメだから」
「でも……」
俺が慌てて止めると、黒笠が手を止め俯いた。
「いいからやりなさい!」
「はい!」
飾霧の一言で、黒笠はびくっと驚き背筋を伸ばしつつ返事をし、さっき言われたことをやり始めた。
ボタンを外し、スカートを折る。
俺にはもう止めることができず、ただただ、見ないようにと目を背けている。
--とでも思ったか。俺はこの目に焼き付けるぞ! このチャンス、逃すものか!
その下卑た心を読まれたのか、心がないはずの奴が、俺に向かって近づいてきた。
とても嫌な予感がすると思ったら案の定だった。目を布のようなもので縛られ、ついでに両腕も縛られそのまま放置された。
俺だって抵抗しようとしたさ、だけども関節がキマっていて無理だった。まさか武術も嗜んでいたとはな。
なので、今は絶賛生殺しプレイ中である。




