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これからどーする

 ぐだぐだと話し込み、夜もだいぶ更けたところで体力の限界を迎え、そのまま意識を手放した昨夜。

 おかげで、起きたのは日もすっかり昇ったころだった。

 人の体の上で寝ていたハヅキを引っぺがして起こし、地面に刺しっぱなしだったスフィアを拾ってから、野営の片づけを始めた。


「しかし……昨日あれだけ話し込んだのに、大事なことを話し忘れたな……」

「え、まだ聞かなきゃいけないことあった?」

「いや……これからの事何も決めてないなって……」

「あ」



 片付けも終わって、街道の側。

 近くにあった石に座り込んで考える。


「とりあえず現状を確認すると、最初の目的通りちょーつよい剣を手に入れることに成功しました、はい拍手」

「言葉の端々から本心だだ洩れてるわよ」

「使えたものじゃないからな! 特に体力の補正効かないのが!」

 心の底から嘆いた。

「まあだからと言って最強格なのは違いないし、使わないなんて気も当然ないし。故に、俺たちはこいつ頼りに旅に挑むしかない。ので、こいつとどう向き合うかを行動の指針にしようと思う」

「わー、私中心ー、特別待遇ー」

「問題児側のなぁ!」

 この呑気にしゃべっている問題児。こいつが速さ、体力、防御のパラメータを一桁にしやがるからこんなことを考えなきゃいけないんだ。


「いくら強くても俺の体力を5にされたらお前なんてよく切れるなまくらでしかないんだよ……!」

「落ち着いてガイア意味わからないから!?」

「じゃあハヅキにはこいつをなまくらじゃなくちゃんと使いこなす妙案があるんだな!?」

「何がじゃあ、なの!? 本当に落ち着いて!?」

 うっかりテンション上がって意味不明なノリで切れてしまった。

 深呼吸して気分を落ち着ける。


「ふぅぅー……まあだが実際だハヅキ、お前はどうすればいいと思う? この欠陥」

「え? えーっと……まず、欠陥って言うのは……体力とかが強制初期値で、しかも装備で補えない。高い魔力は実質飾りで、よく切れる剣としてしか使えない?」

 腰の辺りから「むー……?」と小さく唸り声が聞こえた。が。

「その通り。実際魔法や魔剣錬成がどれくらい使えるのかはこれから試していくが……魔力の持ち腐れなのは確実だし、出来るならどうにかしていきたい」

 何もツッコむところはなかったのでスルーした。ハヅキも何も気にした様子はなく続ける。


「じゃあ、体力を上げるしか……でも装備の加護は消されちゃうし……走り込む?」

「効果が無いとは言わないが、値が10上がる前に世界が滅ぶな」

「でしょうね……うーん……無理じゃないの? 諦めて使っていくしかないんじゃ?」

「半分正解だ……実際、割とどうにもならない。デメリットに目をつぶってうまく運用するのが一つ」

「質問の答えになってるような、なってないような……半分ってことはガイアには何かあるのよね? あ、魔石を使うとか?」

「あ、魔石もあったな。腕輪の加護消えてた流れで、なんとなく使えないものと思っていたが」

 そういえば、加護は消えていたが、上昇した腕輪の能力値とか、魔石の吸収機能はどうなっているのだろうか。MPの保存機能が生きていれば、大技に備えて魔力を貯蓄することも出来るかもしれない。


「まあ吸収できなくても、元々魔石自体に魔力は含まれていて、加護吸い取るときにおまけで吸収できてただけだからな。大量の魔石か、魔力量の多い魔石でも見つけるか、そんな感じで外部から魔力を持ってくる、電池作戦なら、ここぞという時に大技が使えるな」

「作戦の名前がちょっとひどいと思うけど」

「気のせいだ。俺はミョルディアのMPポーションとかを想定してたが、そうだよな、魔石でもどうにかなるか……見つかれば」

「最後の一言で嫌な予感しかしないわね」

「あのゴーレムの時が特別だからな。普通の魔物はそんなに魔石も持っていないし、魔力もそんなに高くない。つまりこのバカ重い消費に耐えうるだけの量となると、な?」

「……そりゃ、諦めて我慢していくって選択肢が出るわけね」

「もう一個、俺が思いついていた策があるが……そっちもな」

「どんなの?」

「称号集めだ」

「称号……〈幼女の守り手〉?」

「だからそれだけじゃないしこれから新しいのを取ろうって話をしているわけでな……!?」

「で、じゃあつまりどういうこと?」

 もはや称号=幼女の守り手だったり、俺=幼女の守り手のような認識をされている節があるが、本来称号ってのはあんなのじゃないんだ。かなりの特殊例なんだよあれが……!


「まずだ、称号を調べるために教会でパラメータが見れるって話だったろ?」

「どういうものだか分からないけど、加護が確かめれるんだっけ」

「ああ、パラメータは大体しか分からない物だが、称号は俺の腕輪みたいに、神からの賞賛付きで文字に起こされるんだ。あの文章を見たら、何となくは獲得条件が分かる感じだっただろ?」

「〈幼女の守り手〉は意味不明だったけどね。ガイアが超ロリコンだったから?」

「まず俺はロリコンじゃないと何度言えば、そしてロリコン関係ないからな……! まあそれで、誰がどんな称号を取って、どんな条件だったかっていうのが、その確認のシステム上、神官や野次馬に周知される訳だ。冒険者も知られて困るものでもないし、むしろ称号持ちと自慢できるからと、いっそのこと、教会の方で称号についてのリストが作られてるんだ。今確認されてる称号、条件、取得者が載っている」

「へぇ、そんな感じなのね称号って。じゃあ思ってたより称号いっぱいあるのかしら?」

「そこそこあるな。この世界の神が授ける物だから、基本は世界に貢献するような事をすると手に入るみたいだ。大量の魔物を討伐したとか、街を守ったとか、橋を架けた、なんてのもあるんだったか。その他に、ダンジョンの踏破、秘境到達、レアアイテムの獲得とか、偉業の達成も評価されるみたいだな」

「……で、何やったら〈幼女の守護者〉なんて貰うことになるの? 偉業……?」

「神に聞け……!」

「どうやってよ……あ、それで、称号が今の状況にどう関係するの?」

「え、ああ、ツッコミで頭から飛んだがパラメータの話だったな。俺の今持っている二つにも、スキル獲得とか、消費軽減とか特典付いてるだろ? 中にはシンプルに力上昇とか、パラメータが上がる称号もあってな」

「あ、なるほどね。体力の上がる特典付きの称号を取れば、装備品に頼らずパラメータが上がると」

「そういう事だ。踏破とか、橋を架けるなんてのは真似できないが、例えば、ゴブリンを千体討伐するとかなら、やろうと思えば出来るじゃん? そういう称号を恩恵の為に獲得を目指す冒険者も多い。彼らに倣い、俺も称号獲得を目指す……というのが三つ目の案だ」

「この案は結構良さそうに聞こえたわね。シンプルにガイアの弱点補えるもの」

「欠点は、当然簡単じゃないし面倒で時間が掛かる」

「……結局そういうオチが待ってるのね」

「そんなほいほい達成できる条件に、神様が恩恵くれる訳も無いだろう……」



 パン、と手を鳴らし、さて、と仕切りなおす。

「今言った三つが大方針だ。大きく分けると、デメリットを解消に走るか放置するか、という話だな」

「そりゃ、解消できるなら解消した方がいいんでしょうけど……」

「そうだな……電池作戦は、まず言った通り魔石は入手しづらいし、ポーションも買える状況じゃないし。そもそもこいつの消費に見合うだけの魔力量となると、どんなものを用意すればいいのか、と言った所だな。一応、前周の記憶辿れば何かしらの候補は出せると思うが……まあスフィア引っこ抜くくらいの労力は覚悟した方が良いか」

「なるべくやりたくないわね……称号の方は?」

「称号の方は、時間と面倒がとても大きいな……恩恵は小さくないと思うが、当然のように魔剣獲得みたいな活躍を求められるからな……」

「…………やっぱり諦めるしかないのかしら……」

「デメリットを無視した時は、一番のメリットは時間を有効に使えるっていう事。スフィアの力で前行かなかった道を好きに探索できる。デメリットは事故ると即死する。そして大変事故る確率が高い」

 ふぅ……と、俺とハヅキがついたため息と共に静寂が訪れる。

 十秒ほどの沈黙を置いて。


「ほらちゃんとしっかり状況説明してみたぞハヅキ、どうするか決めてくれていいんだよ……!」

「ちょっと毎回私に無茶振りするのやめてよ!?」

「じゃあ俺が適当に考えて一人で決めるがそれでいいんだな文句無いな!? 俺ですらしたくないが!」

「絶対大惨事なの自分でも分かってるじゃないの!?」

 ふ、と何かを思い出したようにハヅキは視線を下げ、

「そういえばスフィア放置してるけど、スフィアには聞いてみないの?」

「聞く意味が、きっと無い」

「むー……人の事欠陥とか好き勝手言ってー……無視してー……その上その扱いは何なのかなー……」

「じゃあ聞くが、スフィア、お前はこの先どう動くべきだと思う」

「そうだねー……魔族によく喧嘩売ってきたトカゲ共でもボコりに行こー? だいじょーぶー、私がいればあんな奴ら滅亡させてみせ……」

「はい、この話終了ー! 終わり!」

 物騒な提案ごと途中で話をぶった切った。


「当然欠陥なんてあるとも思ってないんだからスルー一択の上に、魔族最優先思考でこういう事しか言わないだろうと思ってたよ……!」

「あー……うん、そうね、聞く必要なかったわね。答えが決まり切ってるって意味で……」

「一応候補として受け取っておいてやるからもうちょっと大人しくしてて貰おうか……!?」

「ぅむぅー……! まあー、私はガイアの物だからー、別に好きにしてくれていいけどーっ」

 ……どうやら、かなり拗ねさせてしまったみたいだ。

 こんな物騒な子に機嫌損ねられると、何されるか分かったものじゃないし、後で機嫌を取らないとまずいかもしれない……

 その為にも、せっかく話から追い出したのだから、まずはさっさと方針を決定してしまわないと。

 しまわないといけないのだが。


「……さて、結局どうしたものか……ハヅキはどれがいい、別にそれに決めたりはしないから」

「え、えー……称号獲得かしら。やっぱり今のままって危険な気しかしないし」

「そう来るか……いや、俺はいっそスルーを推そうかと思ってな」

「だ、大丈夫なのそれで……まあ確かにスフィアはすごいけど」

「……駄目かもしれないんだよなぁ……」

「そんな自信持ちきれてないならやっぱり称号獲得したほうがまだいいんじゃないの……!?」

「そうは言ってもだハヅキ、その称号集めだってこのパラメータでやるんだからな」

「……ううん……具体的には何するの?」

「そうだな……体力となると確か……霊峰ペルディロンド登頂とかだったか」

「霊峰、って言うのは……」

「ああ、あれだ」

 立ち上がり、背を向けていた方向に指を指す。


 そこには、ここから十分距離があるだろうに、ハッキリと、存在を主張する巨大な山が見えた。その頂上は、雲に隠れてよく見えず、人が登るような山ではないと誰もが思うだろう。


「アリア入手の時に登らされたクソ高く、アホみたいな登山難易度の山だ。神殿ちょっと超えた辺りが山頂で前回はせっかくだからついでに登頂してきた。体力+50。運が悪いとワイバーンやドラゴンも出るぞ」

「いや登れるのそんなの!?」

「一回登った知識もあるし、出来なくもないが……登山に一番必要な体力がな……」

「体力を伸ばすために体力が必要な山に挑むの……」

「称号の獲得は、まあそんな感じだと思ってくれ」

「どう転んでも大変なのね……」

「世界救う旅が簡単な訳が無い……ああ、うん、そうだったな……簡単な訳がなかったな」

「自分で言って自分でへこまないでよ……ちなみに、パラメータ無視するんだったら何目標にするの?」

「む、そうだな……」

 スフィアの事で頭がいっぱいだったが、気にせず使っていくとなると、今すべき事は……


「前回は人間の国ばかり巡ることになったから、他の種族……竜の国とか、獣種族の大陸とか、エルフの里辺りのどこかを目指すのが目的になるかな」

「町とか巡るのが目的なら、確かにパラメータは重要じゃないかもね」

「であればうれしいんだがな……」

「ああ……やっぱり問題があるのね……」

「行く所によっても色々違うから詳細は省くが……人族と仲悪い所とか、踏み入った冒険者が帰って来ないとか、前周戦争吹っ掛けてきたとことか、そもそも場所も分からないところとか、そういうところばかりだな。道中も、場所によっては安全が全然確保されてない道もあるらしいし、どうせ行けば事件に出会うだろうし……力と技だけで突破できるかは、悩ましいな」

「悩ましいって言うか、基本したくないわよ……一応、いけるとは思っているのね?」

「ただ力押しだけでもかなり戦えはするからな。ただ、魔法の使用が厳しいから……汎用性の無さ故に、少し特殊な状況になっただけで対応力が無くなる」

「微妙なところね……」

「その他の目標としては、水魔法と火魔法が使えそうな触媒探しとか……後は、ヴェアヴァルフの件が少し気になるのもあるか」

「え? あの狼?」

「前回は俺たちが討伐に当たったからな……発見とか対処が早いから何とかなるとは思ってるが、それでもちょっと気にはなるな」

 討伐自体は成功するだろうが、兵士たちにも被害は出るだろうしな。そういえばノルグリッドの奴は俺について来てないってことは、ヴェアヴァルフ討伐に行くのだろうか。あいつまでいるんなら何とかなるか……むしろ、いるんだったら鉢合わせなんてしたくないから絶対行きたくないぞ。


「まあ知ってる脅威より把握できてない事件探しに動いた方がいいだろうし、行かなくていいとは思うな。あえてメリットを上げれば……アーディアと和解しに行けるかもってとこか?」

「ただ捕まるだけなんじゃ……」

「……こちらの出方次第でなんとか……」

「つまり無理でしょ?」

「決めつけは良くないんじゃないかな……!」

 これまでの対応全てが、絶対もっとこじれるだけだと物語っていた。



「で、色々説明したがどうよハヅキ」

「どうもこうも……もっとまともな選択肢はないの?」

「こいつを手に入れた時点で、そんな選択肢は無くなったんだ」

 良くも悪くも、スフィアを持って普通の旅は、俺には出来無い。

「結局何をするにも、かなりのリスクが付きまとっているのが再確認できただけだったな」

「自分から突っ込みに行ってるだけよね?」

「突っ込む先がそこしかなかったんだ、仕方ないな」

「はぁ……それで、どうしようかしらね……どれも結構嫌よ?」

「……前にもこんな事があったな?」

 前、戦力強化と言い出した旅の始め。

 あの時も選択肢三つ全部が嫌でまとまらなかった。


「…………あのね、ガイア? 私やっぱりこういう大事な事を運任せに決めるのは絶対良くないと思うのだけどどうかし」

「さーいしょーは」

「聞いて!?」

「だってどうせ円満に決まらないぞ……!?」

「それでもちゃんと考えるべきでしょ!? 考えなかった結果どうなったと思ってるの!?」

「どうせ三択全部同じような目に遭っていた……!」

「じゃあそもそもその選択肢自体を見直しなさいよ!?」

「……ねー、まだー? おーいー?」


 日が天辺に差し掛かるまで、言い争いは続いた。

某お船のイベントも終わり、消費した体力も戻ってきたのでボチボチ再開していきます。

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