【○月×日金曜日 23:42】
【○月×日金曜日 23:42】
私は、神山くんにお姫様抱っこされたまま玄関の鍵を開けた。
玄関に一歩入った彼は、そのまま歩みを止めてしまう。
「神山くん?」
「えっと・・・足痛いだろうけど、ここまでで大丈夫かな?」
「え?」
「こんな遅い時間、女性の一人暮らしの部屋に、彼氏でもないのに入るのはどうかと思うから」
案の定、ここまで来てもイケメン紳士は送り狼にならない。過去の数名の元彼に、彼の詰めの垢を煎じて飲ませてやりたい。
さて、困った・・・どうやってベッドに連れ込もう。今まで、相性を試すのにこんなに苦労したことはない。軽く隙を見せるだけで、スルリと手が伸びてきたから。
「ごめん・・・。痛みが酷いからベッドまで運んでくれるかな?それに・・・私たち・・・恋人になるんだよね?」
照れながら、神山くんの胸に顔を寄せると彼も照れくさそうに笑みを漏らした。
「谷山さんって、意外と甘え上手なんだね」
「ダメ・・・だったかな?」
「ん?俺は嬉しいよ。好きな女性に甘えてもらえるのは」
抱えられた手に力がこめられ、いい雰囲気かもと心の中の小さな自分がガッツポーズをしていた。
「ベッドは一番奥の部屋だから」
「じゃ、お邪魔します」
私を抱えながらも、綺麗に揃えられた革靴。よっと私を抱えなおした。
「重かったよね、ごめんね」
「全然。軽いけど、ちゃんとご飯食べてる?今日も、あまりご飯食べてなかったみたいだからさ」
「みてたの?神山くん」
「見てたよ、ずっと谷山さんを。好きだから」
「・・・・っ」
いい雰囲気で、ベッドに到着。神山くんは、ベッドに膝と付き私の体をそっと横たわらせてくれた。その所作はどこまでも優しくて、お姫様扱いをされてる感じで心地いい。
「ありがとう。神山くん」
体を少し起こすと、神山くんは真剣な瞳で私を見つめていた。
「ごめん、谷山さん・・・・」
切羽詰ったような彼の声に、羊の皮を被った狼を想像した。どんな紳士でも、目の前に食事が出されれば、口をつけてしまうもの・・・。”据え膳くわぬは、男の恥”と昔の人はよく言ったものだ。
神山くんも、男性。
謝罪の言葉を口にした彼の大きな手が、私の足先に触れ・・・・。部屋にはベッドの軋む音が響いた。