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それは某光の巨人だった。  作者: 小野文蔵


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第1章 出会い

世は世紀末!

とか言ってしまえば違う物語が始まるので、ちゃんと20XX年。

エイリアンに同種の証みたいなので触覚付けられたりしてない俺をみてそう遠くない未来だと思ってくれればいい。

ただ、エイリアンに関しては笑えない時代だ。

流れを見た通り、現代には突如前触れなく怪獣が現れたり、侵略前提でエイリアンが来訪する事が約2ヶ月おきにある。

それは陰謀なのか天災なのかは俺の知るよしもない。

3年前に初めて怪獣なる巨大生物がとある山中に現れ、都心目掛けて破壊活動を行った時はそれはもうとてつもなくニュースもSNSも荒れた。

スマホからは地震警報が鳴り止まず、日本全体に避難勧告が出て、一部のお金持ちは日本を見捨て海外へ飛んだ。

ゴーストタウンとまではいかないが、一時期に比べると明らかに今日本国内の人口は少ないとパッと見で外に出るだけでわかる。

静かな匂い、みたいなのがあるんだなこれが。

で、自衛隊は?ってところで嘘みたいな報道が流れた。


「えーまずみなさん、安全の確保を第一にしてください。怪獣の討伐は自衛隊及び『S.C.rap』が行います。付近の方は距離をとにかく取り安全の確保を…」


Scientific Counter RAPサイエンティフィック・カウンター・ラップ

通称『S.C.rap』(スクラップ)

科学的に超現象に迎え撃つというシンプルな意味で作られた名前らしいが、もうなんというか、名前がすでに頼りない。

だが日本の未来は自衛隊と別で組織されたS.C.rapに託されてるらしく、超現象に対する独自の兵器の使用はその隊員にしか許されていないとのことで、専用機の発車には時間がかかり自衛隊設備では怪獣に歯が立たないと。

こりゃ困った。

俺たちはとにかく死なないために今抱え切れるものを金品及び物品あるいは大切な人を抱え上げて怪獣の位置から距離を取ることを余儀なくされた。


確実に歴史に残る大災害?大侵略?だった。

怪獣の行動範囲の建物は全壊。

山は一つ更地になり、地図も書き変わるだろう。

さすがと言うべきな点は、S.C.rapの活躍により怪獣は討伐された上に避難誘導が上手くいき、怪我人こそ出たが奇跡的に死人が出なかった。

名に反して非常に優秀な組織だと十分証明された瞬間でもあった。


かつて海外でもテロが起こるまで存在が明らかにされなかったデルタフォースやCIAなどの組織のように、これを機にS.C.rapは公の組織となり、地球の未曾有の危機は救われた。



はずだった。



その怪獣恐慌第一回を乗り越えたのが11月。

俺の戦いはきっとこの日から始まっていたのだろう。





俺の名前は藍川千才。

アイカワ・チトセだ。

趣味はヤニと酒。

どちらも摂取できない日が1日でもあると俺は死ぬという設定で生きてる。

大学を卒業後、フラフラとアルバイトを続けていた俺はとある人物と出会い、色々あって今働いているアパレル会社『リョウワンカット』に正社員で雇用されることとなった。

俺はその営業部の配属され、目玉商品の直販及び店舗展開のアポ取りから契約までを担当する泥臭い昔ながらの営業をやっているわけだ。

第一回怪獣恐慌は、俺が営業先に出張した際にニュースで見た。

まだ実際にその被害を目の当たりにしたわけでもないこともあって俺は世間が騒ぐほどの心配や怯えを感じていなかった。

まだどこか他人事だと思っていたのだ。

そしてその怪獣の出現に次があるとは全く考えもしなかった。


だがあったのだ。

今まさに、刺々しいティラノサウルスのような怪獣が俺のいる地域に出現し、あらゆる建物を引っ掻き傷つけ、あるいは薙ぎ倒しながら進行を続けていた。

ニュースで見たS.C.rapの戦闘機、赤と白と黄色の3機がその怪獣の周りを蜂のように飛び回り迎撃を行なっている。



俺はそれを会社の窓から遠めに眺めていた。

昔見た怪獣映画でミニチュアが破壊されるような光景をただただ他人事のように缶コーヒーを飲みながら。

だが怪獣の進行方向は会社とは違う方向で、怪獣の体を側面に見るような状態であったし、万が一こっちに向かってきそうなら帰社の準備を整えて避難しても遅くないだろうと思えるくらいには怪獣の進行スピードは遅く、場所も遠かった。

とは言うものの、未曾有の危機に対する恐怖は皆感じるものがあったらしく俺の会社のオフィスはほとんどもぬけの殻だった。


「チトセ、お前は逃げないのか?」

そう俺に聞いてきたのは俺の上司、マツモト・ココロだった。

ココロさんは俺より一年先に入社した先輩で、40歳の小太りおじさんだ。

酒の趣味が俺とあい、先輩後輩の垣根を越え仲がいい。

仕事では互いをライバルとして認め切磋琢磨している。


「ココロさん…。ココロさんこそ、さっさと逃げないとそのビールっ腹抱えながらではすぐ怪獣の餌になりますよ」

そう言うとココロさんは肉でたるんだ顔の口角をニッと上げカッターシャツがはち切れんばかりに飛び出たお腹をぽんぽんと叩き、さすりながら

「うるせえよ。お前もあと数年でこうなるんだ。それに…お前も狙いは一緒だろ?」

「ええ…まぁ。」


そう俺たちの狙いは……

「やるなら今しかねぇ!!アポリスト独占だ!片っ端から俺たちの名前で記録しまくるぜ!チトセ!」

「よいしょォ!!」


よくある固定月給プラス歩合制システムの給与だが、割と還元率のいい会社であるリョウワンカット。

電話番号等の連絡先情報や、対応履歴がPCの社内システムに記録されているアポリストは営業部全体に公開されており、比較的良リストとされる連絡先はSアポと名付けられている

毎日毎日そのSアポの取り合いが営業部内で壮絶に行われている。

なにをもってSアポとするのかはその連絡先の顧客傾向や立地や良い経済状況などある一定の社内基準を超えるか否かで決まる。

もちろん契約が100%決まるわけではないのだが、そもそもSアポ以外は成約率が極端に低い。

そこでいかに早く担当登録として自分の名前をアポリストに刻むか、が稼ぎに直結するのだ。

危機意識が薄く金にがめつい俺たちは、この怪獣侵攻が自分たちの命を脅かすギリギリまで、周りの社員を出し抜くことばかりを考えていた。


「これで来月がっぽり稼げれば、レモネードのみるくちゃんにシャンパンをォ……!!」

意気込みが声に出るココロさん。

レモネードとは俺たちの行きつけのガールズバーだ。

そこで働く巨乳のみるくちゃんはココロさんの推しで、いつも相当入れ込んでる。

「いやいや、あんたいつもそれ俺に半分払わせてるでしょうが」

そういう俺の言葉を無視して力みながらパソコンをカタカタ打ち、マウスをとんでもないスピードでカチカチと押す。


マズイ、Sアポが奪われる。


俺も同じようにパソコンでリスト表示、担当者を藍川に、対応中履歴を残す。

グレーな作業ではあるが、こっちは命を優先した者どもとは違ってちゃんとリスク承知で残っているんだ。

文句は言わせない。


最初は俺たちのパソコンの操作音が静かな部屋に鳴り響き、たまに少々建物の揺れがあるくらいのものだったのだが、30分もするころには音と揺れが強くなった。

いよいよパソコンの音が聞こえにくくなるくらいに建物がガタガタと揺れ出した。


「ココロさん、そろそ…」

と言いかけた時だった。

ピシッと窓ガラスが斜めにヒビが入った。

怪獣の方をしばらく見ていなかったが、さっきより少々進行方向がこちらを向いていた。

この建物18階建ての14階。

おそらく怪獣の大きさは40メーターそこそこ。

近くにくれば胸部がこの窓にくるくらいだろう。

よりにもよって胸元が刺々しい形をしている。

あんなものが近くに来たらたまったもんじゃない。

身体のありとあらゆるところに棘のついたティラノサウルスみたいな。

ちょっとかっこいい。

顔をゆっくり揺らしながら歩くその怪獣と、一瞬だけ目が合った気がした。


イヤイヤイヤ、こんなことしてる場合じゃない。

ココロさんはぶつぶつと呟きながらSアポに没頭してる。

パソコンに俺が向き合ったその時だった。


ゴゴゴ…ドォオオオン!!!!!!

と大きい揺れとともに窓ガラスが全壊し、突風が社内に吹いた。

揺れが大きくなった時点でたまたま俺は「うぉあ!!」っと声を上げながら腕で顔を守りしゃがんだのでスーツには傷が入ったりしたが、幸い無傷で済んだ。

だが俺の目の前にあったパソコンは爆風で吹き飛んでしまった。

「大丈夫ですか!?ココロさん!!」

そう心配する俺を無視した彼は、飛んだガラスが横から刺さったのかこめかみからドクドク血を出しながらも目を血走らせパソコンに向き合っていた。

窓から見て1番端の奥に座っていたココロさんのパソコンは無事だったようだ。

怪獣が叫ぶ声が今度ははっきり聞こえる。


いよいよマズイか……?


そう思い始めたときにココロさんは俺の方にゆっくり首を向け、ぎこちなく微笑みながらこう言った。

「…………。お先に失礼します。ッププ」


ブチッと、自分の頭の線が切れる音が聞こえた。

窓から奥に向かって縦長の机の上に飛び乗った俺は、まだ無事だったココロさんの横のパソコン目掛けてダッシュした。

斜め向かいにいたココロさんは俺に気付き、右手のマウスを手放し、俺の座ろうとするパソコンのマウスを机からはたき落とした。

「てめ…」

血の昇った俺は走った勢いでサッカーボールを蹴るみたいにココロさんのキーボードを蹴り飛ばした。

「あああああああ!!みるくちゃんんん!!!!」

「うるさいわ!余計なことしたお前が悪い!!」


俺たちはこうなると互いに言葉が荒れる。

叫ぶ怪獣と、ある種怪獣。

どちらのせいか建物はさらに揺れる事になりココロさんはバランスを崩して情けない声を上げながら転げた。

そのまま飛び椅子に座る俺。

すぐさまパソコンの電源を入れ、マウスを拾い上げ、リストを立ち上げた。

よし、今のうちに…。

そうしている俺に、紙ゴミや消しゴムが飛んでくる。

寝転がったココロさんが投げているのだろう。

関係ないね。無視無視。

俺だって数字を上げたいし、稼ぎもしたい。

ココロさん保有のSアポも、システムの仕様上閲覧と編集が可能だ。

そのうち二件ほど、さりげなく俺の名前へ変更する。

この調子でどんどんいくぞ。

ゆらゆらと起き上がったココロさん。

横目でしか見えていなかったが、頭を打ったのか足元がおぼつかない。

ふらふらとこちらへ向かってくる。


何かしてくるかと身構えたが、そのままのそっとココロさんは俺の隣の席でパソコンを立ち上げた。

と思いきや俺の足先を思いっきり踏んづけてきやがった。


声にならない叫びをあげた。

負けじと俺からも脇腹へ肘打ちを入れてやった。

こうしてる間にも怪獣は更に進行を続け、炎を吐いているのかここまで割れた窓から熱風が吹いてくる。

揺れも大きい。

そろそろ逃げなくてはマズイ。

それは俺たち2人ともわかっていた。


だが、それ以上にプライドが先行した。


『こいつより先に帰ってはいけない。

来月の羽ぶりが決まる瞬間だ。』

馬鹿なんだろう。

馬鹿なんです。


互いに横から殴り、蹴り、肘を入れ、髪を引っ張る。

俺はココロさんの側頭部を鷲掴みして、ココロさんは俺の髪の毛を掴み引っ張る体制で落ち着き、それでも俺たちは作業を止めなかった。


「……ほーら見てくださいよ。怪獣もうすぐそこまできてますよ。俺いやだなぁココロさんが怪獣に食われるの。」

「お前こそさっさと帰った方が身の為だぞ。お前はまだ若い。命を粗末にするな。みるくちゃんはオレに任せろ」

互いに掴む力がギギギギと強まる。

「なーにがみるくちゃんだ。歳を考えろ。そしてそのだらしない腹と顔の肉を見ろ。ここで頑張ったシャンパンおろしたとて、そっから先に何があると思ってるわけ?さぁ帰れ豚。」

「じゃかしいわガキ!お前もスーツで隠れてるけど見た目に反して結構だらしないポッコリ腹なの知ってんだからな!

んでもってお前が金使うにはせいぜい安酒とタバコとジャンクフードくらいだろうが。

お前とはな、懸けてるもんが違うんだよ!」

「あーーーじゃあはっきり言ってやるよ!俺聞いちゃったから。


みるくちゃん彼氏いるよ。」

「え?ま…?」

そこまでココロさんが口を開いたところでまた建物が揺れて俺たちは吹っ飛ばされた。

怪獣の叫び声が聞こえる。

おぞましい悪を感じさせるというよりは、理由なき暴力をそのまま空気にぶつけているような…そんな感じだった。


俺は割れた窓ガラスに身を乗り出すような形になっていた。

あともう少しで落ちていたところだった。

少し体を起こしてココロさんの方を見るとココロさんはまた奥の方で気絶していた。

「ココロさん!オイ!大丈夫か!?」

返事はない。

だが呼吸はしているのは見てわかったのですぐに心配はやめた。

パソコンの方へ向き直ろうとしたその時、さっきまでの熱風ではなく、


暖かい…優しい風が吹いた。


そして怪獣の前が眩く光った。


キラキラと光るものは見た事はあったが光自体がキラキラと音を発するのは初めて体感した。

音と共にその光はどんどん一箇所に集まっていき、『ある形』を作った。



「………は?……バカな。夢なのか…?」


俺がそう溢したのも無理はない。

いい歳した俺が、空想と信じ続けたアレ。

子供の頃にテレビで見たアレが、

今怪獣の前で片腕をマッスルポーズ、もう片腕を握り拳で突き上げている。


あれは、アレは……


誰でも知っている、いわゆるそれは『某光の巨人』だった。


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