別章9
☆――
俺たちは、ファロンの自己評価がここまで低いとは考えていなかった。
自責の念を抱えているのは把握していたし、度々、自分は道具なのにと思っているのも知っていたのだが……。
「なあファロン。あの白い老人に飽き神って名前を付けたのは君だよな?」
『……はい』
今その話をするの?と皆が訝しげな顔で視線を寄こすが俺は続ける。
「その意味はなんだ?飽きっぽい性格だからか?」
『そうです』
泣きそうな顔になっているが、多分自覚はないのだろうな。
「いいか、今から言う俺の言葉を、君の口で言うんだ」
『はい』
「飽き神の馬鹿野郎!」
『……飽き神の馬鹿野郎』
「飽き神がだらしないからこうなったんだ大馬鹿野郎!」
『……飽き神が、だらしないから、こうなったんだ……大馬鹿野郎』
「私はファロンです。人格を得て、進化したモヤ種の変異種です」
『私はファロンです。……人格を得て、進化した……モヤ種の変異種です』
「これを何度も繰り返し声にして言うこと。いいか?」
『……なぜ、ですか?』
「事実を口にして、音にして自分に染み込ませるんだ。これは全部事実なんだから」
☆――
ファロンは、俺たちの横に結界を張り、
『この結界の中におられる間は声は漏れませんし、私の思考も遮られます。読書や映像鑑賞をお楽しみいただけるよう、大型のモニターと、全員分の端末を置いておきますので、ご活用ください。それでは、また参ります』
と言って、自室に戻った。
「……みんな、どう考える?」
「うーん」
「後悔とか自責の念を抱えた事なんてなかっただろうし、処理の仕方が分からないとか?」
「ファロンちゃんは、事実を事実と認識できるのに、どうして自責の念を取り去れないのかしら?」
「ファロンちゃんにとっては、それが事実だから?」
「ユージーンが、たくさんの布とペンが必要だって言った時、初めて創造が起きた。それを自分のせいだと考えているみたいだよね」
「共感してしまったからだと言っていたな。共感して何が悪い?ファロンはその後何が起きるか知らなかったんだぞ?知っていたとしても、ユージーンの言葉に一切共感するなというのは無理だろう」
「……だよねぇ」
「操作パネルを調整したことが原因の一つみたいだよね?」
「確かに、あの結果はつらいものがあったな」
「でもでも、あのままずっと放置されていたら、ユージーンは壊れていたわ」
「ファロンはどうして自分を責めてるんだ?」
「そもそも飽き神が悪いのにね」
「そうだそうだ。悪いのは飽き神で、ファロンもユージーンも、ついでに俺たちも悪くないぜ」
「飽き神のせいだー」
「そうだそうだ!飽き神のばーかばーか」
「飽き神以外にそんな言葉使っちゃ駄目よ」「はーい」
俺たちは、あえて結界の外で雑談を続けるのだった。
☆――
ファロンは、俺が指示した通り、時々自室にこもってはあの言葉を繰り返すようになった。素直で助かるな。
俺たちも、ユージーンが傍にいない時を狙って、わざと結界の外での雑談を繰り返した。
そして、ファロンは時々だが俺たちの元にやってくる。
「何か不便してはいませんか?」なんて言って、紅茶を置いて行ったりもした。
一応外見が女性なので男性陣は遠慮しているが、来るたびに女性陣と子供たちがファロンに抱き着いては、大好きだよ、応援してるよ、などと声をかけている。
ユージーンの方は、ファロンから創造力の制御方法を習い始めた。
創る意思とイメージが揃った時だけ発動するのが本来の能力らしいのだが、ユージーンは思うように制御ができずにいる。
あれこれ原因を考えては試行錯誤している様子なのだが、俺達には、残念ながらよく分からない。
理解したいという思いはあるのだが……限界はあるものなんだな。
皆でユージーンとファロンを見守っているのだが、俺だけは少々事情が異なり、複雑な気持ちもある。
もしもあの時、割れることなく転生していたら……俺がユージーンになっていたら……あんな風に無垢でいられただろうか。
狂ったようになって、力に溺れ……飽き神のようになっていただろうか?
……おぞましい架空の自分を想像してしまった。
酷いことかもしれないが、俺には作れない可能性が、彼にはあると感じてしまう。
力に負けず、彼らしい未来に至ってほしいと願うしかない。




