第八十二話
「おい」
評議会を終え部屋を出たところで、不意に声をかけられてカーターは振り返った。ゼル・アッシュヴァルだった。こちらを見据えて立っている。並ぶと意外と小柄で、カーターの胸くらいの身長しかなかった。
「なんでしょうか」
「さっきの話だ」
「さっきの……とは?」
「転移だよ。転移。罪人がゼファレインのクズとしたって報告だっただろ?」
「——はい」
“罪人”という言葉を聞いて、カーターは自分のことでもないのに胸が痛んだ。ダインは、罪人なのか。
「祭器に隠されている機能だ。風結宮の奥まで立ち入ることができるのは神職に関わりのある、それも相当の役職しかいねえはず。最上位の神職引きずり出して、そいつに行き先調べさせてこい」
「待ってください、どうしてそんなことがわかるんですか」
舌打ちをして、ゼルが目を吊り上げる。
「アホかお前。アイツらが転移の手段を誰にもバレず、どうやってン百年も隠せるか考えろ。関係者を絞り切って、人目のつかない場所から、これまた人目のつかない場所に転移しているんだよ」
「人目のつかないですか。転移先がランダムになってる可能性はないのですか」
「ありえねえ」
ゼルが眼鏡を指で押し上げる。
「古文書で描かれてきた転移ってのは、一つの例外もなく“ワープゾーン”だ。地点Aと地点Bを繋ぎ、そこを創霊力を媒介に移動する。」
着ていたコートをまさぐると、二枚のコインが出てきた。ゼルは一枚ずつ両手に持って掲げてみせ、それを一枚に重ねる。
「合わさった銀貨のように、地点Aの向こう側に地点Bをくっつけるってことだ。あらかじめ転移先を定めなきゃなんねえ」
「出口を地点Bとするなら、その地点Bを毎回違う場所に設定できるのでは?」
カーターの言葉に、ゼルは少し感嘆したような声をあげ、銀貨を一枚放って寄越した。
カーターとはおそらく年齢としてはあまり差がないはずなのだが、普一回りも二回りも歳上のような思慮深さがゼルには見え隠れする。
「観点は正しいが、不可能だ。仮に地点Bを動かしたいとしても、新しい転移先の設置には途方もない創霊力を要する。やればおそらく、大陸の端から端まで創霊力の波動が行き渡るだろうよ」
「だから、ダインは“神職しか知らない転移先”に逃げ込んでいる、と考えられるのですね」
「その通りだ。何人知ってるわからねえ行き先だ。それこそジュールが言ったように開戦を突きつけてもいいんだが」
ゼルは恍惚とした表情で言葉を吐き出す。
「転移。一回やってみてえんだよ。確実に話、つけてこいよな」
「承知しました」
カーターは敬礼し、転移の瞬間を想像して身をよじらせるゼルを尻目にアルバソリスを後にした。




