第八十話
「で」
カーターが部屋に入ると、見るからに不満を募らせた様子でゼル・アッシュヴァルが席についていた。
「よっぽど大した用なんでしょうね。緊急の評議会メンバー招集って、アタシが就いてから初めてなんだけど」
ゼルを諌める者も、同調する者もいなかった。重い沈黙が続き、ゼルは舌打ちをする。
ジュール・コルヴァス、エルディア・ルミナリアもすでに見えていたが、ナイルズ・ヴァルケンだけがまだ来ていない。カーターはジョゼの斜め後ろに立ったまま控えていた。
カーターは部屋に入ってすぐから、気になっていることがあった。ジュールの横に、見慣れない男が立っている。
グラヌスクの騎士は火のゆらめきを象徴した、真っ赤な鎧を纏う。五摂家の立場になってはじめて戦場で目立つように、黒や、白などの意匠が凝らされた鎧になる。目の前の男は真っ白。白銀のような鎧だった。
(こんな男、城内でも見たことがないぞ……)
カーターは訝しげに男を眺める。男は武人というような風体でもなく、どちらかといえば細く、不健康そうな印象を受けた。だが、目には有無を言わせぬ力が奥にある。カーターは得体の知れない男の存在に言い知れない不安を覚えていた。
荒々しく扉が開けられる。顔を赤くしたナイルズ・ヴァルケンだった。
「こんな時間に集まるなんて聞いてねえぞお」
あからさまに酒を飲んだ、といった雰囲気。ジョゼが呆れた様子で頭を抱えた。
「ナイルズ。すまないがそれだけ重大ということだ。早く座ってもらえるかな」
ジュールの声に、ナイルズはへいへい、と席に着く。これで全員。
「緊急ですまないが、重大な案件が生じてね。改めて評議会を始めよう」
ジュールが目配せをすると側に控えていた、白銀の鎧が一歩前に出る。
「みなさま」
勿体つけたような所作で、深々と男が礼をする。
「ご多用のところ失礼いたします。私王器観測局、主席観測執行官のトゥガ・ミストラクと申します。以後お見知り置きを」
「ほう……?」
ジョゼが眉を顰めた。カーターは聞いたことすらない職名だ。ミストラク家といえば、コルヴァス家の人間だったはずだが——。
「御託はイイからさっさと本題話せよ」
「ゼル」
「分かってるわ。手短にしろって」
ゼルをエルディアがたしなめる。いつもこうなんだと、さすがのカーターにも理解できた。しかし、これを受けてトゥガは気にした様子もなく、にへらと笑って言葉を続ける。
「これは失礼。では簡潔に。私が派兵を任されています、“グラディス”の人間から先ほど急ぎの連絡を受けまして」
「“グラディス”だあ?」
ナイルズが口を挟むが、トゥガはもう止めるつもりはないようだ。
「先ほど我が国の兵が、ゼファレインの聖域、“風結宮”の本殿を破壊、内部で祭事者である供風子を殺害したとの報告を受けております」
「何ですって!?」
部屋の空気が一気に張り詰めたようにカーターは感じた。エルディアが悲鳴のような声を上げる。ゼルは舌打ちして小さく毒づいた。
「理由は?」
唯一、最年長のジョゼだけはいつもと同じ様子で聞き返す。
「は。何でも、“例の一行”がゼファレインを潜伏先にしていたようで。何やら狙いのために風結宮に侵入し、供風子と戦闘したところに立ち入ったようです」
ダイン? アイツらは風のアポストルに連れられていたはずだ。なぜゼファレインの勢力と敵対を?
カーターの脳裏はハテナに埋め尽くされた。




