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冥闇不道のアポストル  作者: 茅井 祐世
第五章 風と共に
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第七十四話

 広間は石、埃、砂など、ついさっきまで壁を構成していた物たちの粉塵で覆い尽くされる。衝撃と共に吹き込む爆風に押しやられ、ダインは顔を覆う。


「いいか」


 轟音で耳鳴りのする中、カタバの声が聞こえてくる。


「あと少しで移動できる。身を守れ」


 声色に焦りの感情は一切ない。実直に、自分の為すべきことだけに意識を向けていて、この現状に動揺などは微塵もしていないようだった。


「ダイン、パレア、大丈夫!?」


「こっちはなんとか。ダインは?」


 次いで2人の声がか細く聞こえてくる。どうやら無事らしい。


「僕も大丈夫!」


 衝撃波と共に吹き込んだ熱風が辺りを掻き回す。すぐ前にあった供風子の凍りつくような殺意は鳴りを潜め、ガラガラと広間の壁が崩れるであろう、岩の転げ落ちる音と風の音があたりを支配した。


 吹き込んだ熱波は散々広間をのたうち回ると、やがて出口を見出して急激に去っていく。広間に空いた大穴へ、粉塵と共に堰を切ったように流れ出し、視界が急激に開けていった。


 大穴を開けた主の姿が入り口に見えた。


 グラヌスクのものであろう白銀の鎧に、血の迸ったような、真っ赤な装飾がなされている。身の丈ほどの大剣を手にして、赤い長い髪をしていた。


 幼い少女だ。


 まるで、自分とそう変わらないくらい……。


 少女の顔に、見覚えがあった。


「リン?」


 少女は底冷えのする声で、投げ捨てるように返した。


「そこにいたか。闇の創霊力アフレイタス


「リン、僕だよ、ダインだよ! わからないの!?」


 リンは、ダインを反応もなく眺める。


 “闇の創霊力”。


 僕のことを、彼女はそう呼んだ。


 何の感情も読み取れない、虚な瞳。


 固く結んだ唇。


 子どもの頃からずっと横にいた、見慣れたはずの顔なのに、何かが違う。


 ダインはひどく精緻に象られた木像でも見ているような気分を覚えた。


「リン、一緒に帰ろう。僕は君に会いたくて」


 鈍い金属音。


 激しくリンの前で火花が散った。


 リンはいつのまにか、携えていただけだったはずの大剣を体の前にかざしている。


 ダインの背後。


 ダン、と言う音の先に供風子の姿があった。


 頭から血を流し、高い所から着地した直後のような姿勢で屈み、先ほどカタバを刺した時とはおよそ比較にならないほどの怒りを発露させながら剣を構えている。


 矛先は、リンに向けてだ。


「ゼファレインの聖域をグラヌスクの人間が破壊したことの意味を理解しているのか、貴様?」


 リンはダインを見据え、目線すら遣る様子がない。


「ゼファレインの民間人への攻撃は命令されていない。これは警告だ。次はない」


「民間人?」


 供風子がわなわなと体を震わせる。血が滴り、足元にパラパラと散る。


「私はこの地の守り手。その役目を果たすために生きる存在。そして、」


 剣の切っ先をリンに向け、背後に凄まじい勢いの風を呼び起こす。


「貴様のような外敵を排する者だッ!!」



 その瞬間、供風子の背後に複数の光の環が現れる。


 仄かに光を伴って浮かぶそれは、創霊力の結実した姿。


 歌うような調子で、供風子が詠唱する。


【——風よ。巡り、流れ、忘れられた空の道を思い出せ。】


 供風子の背後に重なる円環がそれぞれ回転し、輝きを増す。


【地を縛る重みを離れ、空に残された古き往路をひらけ。】


 回転する円環は風を集める。


 強く。強く。強く。


【彷徨う都の風脈よ、いまここに交わり、ひとすじの航路となれ。導け。迷える者の足に、空を歩む権利を。——開け、風路ッ!】


 風が止む。


 並んだ円環がぴたりと動きを止める。それは爆発の予兆。


 リンがため息をつく。はじめて供風子を見据え、両手で握りしめた大剣を振りかぶる。


風路開門ゼフィロス・アークッ!!!!》


 円環が凄まじい風圧を解き放ち、供風子の姿が消える。


 光速に及ぶ、一撃必殺の突撃。


 ダインたちはその速さを目で追うことすら叶わなかった。







 ベチャ、という音を後から引き連れ、何かが大穴の両端にぶつかる。



 か細い金属音を鳴らして振り下ろされたリンの大剣の横に、供風子の手にしていた剣先が転がった。





 供風子の身体は二つに裂け、大穴を挟み込むように転がっていた。


 その体から、すっかり忘れていたかのように、じわりと血が流れ出した。

 

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