第9話 札幌市立病院①
札幌市立病院の警備当直室の電話が鳴った。
「もしもし。こちらは札幌市立病院です。救急であれば119番にお願いします」
警備当直はよくかかってくる救急電話だと思い、不機嫌そうに電話を取った。
「わたくし札幌方面北警察署の泉と申します。先ほど、救急で搬送された当署の若杉の件で重要なお話があります。責任者の方はおりますでしょうか?」
「責任者? どういった内容? 当直の責任者は私だけど」
警備当直はさらに不機嫌そうに答えた。
「失礼しました。本日、当署の若杉という者がそちらに救急搬送されましたが、伝染病の可能性があるので接触した可能性のある方は隔離し、病院を封鎖できないでしょうか?」
「封鎖!? 何バカなこと言ってるの!! ここには100人以上の患者が入院しているし、そんな話は引継ぎもありませんよ!! あなた本当に警察官ですか?」
「いきなり申し訳ございません。信じてもらえないかもしれませんが、人が狂暴になる伝染病というか......」
泉はどのように伝えたら信じてもらえるか苦慮していた。
「そんな話、知りませんよ。万が一そうなら、先生たちから話がありますからね。いたずらなら切りますよ!!」
「ちょっと待ってください!! もしかしたら、ゾンビにな......」
電話を切られた。でも、信じてもらえそうもない。
その時、警備当直の前を帰宅しようとしていた高井が通りかかろうとしていた。
「お疲れ様です」
高井は警備当直に会釈をしながら、通り過ぎようとしたところ、警備当直に呼び止められた。
「先生!! ちょうど良いところに来ました。たった今、警察だっていう変な奴から電話がありまして」
「どうしたのですか?」
話好きの警備当直に捕まってしまった。また、くだらない話だろう。早々と切り上げよう。
「今日、搬送された警察官が狂暴になる伝染病だって言うんですよ。それも病院を封鎖できないかって」
「そうですか。今日、搬送された警察官を担当したのは私ですが、そんなことはないと思いますが」
「そうですよね。当直していると、たまにいたずら電話がくるんですよ。世の中には暇な奴がいますね。先生みたいに立派に働いている方がいるのに」
なぜかいつも私の機嫌をとろうとする。今日は疲れたので、早く帰ろう。
「私もただ仕事しているだけですよ。念のため、看護師に様子を見るように伝えてください。では、お先に」
高井はそう言って、警備当直の前を通り過ぎ、病院を後にした。
「分かりました!! お疲れ様でした!!」
「先生に言われたなら仕方ないな。そうだそうだ。今日の夜勤の看護師は新人だな。少し脅かしてやろう。フフフ」
警備当直は、ニヤニヤしながら内線電話で5階のナースステーションに電話をかけた。
「はい。5階の小野です」
夜勤の新人看護師である小野が電話をとった。
「警備当直です!! どうだい? 夜勤は慣れたかい?」
「はい!! 大丈夫です!!」
「先生から頼まれたんだけど、今日搬送された警察官の様子を見てきてほしいのさ」
「分かりました。手術が終わってからはずっと寝てますけどね」
「それがさ。実はゾンビになる伝染病に感染しているかもしれないんだって」
「えー!? やめてくださいよ!! そういうの苦手なんですから!!」
「うそうそ。フフフ。でも、先生からの言葉は本当だからね」
ガチャン!! 小野は受話器を強く置いた。あの警備員は新人いじめをするので有名な人だ。だから今日は夜勤をしたくなかった。この間も、病院に幽霊が出るって話をしてきたし。とは言いながらも、先生の指示なら仕方がない。様子だけ見たら、すぐに戻ってこよう。
病院はすでに消灯しているので、廊下は薄暗く気持ちが悪い。小野はライトを片手に若杉のいる502病室に向かった......