第16話 アイスブレスと冷蔵庫①
3月中旬 羊の出産ラッシュが終わり、川辺の開拓地から帰ってきたリンは、フェン・ドラといっしょに、ねぐらで、窓越しの陽光を楽しんでいた。
(牧羊による肉の安定供給のめどがたった。
肉需要を狩りで賄っていた時は、獲物を捕まえればすぐに解体して調理して食べる。
食べきれなかった分も調理してマジックバックに保存、の日々であった。
一応燻製・干物などの加工保存も考えたり細々と実行していたが
保存するほどの肉が余らなかったという現実もあった。
しかし 牧羊で 肉を賄うとなると・・・
出産シーズンは1年に一度、ゆえに食べごろ羊の発生も1年分一斉に発生!
さらに家畜の肉は 熟成することによってうまみが増す!
それゆえ 時間停止のマジックバックではなく、保冷による保存も本格的に考える必要が出てきた。
なにしろ リンが人間としての一生を終えた後もベルフラワーの人々の生活は続くのであるから リンがつきっきりで ベルフラワー領の人間の世話を焼き続けることはできないのだから・・
リンの空間収納魔法依存から脱却する必要があるのだ!!)
などと考えならリンが冷蔵保存について悩んでいる時、フェンはいつものように興味なさそうな顔で寝ていた。
(自然の摂理に従えば、氷点下の環境でもない限り 肉の保存なんて無理だ。
だからこそ 強い肉食獣が獲物を倒して食べた残りを順番にほかの種族が食べていき 最後は虫やバクテリアが食べることによって 食の循環がなりたってきたのだろうが!。
獲物の保存なんて なんでも独り占めしたがる人間のたわごとだ!
「食物連鎖」などと名付けて、一番最初に食べるものが一番強くてえらい、それが人間だなどと妄想するのは 人間の驕り高ぶりにすぎん!
だから人が栄えれば、ほかの生き物はすべて絶滅していき 大地が荒廃するのだ!)
がフェンの本音である。
ちなみにリン・フェン・ドラの3人の間では、この程度に真面目に考えているときは、わざわざ言葉にしなくても互いの思考は筒抜けの間柄だ。
まして同じ部屋にいるときは。
相手に筒抜けであるのを承知で あえて会話の形式にしないのは、論戦したくないという意志表示でもあった。
「ねえぇ 肉はある一定の条件で保存すると、肉の中のたんぱく質がアミノ酸にかわってうまみが増すのよ」
リンの言葉に耳をピクリと動かすフェン。(でも まだ知らん顔で寝ている)
「マグロも冷蔵すれば鮮度を保ちながら熟成させられるわよ」
(わざわざ声に出してまで語り掛けてくるとは、おねだりか)
「フン 冷やしたければ そこなドラゴンにアイスブレスを吹かせて、その冷気をとじこめておけばよいではないか」フェンはぶすくれながら言った。
「わぉ! その手があったか!
ドラちゃんアイスブレスは吹けるの?」
「おまえ それも 魔法依存じゃないか?
ドラを人類にしばりつけて 冷蔵庫生産機にするのか?」
フェンはあきれた顔で突っ込む。
「うーん
おいしいお肉が食べたいなぁ
私の空間魔法の発動による負担を抑えたいなぁ
出し入れするのがけっこうめんどうなのよねぇ。
時々自分が 冷蔵庫の扉になった気がするのよねぇ
中身が必要な人のそばに 私がわざわざ行かなくちゃいけないから・・・
もっとおいしくお肉をたべた~い♡
今の暮らしをもっと快適さにした~い ってやっぱわがまま・・だよね」
しょんぼりするリン
「ぼくもリンちゃんと一緒に居る間は快適に暮らしたいから、協力するよ。
でも まだファイヤーブレスを覚えたばかりだから」ドラ
「だったら」
フェンは一石二鳥を狙った アイスブレスの練習場を紹介することにした。
(リンが本気でこの星の人間どもへの関与をやめるつもりでいるのなら
人として生きるのを今回かぎりにするのなら
最後くらい 人としての幸せな時を過ごさせてやりたいものな。)
※ 本日夜8時 2回目の投稿をします
(参考)
「熟成」を識る https://www.amakaratecho.jp/ryouririka/05
あまから手帳
・鴨肉:風をあてて12日間熟成
・鯛:常温で4~5時間 (ふつうは安全性を考えて氷温で4~5時間)
昆布〆4~5H 乾燥生ハム〆 ドライトマト〆 で冷蔵17h
・豚肉:風にあてる またはオリーブづけで8日間




